甘玉子小話 (一)
昭和の初期、もしくは大正時代のお話です。
筑後川の源、肥後は熊本小国町、杖立川の両岸には木造2階、3階建ての旅館が立ち並ぶ。
湯煙りのたなびきは今も昔も変わりなく、下駄の音が心地よく響き、三味、太鼓は瀬音と共に小粋を奏でる。
そんないなせな時代・・・。
当時、すでに杖立温泉は観光、湯治のためにたくさんの人が憩う場となっていた。
旅館街のいたるところには外湯、蒸し湯と呼ばれていた共同湯にこぞって人は集まり、縁台に腰掛けてパチリパチリと碁を打ち、それを取り巻き頷いている。
その様子を遠くから眺める一人の女・・・。
「元湯屋旅館」の女将、栄である。
生まれも育ちも杖立の生粋の杖立人。
杖立温泉を愛する代表のような人物であり、と同様に杖立温泉を支えてくれるお客様を愛してやまない人物。
女将の中の女将とみんなに称されていた。
その毎日が栄にとっては精錬と勉強の連続で、時に驚き、時に泣き、普段は笑みの絶えない日々であった。
また、感謝の心が消えることはなかった。
ある日の夕暮れ、いつものようにお客様を迎え入れる。
「こんにちは・・・。」
と暖簾を覗くいつもの顔ぶれに。
「はーい、どーぞー。」
「いつもありがとうございます。」
といつものように答える。
が、どこか違う・・・。
いつものように、だが、やはり何かが違う・・・。
「お客さん、どうかしましたか?」
「いえいえ、どうもしておりませんよ。はい、お部屋はどこでしょうかね。」
「そうですか?・・・は、はい、いつものところを用意してますよ。」
栄は気になりながらもあまりにもたくさんの仕事の忙しさに追われて忘れていく。
「はい、あっ、江藤さん。いつもありがとうございます。」
「・・・。」
「あー、宮崎さん、お元気でしたか。」
「・・・。」
今日もたくさんの常連さんがこの「元湯屋旅館」の暖簾をくぐることになるようだ。
・・・・・・次号へ。
この小話はフィクションなのかな?
ちょびっとほんとなのかな?
まちがっても悪意はありませんので・・・。
また今度。