海を渡った大根!(1)
片品発野菜のファンタジーな物語です・・・・・・・
『海をわたった大根』

真夜中の道を通るとき、不思議な体験をしたことはないだろうか?
誰もいない寝静まった畑から、
ざわざわとどこからともなく聞こえてくる音・・・・
実はそれは野菜たちにしかわからない話し声なのだ。
日もとっくに落ちて、あたりが十分寝静まりかえった頃、
幾何学的に輝く星空の下で、
キャベツの次郎が大根の健太に話しかけた。
「おい、お前は海というものを知っているか?」
すると、健太が待っていたとばかりに、
「ああ、知っているよ。俺がまだ、双葉だった頃、
隣の養魚所のマスが話してくれたよ。話によると海ってのは、
遠くて、広くて、ここなんか問題にならないくらい大きいらしい。
そこにはマスたちの仲間がたくさん住んでいて、広い海を
わがもの顔で泳いでいるッって言う。
海の中は晴れたり曇ったりの心配も、
霜の心配もする必要がない。
いつでも暖かくて、住み心地は抜群だって言う。
コナガも線虫も根っきり虫の心配も要らない。
どんなにいいとこだろう。まるで天国だ!」
話が終わらないうちにキャベツの太郎が
「その海へ行ってみてえと思わねえか、健太。
俺たちこのまま、ここで生きてりゃー、箱につめられて市場ゆきだ。
そしたら、人間に食われて死ぬまで
ずっと暗い、狭い冷蔵庫の中での暮らしだ。いいことなんか何一つねー。」
次郎は怒りと悲しみで赤みを帯び、頭から湯気を出しながら
しゃべっていた。
「でも、僕たちはそういう運命を背負って生まれてきたんだ。
その生まれに感謝し、自分の運命を全うしてこそ、僕たちが生きた意味があるんじゃないか。」
レタスの順夫が次郎を制するようにつぶやいた。
次郎は順夫を睨みつけた。負けずに、順夫も次郎を睨みかえし、
今にも喧嘩が始まりそうな気配だ。
次回へ続く・・・・・・・・