【2022スーパー耐久第1戦鈴鹿】GR86とBRZがカーボンニュートラル燃料で参戦! デビュー戦から激熱のガチンコバトル!!

  • GR86とBRZがS耐にカーボンニュートラル燃料で参戦

3月20日、「ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook」の開幕戦の決勝レースが鈴鹿サーキットで行われ、カーボンニュートラル燃料を使用する28号車ORC ROOKIE GR86 CNF Concept、61号車Team SDA Engineering BRZ CNF Conceptともに、デビュー戦ながら5時間のレースを大きなトラブルなく走り切った。

今年のスーパー耐久の注目の話題の一つは、新たにカーボンニュートラル燃料を使ったGR86とBRZがフル参戦をすることだろう。
昨年発売が開始されたスバルのBRZ、そしてトヨタのGR86をベースとしたニューマシンがスーパー耐久にデビューしたことだけでも、モータースポーツ界にとってはいいニュースではあるが、さらに、その2台は通常のガソリンを使用せず、「カーボンニュートラル燃料」で走るというのだ。

昨年、スーパー耐久にST-Qクラス(STO(スーパー耐久機構)が認めたメーカー開発車両が参戦可能なクラス)が新設され、同5月、富士スピードウェイでの24時間レースにトヨタが水素エンジンを搭載したカローラスポーツを投入した。これをきっかけに、モータースポーツの現場におけるカーボンニュートラルに向けた技術開発という流れが起きた。
その流れは今年も継続、さらに発展し、新たな技術の選択肢としてカーボンニュートラル燃料が登場したのだ。

このカーボンニュートラル燃料とは、スバルのリリースでは、「二酸化炭素と水素、その他一部非食用のバイオマスなどを由来とした成分を、ガソリンのJIS規格にマッチさせるように合成して製造された燃料」と説明している。

また、スバルによると「プロドライバーでも、言われなければカーボンニュートラル燃料であると分からない」という。だが、通常のガソリンと比べて、燃料と含有される空気のバランスが若干異なるため、少し補正するセッティングを行っているというが、それ以外はエンジンに大きな仕様変更は加えていない。

しかし、この燃料は最終形の仕様ではなく、量販車での実用化を目指して、評価をしている最中だという。
カーボンニュートラル燃料を普及させるためには、既存の設備で安く生産できて、従来のエンジンの仕様をなるべく変更する必要のない性状を、自動車メーカーからも提案して、製造メーカーと自動車メーカーが一緒に作っていく必要があるというのだ。
今でもオクタン価違いのガソリンによってエンジンの点火時期は多少調整されているが、どんなカーボンニュートラル燃料もそのような範疇で、基本的には何も変えずに対応できるべきだと、トヨタ、スバルのエンジニアは口を揃える。

また今年から、トヨタも参戦する世界ラリー選手権(WRC)や世界耐久選手権(WEC)でもカーボンニュートラル燃料が使われ始めているが、さらに今後始まるであろう世界各地でのバイオディーゼル燃料を使用したレースの情報を持ちより、統一の規格を作ってくことも視野にあるという。

  • MAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio conceptのエンジンルーム

    スバルにとってカーボンニュートラル燃料は、アイデンティティの1つでもある水平対向エンジンを存続させていくための一つの有効な手段として考えているようだ

実はこの2台、同じカーボンニュートラル燃料を使用しているがエンジンの仕様は異なっている。BRZは量産のBRZと同じ2.4L水平対向エンジンを使用している一方、GR86はGRヤリスに搭載している直列3気筒ターボエンジンを、1.6Lから1.4Lにダウンサイジングして使用している。
違うエンジンでありながら同等の性能としお互い競い合うことによって、よりスピード感をもって開発を進めること、そして違うエンジンを使用するからこそ、多くのデータの収集とカーボンニュートラル燃料の評価もできるようになるという算段だ。

そうしたエンジン違いの2台ではあるが、予選でのベストタイムは、GR86が2分19秒620、BRZが2分21秒605と2秒ほどGR86が速かった。トヨタ側は「ストレートはBRZよりも速い」と自信を見せる一方、スバルはレースペースを主眼に置いてマシンの開発と戦略を練ってきている。

  • スバルの中村知美社長(左)とトヨタの豊田章男社長

    決勝レース前にグリッド上で健闘を誓い合うスバルの中村知美社長(左)とトヨタの豊田章男社長(右)

迎えた決勝レース、この2台は何度も順位を入れ替えながら熱いバトルを見せてくれることとなった。
両マシンともクリーンなスタートを切り順調に周回を重ねていく。1時間終了の時点では、同一周回でその差29秒でGR86が先行。そして、スタートから1時間37分後となる33周目に、BRZとGR86が示し合わせたかのように同時に最初のピットインを迎える。
2時間経過時点ではGR86が19秒前方にいたものの、3時間経過後には今度はBRZがGR86に1Lap差をつける展開に。最終的には両チームとも5時間を走破しその差は1分3秒差でGR86に軍配が上がった。

印象的だったことは、両チームとも「負けたくない相手」として、非常に意識しあっているところだ。
決勝終了前に行われた開幕戦の総括会見に臨んだトヨタのGR車両開発部の高橋智也部長は、冒頭「GR86は、スバルさんのBRZとのガチンコ対決ということで、先ほどから抜きつ抜かれつの勝負で、ちょっと前にGR86が抜いてですね、そっちの方も気になるんですけど……」と目の離せない展開が気になって仕方ないようだった。

そして、スバル側としては、レース後に語ったプロドライバーの井口卓人選手の話でも強く感じることができた。
「このレースでのノルマは間違いなく達成できたと思います。正直上出来すぎたくらいかもしれません。でも若いエンジニアもトヨタさんに負けたのは悔しそうなので、これでみんな火がついて、もっともっと頑張って、もっともっといいクルマをつくって、見てろよ!って感じです」と、チーム全体が勝負を意識してレースを戦っているのだ。

このST-Qクラスは、開発車両のクラスということで、レース上の扱いとしては賞典外となっている。多種多様な開発車両が一堂に介するため、イコールコンディションで戦うことはできないからだ。

ただ、それぞれが設定した目標に向けて懸命にマシンを作り上げ、戦ったレースの結果で一喜一憂する。そして、さらなる喜びをかみしめるため、もしくは口惜しさをバネに、さらにマシンの開発を行っていく。まさにレーシングスピリットそのものの戦いがこのST-Qクラスにもあるのだ。
もちろん、その先にあるカーボンニュートラルの実現に向けてということも忘れてはいないだろう。

次戦は、富士スピードウェイで行われる24時間レースだ。5時間のレースは無事に走破できたわけだが、事前に把握している課題、そしてこの開幕戦を終え新たな課題も出てきたはずだ。
しかし、そこは長年エンジンの開発を行い、さまざまな知見を有する自動車メーカーだからこそ、間違いなくその課題を克服し24時間のレースを無事に走り切ってくれるだろう。
過酷なレースであるがゆえにチャレンジし甲斐がある、24時間レースは己との戦いであり、走り切った先にはきっと大きく前進した新たな世界が広がっていることだろう。

(文:GAZOO編集部 山崎、写真:折原弘之、山崎)

MORIZO on the Road