【ミュージアム探訪】ポルシェミュージアム(前編)

ポルシェミュージアム「ポルシェ・プラッツ」
館内(デパートの3階分くらいはある長いエスカレーター)
館内(ポルシェ・タイプ64の展示)
館内(図書館)

その名も「ポルシェ・プラッツ」と呼ばれる、ドイツ・シュトゥットガルト市ツッフェンハウゼンのポルシェ社工場そばの駐車場跡地に、ミュージアムはまったく新たに建設された。巨大な箱が斜めに宙に浮いているような奇抜な外観は、遠くからでも目に飛び込んでくる。コンペティションを勝ち抜き、170社の中から選ばれたデルガン・ミースルというオーストリア・ウイーンの設計事務所が設計したものだ。
このミュージアムが完成する以前にも、ポルシェは長年にわたって近くに小規模のミュージアムを公開していた。ただし、20台程度を狭いスペースに並べたもので、とても新しいものを連想できる代物ではなかった。

新しいミュージアムの外観を、ひとことで説明するのは難しい。3本の支柱で支えられた巨大な多面体の一面がガラス張りになっている。来場者は、すり鉢状に緩やかに落ち込んだ入り口から館内へと入っていく。不釣り合いなほど、入り口が狭く小さい。入場者の流れをいったん絞り込み、肝心の展示スペースの前で一気に開放するための演出だろう。

日本のデパートの3階分くらいはある長いエスカレーターで展示スペースへと上り、目の前で出迎えてくれるのはタイプ64。「ベルリン・ローマ・ワーゲン」だ。1939年に、ベルリン・ローマ間の長距離速度記録挑戦のために作られたシングルシーター。
のちのポルシェ356や、すでに発表されていたフォルクスワーゲンのプロトタイプを想起させるに十分な造形的な特徴を備えている。
「このクルマを現実的な姿に置き換えたのが356だ」とうたわれてこそいないが、技術的にも延長線上にあることは一目瞭然だから、来場者が最初に目にするクルマに選ばれたのだろう。地肌をむき出しにされ、後ろにいくに従って絞り込まれていくそのスタイリングは、まさにポルシェの原点を体現している。

新しいミュージアムに展示されているのは約80台。バックヤードには入れ替えて展示できるものが約350台もあり、そのすべてが、そのまますぐに走りだせるコンディションに保たれている。展示車を常に入れ替え、また、世界各国のヒストリックカーイベントや企画展などに収蔵車を参加させる「ローリングミュージアム」というコンセプトが今日的だ。
ミュージアムにはクルマが並んでいるだけでなく、1931年の設計事務所開設以来の設計図や写真、書籍、カタログ、ポスターなどが整理されたアーカイブと図書館、ワークステーション、レストアルームなどが併設されている。また、見学者が楽しめるカフェや本格的なレストラン、ミュージアムショップなども充実している。

(文=金子浩久)

【編集協力・素材提供】
(株)webCG http://www.webcg.net/

[ガズ―編集部]