甘玉子小話 (四)
第4話になっちゃいました。
こんなに長くなるとは思ってませんでした。
が、もう少々お付き合い下さい・・・。
目の前にあるのになかなか渡ることのない橋・・・。
忙しい栄にとっては、自分の旅館の前にある橋を渡って対岸に行くことも容易ではない。
が、たまに渡ろうもんなら・・・。
「あらー、めずらしか。湯元屋旅館の女将がどこさん行きよんな。」
「どこのべっぴんさんかち思うたら湯元屋さんじゃなかね。」
「なんかあったつな。川んこっちに来たりして。」
等、通りがかりの人全てに言われる。
今日も同様に半分見世物にされている。
と、向こうから意味深な顔つきで近づいてくる人物がいる。
栄の幼馴染でもあり、大の仲良しだがライバルでもある「旅館 瀬音荘」の女将、袖である。
「あらー、雨でも降りますかねー。湯元屋さんが川を渡って来られましたわねー。」
「久しぶり、何ん言いよるんな。にくじやら言いなんな。」
「ごめんて、ばってん久しぶりなー。こげん近くにおってから何日ぶりかねー。橋一本分しかなかつばい。」
「ほんなこつなー。近かばってん、なんとやらで・・・。」
川向かいに建ちながら、滅多にあうことのない二人の話はちょっとと思いながら小一時間はすぐに過ぎていく。
お互い女将という忙しい身でなければと思いながら・・・。
「今日は一体何の用事ね。」
「久しぶりにだんなが純ちゃんとこに行って来いっち言うき、行きよるとこたい。」
「そーな・・・。ちょっと待ちないよ。うちもそげん今日はないき・・・。あんたー、ちょっと出てくるばい。」
「どこ行くつやー。」
「純ちゃんとこたい。」
「あー、油うりかい。」
「馬鹿ばい。栄ちゃんが来ちょるき、一緒に行ってくるっち言いよるったい。」
「なんや、そりゃめずらしかたいねー。わかった、行って来い。」
一人でも川を渡れば珍しいのに二人も揃えば注目の的となる。
「ほー、二人おそろいで・・・。」
「今日は二人でなんごつに・・・。」
「おー、湯元屋と瀬音荘が並んじょるばい。めずらしいこつもあるもんねー。」
お目当ての茶店の純さんのところまでの道のりの長いこと長いこと。
「もー、みんなしゃーしーねー。」
「ほんなこったい。ほっちょきないち、いうったいねー。」
それでも道々いろんなことを話しながら程なく到着。
普通よりも一回り小さい潜り戸をガラガラと開けて・・・。
「こんちはー。こんちはー。」
・・・。
「はーい、はいはいはいはい。いらっしゃ、あーお久しぶりです、栄さん、袖さん。お元気してましたかー。毎日忙しいでしょー。」
「今日はだんなに許しをもらったけん、ちょっとゆっくりしに来たったい。」
「そーですか、たまにはゆっくりしてくださいよー。」
[まー!栄さんと袖さんが揃ーちょるち、ばされ珍しっちゃね?・・・。」
「はいはい、ここまでさんざん言われて来ましたよ。よいしょっと。」
積もりに積もった話が早口の三人から次々と湧いて出る。
と、栄が最近“ふ”と思うことを口にした。
「・・・。」
「・・・。」
「あんたもな。おたいも最近そげ思ちょったったい。」
「へー、そげなこつ二人とも思うちょったですか。二人が思うちょるこつなら、どっか違うとですばい。」
「なんとなくばってんねー。それがわかるんならどげかするとばってんねー。」
「そーたい。おたいもなんとなくたいねー。」
「・・・。」
「見てんない。ほら。」
「あーしもた。こげな時間たい。お客さんが着くじゃんね。」
「ほんこつ。なら純ちゃんまたね。」
嵐が去った後のように店内はしんとする中で、最後に栄と袖が揃って残した言葉に純は意味がわからないながらも二人が四六時中旅館のこと、お客さんのことを考えているということに尊敬し、この二人がいる限り、この杖立はより良い所になっていくことを確信した。
純も茶店の古くからの看板娘であるが、杖立をこよなく愛する一人で栄と袖の二人にいつも共感を持ち、何かあると一緒に行動を共にするよき理解者であった。
「お客さんの顔か・・・。」
純は少し二人の真似でもしてみようかと思っていた。
うーん、次かな?
最終回・・・。