トヨタ自動車と富士重工業が共同開発するコンパクトFRスポーツカーと、ホンダが来年2月に発売するハイブリッドスポーツカーに、アフターマーケット関係者が熱い視線を送っている。少子高齢化や若者の車離れなど社会構造の変化を背景に用品業界が苦戦する中、市場活性化の一つの起爆剤になるのではと期待を寄せているからだ。チューニングパーツメーカーを中心に期待感は高まるが、一方で、車両価格や「電子制御の塊(かたまり)で手が入れられないのではないか」と不安視する声も聞かれる。トヨタとホンダがどのようなスポーツカーに仕上げてくるのか、用品業界も注目している。
「自動車市場にとって期待は大きい」(ティーズ高瀬嶺生社長)、「アフターマーケットにとってもうれしいことだ」(ブリッツ山口聡社長)。トヨタが第41回東京モーターショー2009に出展したFT―86コンセプトの市販化に対する期待は大きい。同車は2リットル水平対向4気筒NAエンジンと6速MTを組み合わせた小型FRスポーツカーで、「ドライバーがアクセルやステアリングを意のままに操ることができ、もっと走りたくなる車」(豊田章男社長)に仕上げるという。2011年の販売を目指し、開発が進められている。ネーミングが示す通り1987年に生産を終えたハチロクことレビン/トレノの再来として、「パワーは求めない。水平対向エンジンを生かしたバランスのいい車に仕上げてほしい」(日本自動車用品・部品アフターマーケット振興会=NAPAC=田中毅会長)と早速注文を付けるほど、用品業界への波及効果は大きいと見る。
ただ、スポーツカー市場の復権には別注文を付ける声も聞かれる。「他メーカーがライバル車を出す必要がある。かつてハチロクとシルビアが競い合ったように、同一市場の中で各社が特徴を持って競い合うことが大事。そうすることで市場はさらに盛り上がるはず」(エイチ・ピー・アイ下間信幸企画開発マネージャー)と指摘する。
価格を不安視する声も少なくない。田中氏も「200万円弱が理想だ」と語る。スポーティングパーツを製造販売するメーカーで組織するNAPACのASEA事業部会員各社も200万円前半を希望する声が多い。価格設定次第では「若者も反応するかもしれない」(山口氏)のがその理由だ。だが、若者の車離れは加速し、少子高齢化や趣味嗜好の多様化も進んでいる。ハチロクが現役だった20年前とはまるで別物の社会構造に変化しており、「今の若者にハチロクと言っても知らないのではないか。業界関係者や昔乗っていた人は喜ぶだろうが、若者への訴求力は少ないかもしれない」(カー用品店関係者)と危惧する声も聞こえてくる。
一方、「走る楽しさと低燃費を両立した、従来にない新価値を提案する」(伊東孝紳社長)ホンダのハイブリッドスポーツカーCR―Zへの期待感も高まっている。同車は「環境問題が叫ばれる今日、スポーツカーに求められる一つの回答」(高瀬氏)であると同時に、「モーターは燃費向上にも振れるが、パワーアップにも振れる」(山口氏)ことから、チューニングの新たな商材になる可能性を秘めている。ただ、「消費者の車に対する価値観はいかに燃費をよくするかにシフトしているので、電子制御を活用した新たなチューニングの方向性を検討する必要がある」(同)ことも事実。CR―Zの登場により、スポーツカーに対するチューニングそのものが変革を遂げるきっかけになる可能性もある。
車が本来もつ走る楽しさを訴求する両スポーツカー。高い走行性能と操縦安定性、安全性を兼ね備えるのは間違いないが、「カーメーカーが対応できない細かいニーズに応えていくアフターマーケットの役割は変わらない」(カー用品店関係者)。だからこそ、「カーメーカーにはアフターマーケットが担当するゾーンを残す商品戦略を立ててほしい」(ゼロスポーツ中島徳至社長)、「消費者が求めているのはスポーツカーだけではない。車をイジれることが不可欠。スポーツカーとしての性能と消費者が自由に改造できる部分も両立しないと、スポーツカーとして成立しない」(自動車用品小売業協会の住野公一会長)と指摘する声も多い。
豊田社長は車造りついて「車にもエコカーならではの、ミニバンならではの、スポーツカーならではの味がある。走りだけでなく、スタイルや乗り心地、座り心地など、車は料理に負けないぐらい味わい深いものだ」と語る。トヨタ(スバル)とホンダはどんな味付けのスポーツカーに仕上げてくるのか。アフターマーケット関係者も固唾をのんで見守っている。
(水町 友洋)
[2009年10月28日 18時50分 日刊自動車新聞 ]