宮沢賢治 童話集vol.4
〔風の又三郎〕より

そのとき風がどうと吹いて来て教室のガラス戸はみんながたがた鳴り、
学校のうしろの山の萱(かや)や栗の木はみんな偏に青じろくなってゆれ、
教室のなかのこどもはなんだかにやっとわらってすこしうごいたようでした。

「うあい、うあいだ、又三郎、うなみだいな風など世界じゅうになくてもいいなあ、
うわあい。」
「うわい又三郎、風などあ世界じゅうになくてもいいな、うわい。」
すると三郎は少しおもしろくなったようでまたくつくつ笑いだしてたずねました。
「風が世界じゅうになくってもいいってどういうんだい。
いいと箇条をたてていってごらん。そら。」

空が光ってキインキインと鳴っています。
空がくるくるくるっと白く揺らぎ、草がバラッと一度にしずくを払いました。

霧がふっと切れました。 日の光がさっと流れてはいりました。
その太陽は、少し西のほうに寄ってかかり、幾片かの蝋(ろう)のような霧が、
逃げおくれてしかたなしに光りました。
草からはしずくがきらきら落ち、すべての葉も茎も花も、今年の終わりの
日の光を吸っています。

はるかな西の碧(あお)い野原は、今泣きやんだようにまぶしく笑い、
向こうの栗の木は青い後光を放ちました。
(・・・・・・・・・・・・)
「あいづやっぱり風の神だぞ。風の神の子っ子だぞ。・・・・」

・・・・・・・だまってその音をききすまし、じっと空を見上げました。
すると胸がさらさらと波をたてるように思いました。
けれどもまたじっとその鳴って ほえて うなって、かけて行く風をみていますと、
今度は胸がどかどかとなってくるのでした。
賢治の学校・実習生 緑