悪路走行もなんのその! 災害救助に活躍する“ポラリスレンジャー”とはどんなクルマ?

ジープでもなくジムニーでもない。でも、ものすごくオフロード走破性が高そうなこのクルマ、一体何だと思いますか?

実はこれ、東京消防庁で導入している「POLARIS(ポラリス) レンジャー」という名の全地形対応車両。2020年4月に配備され、さまざまな現場で活躍しています。

では、具体的にどんな任務を担っているのでしょうか?
実際にポラリスレンジャーを運用している東京消防庁「即応対処部隊」の隊員、秋葉駿さんにお話を聞きました。

いち早く現場に到着して情報収集

まずは、ポラリスレンジャーを運用する「即応対処部隊」の任務から教えていただきました。

  • 取材に答えてくださった秋葉さんとポラリスレンジャー

「即応対処部隊は、大規模災害に対応するため令和2年2月1日に新設された部隊です。
インフラが寸断され、要救助者がいる現場まで急行することが難しい場合に、真っ先に現場にかけつけ情報収集を実施します。

そして、救助活動を円滑にするための情報を、後着部隊に伝えることを大きな任務としています」(秋葉さん)

普通の消防車や救急車が現場に入れない場合に、その状況を伝えるのが任務。そこで走破性の高いクルマが必要とされるわけですね。

「はい。地上では特殊車両を使って、大型車両が走行困難な場所に入っていきます。ポラリスレンジャーも、そのための車両のひとつです。

ほかに空からはドローンを、海や増水した河川の場合は舟艇などを使って、情報収集や初動の救助活動を行いながら、後着部隊に情報を伝えます」(秋葉さん)

  • 荷台を持つピックアップスタイル

  • 最低地上高はおよそ300mm

クローラ(キャタピラー)でさらに走破性アップ

ポラリスレンジャーの主な活動拠点は都内で、火災や豪雨災害、水難救助などの災害時に既に活躍しているそう。東京消防庁の車両ですが、他県への派遣実績もあり、最近では2021年7月の「熱海市伊豆山土石流災害」で大きな活躍をしたと言います。

「熱海は急勾配の多い街ですので、瓦礫やぬかるんだ斜面でも走れるポラリスレンジャーが役に立ちました。
ほかの車両が入れない地域まで進み、『どこに要救助者がいる可能性があるのか』、また『どこに指揮本部を設置するか』などの情報収集を行いました」(秋葉さん)

ポラリスレンジャーのスペックを見てみると、オンデマンド式※の4輪駆動。しかも全長296cm×全幅152cmと車体は小さく、重量も1.4トン程度しかありません。(※オンデマンド式4WD:普段は二輪駆動だが、必要時には自動的に四輪駆動になる方式)

ぬかるみでもタイヤが空転せず、駆動力を伝えるデフロックも装備。
この身軽さと走破力を生かして、普通のクルマでは走れない場所へも入っていくというわけです。

また、もしも完全にスタックして進めなくなったとしても、2台でチーム行動をしているので、ウインチなどで脱出を助けることができます。また、パンクしても走行できる特殊タイヤを装着しているため、鋭利な瓦礫を踏んでも多少の悪路は大丈夫とのこと。

「整地された路面での最高速度は時速90キロで、安定した走行ができます。
また、通常のタイヤでは走行できないような悪路では、クローラ(キャタピラ)に換えることで、さらに走破性を高めることができます。荷台に人員を乗せて、現場に急行すると同時に救助活動を行うこともありますね」(秋葉さん)

  • 2台でのチーム編成による訓練風景

  • クローラ(キャタピラ)装着によりさらに走破性を高めることができる

通常の火災や水難事故でも出場するほか、訓練で公道を走ることもあり、その珍しさから、一般の人に声をかけられることもあるとか。
車体は小さくても、公道で運転する際は大型特殊免許が必要です。

ちなみに即応対処部隊では、ほかにも船舶やドローン、クレーン車といったさまざまな車両などがあるため、いろいろな免許や資格を所有している隊員も多く、秋葉さんも大型特殊のほかにクレーンの資格を持っていると言います。

ポラリスレンジャーに乗ってみた!

なんと今回、実際にポラリスレンジャーに乗せていただきました。助手席インプレッションを少し、お届けしましょう。

まず左ハンドルである点に目がいきましたが、このクルマを製造するポラリス社がアメリカの会社であることを考えれば、それは当然のこと。
それ以上に強く印象に残ったのは、“窓がない”こと!

  • 座席の横に窓はなく簡易なドアのみ

  • 運転操作は普通の乗用車と変わらない

取材時は、時速30キロ程度で走行してもらったのですが、窓がなく外気を常に感じることや2気筒エンジンのサウンドにより、2倍ぐらいのスピードが出ている体感でした。
舗装路よりも、道なき道を走るためのクルマのため、走破性は非常に高いといった感じです。

「変速機はCVTのため、運転は難しくありません。

実際に出場するときは豪雨や大雪というケースも多く、窓がないのでそのまま車内に入ってきますが、現場の近くまでは重機搬送車に積載して持っていくので、このクルマで長距離を走ることはありません。

ちなみに、座席後部には、空でデータ収集をするドローンとのデータリンクやGPSのシステムが設置されています」(秋葉さん)

  • 高い走破性で即応対処部隊の活動を支えるポラリスレンジャー

現在、東京消防庁でポラリスレンジャーの運転ができるのは、即応対処部隊の中でも秋葉さんを含めた15人程度の隊員しかいない。

車体は小さくても、任務は重大。一人でも多くの人の命を救うため、今日もポラリスレンジャーはスタンバイしています。

▼東京消防庁
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/

(取材・文:斎藤雅道/写真:斎藤雅道・東京消防庁/編集:木谷宗義type-e+ノオト)

[GAZOO編集部]

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