憧れの初代ワンテール セリカを走らせ、魅力を伝えていくことが私のライフワーク
「小さい頃からクルマが好きで、大通りを行き交うクルマをずっと眺めてばかりいました。小学6年生の時に豊田喜一郎さんの伝記漫画を読んで『日本人の手でクルマを作る』という言葉に感動したのがトヨタ党になったキッカケです(笑)」
そう語る紺野さんは取材当時65才。いわゆる高度経済成長期に少年時代を送り、日本車の技術レベルが日進月歩で進化していく様を肌で感じてきた世代である。
「その頃、街中を走っているトヨタ車はMS50型のクラウン、RT40型のコロナ、KE10型のカローラなどが多かったですね。ちょうど中学生になる頃に、今乗っている初代のセリカが登場したんですけど、ワンテールのカッコよさに憧れたものです」
免許を取得して自分で運転ができるようになると、まずはスタイリングが気に入っていたMS50型クラウンを購入。それを2台乗り継いだ後も、ここに書き切れないほど多くのトヨタ車を所有し、走らせてきた。その中でも社会人初ボーナスで買った思い出の一台が、TE71型のカローラ1600GTだったという。
「カローラ1600GTが搭載していた2T-GEU型のツインカムエンジンは、アクセルを踏み込むと軽く吹け上がる小気味のいいエンジンでした。ツインカム独特の唸り音が耳に心地よくて、折に触れてはまた乗りたいな〜と思い出しましたね」
2T-GEU型エンジンとは、かつてトヨタが展開していた1.6Lの直列4気筒DOHCエンジン。その系譜を辿ると、現在の紺野さんの愛車でもあるTA22型の初代セリカ1600GTに初めて搭載された2T-G型に辿り着く。
2T-G型はOHVだった2T型をベースに、ヤマハが開発したDOHCのシリンダーヘッドを搭載。それにソレックス製のツインキャブレターが加わり、最高出力115psを発揮した。TE27型のカローラレビン/スプリンタートレノにも搭載され“DOHCと言えばトヨタ”というイメージを決定づけた名機である。
「50代半ばになった頃に、あらためて2T-G搭載車に乗りたい気持ちが高まってきました。せっかくならソレックスキャブ、サスペンションはTE71とおなじ四輪コイルスプリングで、と考えていくと、選択肢は自然と初代セリカに絞られていきました。ならば、いっそ中学生の頃に憧れたワンテールがいいなと思うと、昭和47年7月までのモデルとなります。でも、いざ探してみるとノーマルで程度のいいクルマは皆無に近くて、半年探してようやくホイール以外は純正を保った車体を見つけることができました。35年間も納屋に保管されていた不動車だったんですが、現車確認したらボディの状態が良かったので即決しました」
40年以上の時を経て、ついに憧れのTA22型セリカのオーナーとなった紺野さん。
ロングノーズ&ショートデッキのスタイリング、子供心に鮮烈に刻まれた赤一文字のテールランプ、開放感を味わえるハードトップと、その細部ひとつひとつにクルマとしての凝縮された魅力を感じ取る毎日である。
貴重な旧車を購入すると、車庫にしまってあまり遠出はしないという人も多いものだが、紺野さんは逆。むしろ走らせないと調子が悪くなってしまうと、3日に一度は必ず最低10kmは走らせ、休みの日には30kmの走行を課している。
聞けば、やはり古いクルマだけあって、それなりのトラブルはいくつも経験済みだ。
「2T-Gツインキャブの走りはやはり痛快で、1トンに満たないボディをグイグイと軽やかに走らせてくれました。ただ、しばらくして圧縮が弱ってきまして。2T-GのDOHCヘッドは、初期型の220ヘッドと改良型の222ヘッドがあるんですけど、お世話になっているお店に222ヘッドのハイカム仕様があって、そちらに載せ換えてもらうことになりました。ただ、そのエンジンも3万kmくらい走ったところでへたってきました。そこで再び縁がありまして、かつて乗っていたカローラ1600GTと同じ2T-GEU型の、程度のいいエンジンを譲ってもらえることになったんです。なので、今載っているエンジンは通算3機目ということになりますね」
