近年、住居環境の変化により鼻炎や花粉症などのアレルギー性疾患の患者が増えている。このアレルギー疾患の処方薬による集中力低下は運転や機械操作にも影響するため、交通事故や労働災害を未然に防ぐためのリスクマネジメントに取り組む企業や団体も増え始めた。花粉症シーズンを迎えた中、都内を中心にハイヤー・タクシー事業を手がけるハロー・トーキョー(小嶋光信社長、東京都江東区)は、アレルギー症状の正しい理解と改善策を展開して、着実に成果を高めている。
(秋田 憲作)
同社は、ドライバーが遭遇する交通事故を減らすために、朝から深夜まで及ぶ勤務時間がもたらす眠気以外に「ドライバーの体調面に変化があることが原因ではないか」(同社今里肇統括部長)と考えたという。ドライバーへの調査でも、頭痛や風邪、花粉症などで薬を飲むと眠くなるという回答が多かった。これらの症状を改善する薬には抗ヒスタミン剤が含まれており、脳に移行すると眠気や集中力の低下が表れる。「インペアード・パフォーマンス(気づきにくい能力ダウン)」と呼ばれる現象だ。「専門家に相談したところ、脳に入らない薬を処方してもらうようにアドバイスされた」(同)ことにより、ドライバーに向けた啓発に乗り出すことになった。
専門性のある啓発活動を展開するため、同社は昨年1月に発足したインペアード・パフォーマンスゼロプロジェクト(代表=谷内一彦東北大学大学院医学系研究科教授)の賛同企業として参加した。ドライバーは、研修を通じて花粉症の適切な治療法などの知識を習得した。車内には、インペアード・パフォーマンスを周知するカードを後席に備え付けて、乗客に向けた啓発も行っている。
社内の交通安全研修と適切なアレルギー性疾患の理解を通じて、交通事故発生件数は前年と比べて30%減少した。同社では年間の交通事故にかかる関連費用が約2800万円となっており、約840万円の経費削減につながった。このほかにも、管理車両の自動車保険料の支払い額低減という効果も生みだした。
しかし、タクシードライバーという特別な勤務形態もあり、知識を持っていても花粉症治療のために医療機関を受診するドライバーは多くなかった。これは、一回の勤務が20時間という2日分のシフトのため「病院に行くために有給休暇を使用することに消極的になってしまっていた」(同)との理由によるものだ。
この課題を解決するために、今年2月に「花粉症通院休暇」制度を導入した。全国的にも例がないこの制度は2〜4月までの3カ月間、花粉症および花粉症の疑いがあるドライバーを対象に、定められた乗務時間から医療機関の受診のために休んだ5時間を有給休暇とする制度で、285人のドライバーのうち66人が対象となっている。現在までの申請は3人だが「気温が上昇し花粉の飛散量が増えた3月は申請が増え始めている」(同)と取得率の増加に期待を見せる。また、昨年末には車内には花粉症とともにインフルエンザ対策にも効果のあるウイルスウオッシャー機能搭載の空気清浄機も導入している。ウイルスの無い車内環境を乗客とドライバーに提供するとともに感染も防ぐことも狙いとした。
新たな取り組みは、すぐに効果として表れた。外国語会話ができるドライバーも在籍、成田空港からの送迎にも実績もあることから「公演に来日した海外のアーティストやミュージシャン、劇団など体調に気を遣う方々の送迎依頼が増えた」(同)として、稼働率の増加だけでなく「快適な移動空間を提供する」というブランドイメージ向上に貢献している。
運送事業者だけではなく、毎日の通勤や営業活動など自動車は生活や業務に欠かせない存在となっているが、不幸な事故も後を絶たない。安全運転の実行に向けた環境づくりは、労働力の損失を防ぐという側面もある。花粉症対策に着手した企業・団体も増えており、車内環境を改善する用品など、花粉症ビジネスも広がりを見せそうだ。
[2010年3月12日 20時50分 日刊自動車新聞 ]