試乗インプレッション

レーシングドライバー 谷口信輝氏

噛めば噛むほど味わえる

2011年シーズンの「SUPER GT」GT300クラスチャンピオンにして、「トヨタiQ」のオーナーでもあるレーシングドライバー谷口信輝が、「iQ GRMN Supercharger」のプロトタイプにサーキットで試乗。そのファーストインプレッションは……?

谷口信輝氏 試乗インプレッションムービー

こだわりを感じる変化

富士スピードウェイで出会った「iQ GRMN Supercharger」は、もともとかわいい「トヨタiQ」が、「お、ここまで変わっちゃったの?」と思うくらい、大胆な変貌を遂げていました。

僕自身が「iQ」オーナーで、普段から乗り慣れているためにちょっとした違いでも気が付きやすいのだろうけれど、バンパーやフェンダーがスクエアなデザインになっていたり、ボディサイドのプレスラインのエッジが強調されていたり、全体的にものすごくこだわりのあるスタイルに仕上がったと思います。

ドアを開けたときの印象も、僕のiQとはずいぶん異なっていました。最初に目にとまったのは専用のメーター類とシートですね。メーターは文字盤がメタル調になっているし、僕のiQにはないタコメーターも装着されている。これが、かなりスパルタンでスポーティな雰囲気を醸し出していました。

そして赤と黒の色使いが印象的なスポーツシートは、腿、脇、肩をしっかりサポートしてくれる。ホールド性は高いのに、表面がとても柔らかいから乗り心地がとてもいい。シフトレバーを操作したときに肘がシートに当たらないし、乗り降りにも不自由しない、とてもよく考えられたシートですね。

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  • トヨタiQ

今回は、このスペシャルなiQを富士のショートコースで走らせました。「1.3リットルエンジンにスーパーチャージャーを追加した、パワーアップ版」という話はあらかじめ聞いていましたが、そういうクルマって、普通は強化クラッチが入っていたり、扱いにくくなっているケースがほとんど。だから、今回も発進に気を使うかなと思ったけれど、別にクラッチペダルは重くないし、つながり方もスムーズ。しかも、アクセルは開けないでクラッチをすっと操作するだけでもクルマが動き出す優しさがあって、とても乗りやすいと感じました。

エンジンのパワーアップは予想以上でした。僕のiQは1リットルのAT仕様なので、ここだけの話、まったくもって遅いんですね。まあ、それは言い過ぎだとしても、速さを追求したクルマではないわけですよ。ところが、「iQ GRMN Supercharger」は、発進時の最初の加速から「おお! すっごい速いじゃん!!」という驚きがありました。それどころか、コーナーを曲がりながらアクセルを踏んでいくと簡単にホイールスピンしてしまう。「これでも本当にiQ?」って思うくらいのパワー感でした。

しかも、このエンジンはとてもパワーバンドが広い。いっぽうで、ギヤボックスはクロースレシオになり、ファイナルレシオもローギヤードになっているから、どんな速度域でも常にエンジンをパワーバンド内にとどめておくことができます。おかげで、富士のショートコースを走っているときは、たとえ適正なギヤを選んでいなくても、スーパーチャージャー付きエンジンらしい豊かなトルクでグイグイ走ってくれました。かなり扱いやすいエンジンですね。

あと、iQのマニュアルギヤボックスを運転したのは今回が初めてだったんですが、すごく“入り”がいいと思いました。ブレーキは、いい意味で「普通」。これ、実はいちばんの褒め言葉だと思います。だって、ノーマルのロードカーでサーキットを走ったら、たいていブレーキがフェードを起こして十分な制動力を得られなくなりますからね。

ところが、今回の試乗ではまったく不満を覚えませんでした。

すごく速くて扱いやすい

iQでサーキットを攻めたら転んじゃうんじゃないかと不安に思う人がいるかもしれませんが、実は、トレッドが広いので意外にも安定しているんです。特にこのクルマは、ノーマルよりもさらにトレッドを広げてあるので安定感は抜群。それでいて回頭性にも優れているので、キビキビと走ることができます。今回はトラクションコントロールをオフにした状態でも走りましたが、コーナリング中にラフなスロットル操作をしてもタックインやテールスライドを起こすことはありません。だから、ハンドリングはすごくいい感じでまとまっていると思います。

今回はサーキットだけの走行だったので、一般公道での乗り心地は想像するしかありませんが、この乗り心地だったら普段使いも問題ないでしょう。

これは「iQ GRMN Supercharger」だけじゃなく、すべてのiQに言えることなんですが、コンパクトに見える割に中が広くて、大人3人が乗っても全然大丈夫。

しかも、ものすごく小回りが利くので、街中で使うには本当に便利なクルマですよ。

仮に「iQ GRMN Supercharger」を食べ物に例えるとするなら、ちょっと無理があるかもしれないけど、スルメみたい。ガムのようにちょっと噛んだだけで味がなくなってしまうのではなく、噛めば噛むほど口の中に旨みが広がってくる感じ。何しろあのスタイリングは、意外とオーラを放っています。しかも、飛ばしたら速い。

「羊の皮をかぶった狼」みたいな走りで、もしもオーナーになったら、ちょっと顔がにやけちゃうくらい楽しいと思いますね。

(文=谷口信輝)

2012年3月 プロトタイプに試乗

街なかでもいい感じ

谷口信輝氏

レーシングドライバー

谷口 信輝

2011年シーズンの「SUPER GT」GT300クラスチャンピオンを獲得する他、「スーパー耐久シリーズ」「D1グランプリ」など国内の様々なレースで活躍している。

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