ツインキャブの2T-Gに乗りたい!という想いからスタートした紺野さんのセリカライフ。巡り巡って、かつての相棒であったカローラ1600GTと同じ2T-GEUへ回帰することなったわけだが、今もあくまでキャブにこだわり、ミクニソレックスのツインキャブレターを装着。ヘッドカバーも2T-Gものに交換してある。
「また、それとは別にT-50という5速のマニュアルトランスミッションからも異音が出るようになったので、1975年式のカリーナGT(AT210型)に使われていたミッションに載せ換えました。ただ、そちらからも異音が出るようになったので、また元のミッションをオーバーホールして再び載せ換えたんです。けれど、結局は異音が出ているのはディファレンシャルギアだったと後から判明したんです(笑)」
「それで別のセリカ1600GTのデフと交換したんですが、今度はそれの最終減速比が違っていたんですよ。従来は4.111なんですけど、1974年を境に4.100に変更されていたんですよね。まあ、それだけなら加速を重視するか、高速巡航を重視するかの問題なので、どうということはないんですけど、なぜか5速3000rpmでのスピードメーターの指針が100km/hから80km/hに変わってしまったんです」
あっちのトラブルだと思って作業をしたら、本当はこっちに原因があって、あらためてそちらに対処すると、また別の謎現象に悩まされる。古いクルマと付き合っている人にとっては、よく耳にするあるある話ではあるのだが、紺野さんはそんな苦労話も懐かしみながら楽しそうに語ってくれた。
結局スピードメーターの誤差は、メーターを駆動するためのドリブンギアの歯数が違っていたことが原因と発覚。本来は19コマなのだが、20コマのドリブンギアが取り付けられていたので、それを交換することで問題解決とあいなった。
「わかってしまえば、な〜んだで済む話なんですけどね(笑)。でも、色々な経験を経て、やっぱり旧車を維持するには覚悟と情熱がないとやっていけないということは実感します。それなりに大変ではありますけど、それも楽しむような、いい意味でバカにならなきゃやってられませんね(笑)」
少し青みがかったシルバーの塗料できれいに塗装が施され、オリジナルのダッシュボードも健在と、かつて不動車だったことを微塵も感じさせない紺野さんのセリカ。リヤの『TOYOTA』ロゴの横にセリカマークが付いた初代セリカのエンブレムは超貴重なのだとか。
そんなセリカを極力ノーマルに近い状態で維持することが紺野さんの理想ではあるのだが、消耗品でもあるサスペンションにアフターパーツを活用したり、タイヤとエンジンオイルはいい物にこだわったり、柔軟に吟味を重ねながら使えるものを使っているという。
「タイヤはいろいろ使って乗り比べましたね。ブリヂストンのレグノはどっしりと重厚感があって、ヨコハマのデシベルはそれよりしなやかで、よくたわむ印象。14インチで使ったアドバンHF Type Dは見た目も旧車によく合うタイヤです。乗り比べるとちゃんと乗り味の違いもわかって面白いですよ」
内装では、ありがちなルーフヘッドライニングの垂れ下がりを直し、クーラーは軽自動車のコンプレッサーを利用して修理。後付けで間欠ワイパーのスイッチも追加されるなど、美観と利便性を保っている。もはや十分過ぎるほど美しいセリカだが、紺野さんにはまだやり残したことがあるそうだ。
「交換用のホイールはたくさんストックしてあるんですけど、まだ手に入っていない目下の理想は純正の13インチ鉄チンホイールを履かせることなんです。じつは貴重な当時物のGT純正ホイールキャップは既に手に入れてあるんですよ。あとは13インチホイールそのものが見つかれば、それを装着して理想の完全ノーマルスタイルが実現できると考えています」
度重なる排ガスや安全性に関する規制が課される前の時代に誕生し、技術者たちが心血を注いで純粋に性能とスタイリングを追求したクルマ。紺野さんは、その魅力を伝えていくことを自らのライフワークと捉えている。紺野さんの理想がまたひとつ叶う時、時代を超えて輝くセリカの魅力がまたひとつ遠く、広く、大勢の人に届いていくことだろう。
取材協力:大磯ロングビーチ(神奈川県中郡大磯町国府本郷546)
(⽂:小林秀雄 / 撮影:平野 陽 / GAZOO編集部)
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