戦闘機パイロットを夢見た少年が手に入れた地上の愛機「トヨタ86」

沖縄の空を飛び交う飛行機が大好きだった少年は『地上の戦闘機』とも言える存在のスポーツカーに憧れ、トヨタ86(ZN6)のパイロットとなった。幼少期から慣れ親しんだラジコン飛行機、そして愛車とのカーライフまで続く操縦運転遍歴を伺った。

「物心がついたころからずっと、戦闘機のパイロットになることを夢見ていました」
子供の頃からの憧れをそう振り返るのは新垣直也さん(29才)。とある事情から戦闘機乗りになる夢を諦めることになったという新垣さんだが、その心の隙間を埋めてくれたのがオレンジカラーのトヨタ・86(ZN6)だったという。

「子供のころ、兄が本土(本州)の大学に通っていたため、その送迎などで一緒に那覇空港に行くことが多かったんですけど、その頃の僕は飛行機を見るのがとっても大好きでした。いつも飽きずに飛行機をずっと眺めている姿を見た父が『そんなに好きならラジコンの飛行機を飛ばしてみるか』と買ってくれたんです」

その頃にはすでに割り箸や厚紙を使って戦闘機をモチーフにした自作飛行機も作るほどだったという新垣さんは、父と始めたラジコン飛行機にもどんどんのめり込んでいったという。よく使っていた飛行場エリアが再開発によって複合施設建設地となってしまったため、現役での趣味ではなくなったものの、10才から高校を卒業する18才頃まで長期間にわたって続ける趣味となったそうだ。

当時の思い出の機体を見せていただくと、なかには発泡スチロール製の飛行機模型をベースに、動力となるモーターやラダー(方向舵)、エルロン(補助翼)などを加えて操縦できるようにカスタムした自作のラジコン飛行機もあり、その作り込みに驚かされた。
「成人式のとき、本州に行った友人からもらった手紙にも『ラジコンを飛ばしていたのを鮮明に覚えてる。マジすげーと思った』と当時の思い出が書かれていて、嬉しかったですね」と“新垣さん=飛行機の操縦”というイメージは周囲の人にもしっかり認知されていることがわかるエピソードも。

そうしていずれ戦闘機パイロットになるための『操縦訓練』をラジコン飛行機で続けてきた新垣さん。しかし、実際に任務に就くとなると、その過程やその後に様々な危険が存在するため、心配する家族の意見なども考慮した結果、戦闘機乗りになるという夢は諦めることを決意する。
「もちろん『絶対に戦闘機乗りになりたい!』と押し切ることも可能でしたが、両親のことなども考えて諦めることにしました。しばらくは『自衛隊がダメならいずれ自分で戦闘機を手に入れて乗る!』なんてことも半分冗談で考えていましたね(笑)」
そんな新垣さんの気持ちに大きな変化をもたらしたのが、スポーツカーとドリフトだった。
「沖縄でやっているドリフト大会を見る機会があって、そのときに『スポーツカーって地上の戦闘機に近い乗り物なんじゃないか』って思ったんです]

それ以降は憧れの対象が戦闘機からスポーツカーへと移り変わっていったという新垣さん。そして、ちょうどそのタイミングで待望の新型FRスポーツカーとしてデビューしたのが、トヨタ・86だった。
86のフォルムは戦闘機のように見えて親近感を覚えるデザインだったそうで『F-15がダメなら、86のパイロットになればいいじゃないか』と新たな目標ができたという。

そんな新垣さんのカーライフは、大学へ進学した際に購入したダイハツ・ムーヴ(L150S型)からスタートする。このころの新垣さんはすでに86にゾッコンだったものの、予算の範囲で乗れる日常の移動手段として選択したのがムーブだったという。
86に対する憧れは仕事選びにも影響を与え、在学中にはトヨタのディーラー店舗でインターンを経験。熱心な姿を見たスタッフから記念品としてミニカーをプレゼントしてもらうほどだったそうで、卒業後はディーラースタッフとしての社会人生活がスタート。86を手に入れることを目標に、金銭面での余裕ができるまでの相棒としてダイハツ・コペン(L880K)を選んだという。

「軽くてスポーティな走りが楽しめそうなクルマとして、金銭面も考慮して選んだのですが、乗り始めたらオープンカーの良さがとても分かりました」
屋根を開けていると、街乗りをゆっくりと走るだけでも気持ちよかったとコペンとの思い出を振り返る新垣さん。マフラーを交換するなど、ムーヴのころにはやらなかった愛車をカスタムする楽しみもこのコペンで覚えたと新垣さん。

その後、転職して物流関係の仕事に携わることを決め、転職とほぼ同じタイミングで念願だった86オーナーとなったのは2019年11月3日のこと。新垣さんはその嬉しさから、86が納車された日付までしっかりと記憶していた。

手に入れたのは2016年式の86 GT 。新垣さんが86に憧れるキッカケとなった東京モーターショー2011で発表された時の姿とおなじオレンジメタリックの個体をチョイスした。
「シンプルだけどカッコよく見せるカスタマイズ」を心がけ、エクステリアはTRD製エアロパーツを中心に、リヤアンダーパネルはSTI製のBRZ用、GRリヤスポイラーは同色に塗装を施して装着している。また、マフラーは砲弾タイプにこだわって柿本レーシング製へと変更したという。

足まわりはHKS製ハイパーマックスSP車高調に、軽快な動きを重視した17インチのエンケイPF05ホイールに履き替えている。

軽快なフィーリングのエンジンと、素直な挙動の足回り。ライトウェイトスポーツカーならではの、クルマを操る楽しさを感じられる86は、新垣さんにとっての『練習機』としてぴったりの存在だったようす。
「86開発責任者の多田哲哉さんが、戦闘機に例えて『86はプロペラ機で、スープラはジェット機』と言っていたことがあったのです、乗っていてその意味が分かるような気がします」

「まずは、自分の思い通りに86を動かせるようになるのが目標です。ちょうど、沖縄にサーキット(モータースポーツマルチフィールド沖縄)もできたので、そこをホームコースにして練習を重ねています」と新垣さん。
新垣さんにとって、相棒の86とサーキットを走り込むのは、いわば戦闘機の飛行訓練のようなもの。いずれ86を、そしてそれ以外のスポーツカーも手足のように操れる技術を持ったパイロットになれる日を目指してカーライフは続いていく。

取材協力:オリオンECO 美らSUNビーチ

(⽂:長谷川実路 / 撮影:平野 陽 / 編集:GAZOO編集部)