縁あって手に入れたセリカは「旧友のような」存在。1988年式トヨタ・セリカ GT-FOUR(ST165型)

愛車広場の企画がスタートしてから、早いもので丸3年が経過した。これまで、のべ180人を超えるオーナーとその愛車を取材させていただいた。この機会に改めてお礼を申し上げたい。

ありがたいことに、最近では愛車広場の記事を読んだことがあるという方も少しずつ増えてきた。今回、取材させていただいたオーナーも、愛車広場の記事がきっかけとなり、今回のクルマを購入に至ったという。

「このクルマは1988年式トヨタ・セリカ GT-FOUR(以下、セリカ)です。この個体を手に入れてから2年、現在のオドメーターの走行距離は14万7000キロです。私が手に入れてからは5千キロくらい乗りました。実は、20代のときに色違いの同型のセリカに乗っていて、縁あって再び乗る機会に恵まれたんです」

セリカとしては4代目にあたる「ST160系」がデビューしたのは1985年のことだ。「流面形、発見さる。」のコピーが示すように、美しいフォルムを纏ったスペシャリティーカーとして位置付けられていたセリカに、フルタイム4WDを採用し、新開発の水冷インタークーラー付きツインカムターボエンジンを搭載したモデルが、1986年に追加された「GT-FOUR(ST165型)」だ(オーナーの個体は後期モデルにあたる)。当時のトヨタは、このモデルでWRC(世界ラリー選手権)へ本格参戦を果たし、1990年にはカルロス・サインツが日本車としては初となるドライバーズタイトルを獲得した。また、1987年に公開された映画「私をスキーに連れてって」の劇用車にも採用され、白銀の世界で純白のセリカGT-FOURが屋根にスキーキャリアを装着して疾走する光景は、当時の若者に強烈なインパクトを与えたことは間違いない。

そんなセリカ GT-FOURのボディサイズは、全長×全幅×全高:4365×1690×1295mm。オーナーの個体には「3S-GTE型」と呼ばれる排気量1998cc、直列4気筒DOHCターボエンジンが搭載され、最高出力は185馬力を誇る。このエンジンは、レース用エンジンとしても高い評価を得られただけではなく、多くのトヨタ車にも採用された名機ともいえよう(後継モデルにあたる、ST185型およびST205型のセリカGT-FOURにも3S-GTE型のエンジンが搭載された)。ちなみに車名のセリカとは、スペイン語で「天の」「天空の」「神の」「天国のような」という意味を持つ。

オーナーが20代のときに手に入れたというセリカ。まずは、再び手に入れるまでの経緯を伺ってみることにしよう。

「私はいま48歳ですが、これまで10数台のクルマを乗り継いできました。最初の愛車は、リトラクタブルヘッドライトが特徴的だったホンダ・アコードでした。本当はプレリュードが欲しかったんですが、高くて手が届かなかったんです。そこで、プレリュードと同じエンジンを搭載したアコードの『Si』というグレードを選ぶことにしました。自分のクルマを手に入れたことで、一気に自分の世界が広がったような気がして嬉しかったですね。

そして、社会人になってから、1台目のセリカを手に入れました。それからしばらくしてエンジンから白煙が吹いてしまったんです。それなりに修理代が掛かるため、別のクルマに乗り換え。その後、結婚して子どもが生まれてからは、ワンボックスカーを中心に家族優先のクルマを選んできました。

いまから3年前、ふとしたきっかけでこの愛車広場の存在を知ったんです。毎週のようにさまざまなクルマやオーナーさんが紹介される記事を読んでいくうちに『いつか自分もこんな風に愛車を取材されてみたい』と思うようになりました。そして気がつくと、インターネットでクルマを探すようになっていたんです。そのクルマとは、若いときに乗っていたセリカでした」

昨今、旧車やネオクラシックカーと呼ばれるクルマが人気だが、すぐに見つかったのだろうか?

「セリカの売り物は見つかりましたが、予算オーバーでした。そんなとき、インターネットオークションでかつて乗っていたことがあるカローラGT(AE101型)を見つけたんです。購入を試みましたが、オーナーさんと条件面で折り合いがつかず、断念しました。その後、現在の愛車となるこのセリカを発見。偶然、オーナーさんが隣県に住んでいたこともあり、実車を見せていただくことになりました。前オーナーさんは、毎日セリカを使用していたとのことで、外装の状態は年式相応でした。しかし、メンテナンスの明細を収めたファイルを見せていただいたところ、燃料系や下回りなど、かなりの費用と手間を掛けてきた個体だったんです。ただ…、私の予算と前オーナーさんの希望額に開きがあったので、いったん帰宅して妻とも相談。再度、私の予算の上限をお伝えしたところ『私は充分に楽しんだので、セリカが好きな方に乗り継いで欲しい』と、破格の条件で譲っていただけることになったんです。

