甘玉子小話 (三)
甘玉子・・・。
一体なんなんでしょうねー。
今回は出てくるのかな?
旅館の朝は早い。
し、そこに泊まっている常連さんの朝はもっと早い。
今日も栄の一日がはじまる。
「おはようさん。」
「おはようございます。早いですねー。」
「女将さん、朝ごはんは何時からでくっとね?風呂はもう入らるるとやろ。」
「はいはい、どちらも用意できちょりますよ。ひとまず、入ってこんですか。」
「そーねー。なら、熱ぃーつにサプッと入ってこよっかね。」
昨日、玄関で迎え入れた時に違和感を感じたお客さんだったのだが、今日、その違和感は感じない。
やはり、思い過ごしだったんかね・・・。
気にはかけながら、それでも一日の内でも一番忙しい朝の雑用に追われ、その考えは頭の隅っこに追いやられる。
「女将さーん、炊けましたよー。」
赤ちゃんならば、ゆっくりとお風呂に入ることができるであろう一斗釜のふたを開けると、もうもうと湯気が上がり、調理場中に独特の少し香ばしい、何とも言えない匂いが立ち込める。
釜の中のご飯もきらきらと輝く。
旅館では昔からご飯炊き専門のおばちゃんがいるのだが、ここ湯元屋旅館では、代々女将がこれを務める。
栄も人には言わないが、自分の炊くご飯が一番であると内心では思っているし、この仕事は死ぬまで自分がやりとげるものと思っていた。
事実、朝ごはんの後にお客さんから称される言葉は、具沢山の味噌汁でも香ばしく焼けた肴でもなく、自慢のこの白いつやつやのご飯であった。
「なんが違うとやろーねー。水やろかー?米のしっ(質)じゃろかー?」
「いっぱい炊くけんおいしかったいねー、女将さん。」
「馬鹿ちん、どしこ炊いたっちゃ、誰でんなしきらんばい。」
お客さん同士が話しているのを聞いてニコニコと・・・。
「私ん、こんがさがさした手ぇーでざーっと洗うきんでしょうねー。ばってんが、水がおいしかっちゅうのはほんとですばい。ご飯でん、料理でん、こん水がねぇなら、ばされたいへんですばい。」
「そーな、どっちにしてん、女将さんが炊かな、おいしねーちゅうこったい。ばってん、毎日毎日、こしこん量を作るちゃーやおいかんばいねー。ほんこつ、ごくろうさん。」
「いえいえ、これが仕事じゃき。ほんなこつ、いつもありがとうございます。」
栄はこの一言が聞きたくて、このお客さん達とのふれあいが楽しみで、毎日のたいへんな仕事を生きがいに感じていた。
また、料理に関しても栄はお客さんに何が食べたいかと聞いてみたり、新しい料理を考えてみたりと、素人なりに少しでも喜んでもらえるように努力していた。
いつも栄が心の中に抱いていたもの。
それはこの杖立には豊富で良質な温泉があること、そればかりでなく、おいしい水、近隣からはたくさんの農作物、川には魚が泳ぎ、四季折々の山の幸、それにもましてここには昔ながらの人情があふれ、それを支えてくれるたくさんの常連のお客さんがいる。
杖立温泉を支えてくれるお客さんへの恩返しを栄は忘れることなく毎日を過ごしていた。
「ほーら、ボーっとしちょる。また頭ン中こんがらがるごつ考えよるやろ。はよ、川ん向こうに行ってお茶でん飲んでこい。」
金衛門に言われてたまにはいいかなと考えていると、
「たまにはいいき、行って来い。」
・・・やはりというか、金衛門のいつもの良い間合いに栄はニッコリとし、さくら橋を渡った。
甘玉子までもうちょっと・・・?
(四)へと続く。かな?