その後も気になって、この型のセリカを探してみたのですが、『出物』といえる個体は見つかりませんでした。もし、前述のカローラGTを手に入れていたら、このセリカの存在を知ることもなかったはずですし、1ヶ月でもタイミングがずれていたらこの個体を手に入れることもできなかったはず。不思議な縁を感じましたね」

こうして、縁あってオーナーのところに嫁いできたセリカ。オーナーが20代の頃に所有していた当時のイメージに戻すべく、リフレッシュプロジェクトがスタートした。

「セリカの名医ともいえる主治医に外装面のリフレッシュを依頼しました。併せてステッカー類もリフレッシュしたので、見違えるようになりましたね。実は、ボディサイドに描かれた白いピンストライプも手書きなんですよ。その他、純正ステアリングの革を巻き直してもらったり、インターネットオークションでようやく手に入れたOZ製のホイールもリフレッシュしてもらいました。実は、このホイールは既に絶版で、入手に苦労しただけに想い入れがあります。後日、1本だけ歪みがあることに気づき、専門の業者さんに依頼したところ、見事に修復してくれました」

実は、オーナーと出会ったのは、昨年11月に開催された第1回 GAZOO愛車広場 出張撮影会の会場だった。貴重なクルマが多数集まった会場内を歩いていたとき、ギャラリーたちも驚くほど素晴らしいコンディションを誇るセリカが目に留まった。我々も、オーナーのセリカに対する想い入れが並大抵ではないことを察し、思わず声を掛けてしまったほどだ。その直感は見事に的中。その場で改めてお会いする機会を設けていただき、今回の取材が実現した、という経緯がある。

「愛車広場の存在を知り、こうして再びセリカを手に入れることができましたし、出張撮影会に参加するきっかけにもなりました。実は、仕事が平日休みということもあり、クルマ関連のイベントに参加したのは今回が初めてなんです。偶然とはいえ、まさかこうして取材していただけるとは思わなかったですね(笑)」

そんなオーナーにとって、このセリカの存在とは?

「セリカに乗っていると当時のことを思い出しますね。まるで、お互いの若い頃のことを知っている古い友人に再会したかのようです。私自身、若いときはスカイラインGT-Rなどのハイパワーなクルマに惹かれたものですが、ある程度、年齢を重ねてきたからこそ、このセリカの良さが分かるようになったと思います」

まさに「溺愛」という言葉がしっくりくるこのセリカの気に入っているところ、こだわっているところとは?

「運転しているときに、車内に聴こえてくる排気音ですね。クラッチを繋いでからシフトアップしていくときの加速音がたまらなく好きです。主張しすぎず、適度にジェントルな音色がお気に入りです。コンディションを維持するため、最低でも週に1度は乗ります。それと、この音を聴くためにセリカに乗っているようなものです(笑)。もちろん雨の日は乗りませんよ。乗ったあとは洗車をしてガレージにしまいます。家を建てたとき『いつかのために』ガレージを造ってあったんです」

最後に、今後このクルマとどう接していきたいのか?意気込みを伺ってみた。

「多くの部品が廃番なので苦労することがあるかもしれませんが、可能な限り乗り続けたいです。あと…、セリカを所有すること、ガレージを占有することを許してくれた妻に、この場を借りてお礼をいいたいですね」

丸3年、のべ180人を超えるオーナーとその愛車を取材させていただいてきたなかで、記事にまとめる際、密かに意識してきたことがある。それは「この記事を読んでくれたどこかの誰かが『やっぱり自分の好きなクルマを買おう!』と思ってくれたり、『手放すのをやめてもう少し乗り続けてみよう』と考え直してくれるきっかけになってくれたら…」と感じてもらうため、オーナーとその愛車のことを可能な限り魅力的に伝えよう心に誓ってきた。その想いは、いまも変わらない。むしろ強まっている。

今回、ふとした偶然でこのセリカのオーナーと出会うことができ「大変なこともたくさんあったけれど、これまで続けてきて良かった」と心から思えた。そして、つたない文章を補ってくれる古宮カメラマンの美しい写真が、オーナーですら感激させるほど愛車の魅力を引き出してくれていることにも感謝したい。

これからも、取材に協力してくれたオーナーはもちろん、我々の記事がクルマ好きの人たちの琴線に触れることになれば本望だ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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