堺市が管理するクラシックBMWコレクション

BMWと言えば、国内でも相当の台数が走っている、おなじみのドイツの乗用車メーカーですね。実は今年2016年は、BMW創立から100周年という記念すべき年。だからというわけではないのですが、とても貴重なクラシックBMWを見ることができる機会があるという情報を入手したので、大阪の堺まで行ってきました。
今回は、堺市が所有するBMWコレクションについてご紹介したいと思います。

堺市が管理するクラシックBMW

大阪府堺市には数十台にも及ぶクラシックBMWが今もなお保存されています。市の税金でクラシックカーを購入? そんなことはありませんよね。
かつてカメラや写真用品を中心に販売していた「カメラのドイ」というチェーン店がありました。堺市のコレクションはすべて、この「カメラのドイ」創業者、土居君雄氏が集めたものなのです。

しかし1990年。土居氏が急逝した後、このコレクションをすべて引き継いだ夫人が土井氏ゆかりの地・大阪府堺市に寄贈し、管理するようになったのです。ただし、クラシックカーを維持するのにかけられる予算は限られ、なかなかできることには限度があるというのが実情。しかしそんな中でも年に2回ほど機会を設けて市民に向けて一般公開を実施しているのです。

例年春と秋に公開しており、今年も4月23日(土)~24日(日)の2日間、堺市南区の泉北ニュータウンにあるコレクションの保管場所・堺市竹城台倉庫で一般公開が行われました。貴重なモデルの展示のほか、エンジンのかかるクルマに関してはエンジン始動のデモンストレーションや、記念撮影ができるクルマも登場。観覧料は無料で、限られた条件の中で最大限にコレクションを堪能できるコンテンツが用意されていて、市民が中心で子供からお年寄り、クルマの好きな人に限らず、散歩がてらきたという家族連れの来場者なども散見されました。

泉北ニュータウンの南向きの斜面に建つこの倉庫、もともとは市の清掃局のトラックを停めていた場所なのだとか。天井が随分と高いはそのため

実は今回で3回目の見学となる筆者。そもそもBMWジャパンが誕生して以降は実にたくさんのクルマが輸入され、目にする機会も多いもの。しかし1960年代以前のモデルは随分と珍しい、と言っても希少価値を伴っているわけではなく、影が薄い面が否めません。
猫も杓子もクラシックカーでおしなべて価格が高騰する今。クラシックカー相場の中ではそれほど高くないが、実に素敵なクルマが多いBMW。一方、そのルーツについて明らかにされている部分が少ないという点は、由々しき事態だと言えるでしょう。

エントランスを入るとイタリアのイソ社が製造していた、オートバイのエンジンを積んだ小型コミューターカー・イセッタが展示されていた。自社でもオートバイを製造しており、そのエンジンを用いたライセンス生産を開始なくして、戦後BMWの復興はありえなかっただろう。これは実際にイセッタに乗り込んで撮影。前面のドアが開くのが特徴で、今では絶対できない構造の自動車だ

その点、このコレクション。今のBMWに至る道のりがかなり深く紹介されているだけでなく、土居氏の意思やコレクションのポリシーのようなものも感じることができます。時代に翻弄され、様々なメーカーと合併を繰り返し、今のBMWに至ったその過程に存在したクルマたち。このコレクションを見ていると、クルマ作りの難しさ、ブランド構築の難しさのようなものも垣間見れるのです。

BMWが好きな方には一層理解が深まるかもしれませんし、それ以外の方にもBMWを再評価させる材料を多くもたらしてくれるそうです。

「マルニターボ」と親しみを込めて呼ばれることもある2002ターボ。このクルマに憧れてクルマ好きになった方もいるのでは。コンディションは良好で、たちまちの一発始動。しかもブレのないアイドリングを来場者に披露した。その重厚なエンジン音は最近のBMWのモデルにも通じる印象があり、エンジンメーカーとしての誇りを感じる

ただ、一度でも見てエンジン音を聞けば、メーカーとしての自負や誇りのようなものを感じますし、何よりコレクションを囲む人(見学者、スタッフの皆さん)が自然と笑顔になっている。このこと自体がコレクションの価値を代弁しているようにも感じます。

「どうにか現状を維持するのが精一杯。しかし、とても貴重なクルマをお譲りいただいたことは身の引き締まる思い。一人でも多くの方にご覧いただき、このクルマを通じて市政にご理解いただき、市外の方には堺市の魅力に興味を持っていただければ」と担当者の方は話してくださいました。

自動車を製造する点については一流になったかもしれませんが、今までどういう経緯でそれが発展してきたか、どんなクルマがいたか知ることについては、とても恵まれた環境だとは言い難い日本。そんな中でクラシックカーを「現状維持」させるだけでも大変なこと。現状を目の当たりにしていただくことも、また価値があるのかもしれません。

ボディ整形の際に用いた木型もコレクションされている。もはや産業遺産と言ってもいいかもしれない

いずれにせよ散逸させてはならない顔ぶれのコレクション、次はまた秋口におそらく告知が出ることでしょう。ぜひ堺市のホームページをチェックしていただき、ぜひとも一度はご自身の目でお確かめいただくべく、ぜひ堺市までお出かけください。

階下へ降りていくと所狭しとコレクションが置かれていた。BMWが発展していく上で欠かせないV8のモデルや、後にBMWと合併するハンス・グラースのクルマたちなどバラエティ豊富。こういうクルマたちが今のBMWのルーツだということを見るだけでもとても価値がある。中にはマセラティも。ハンス・グラースのクルマのデザインも手がけたデザイナー、ピエトロ・フルアのマイルストーン的な仕事であるこのクルマがここにいる点にも志の高さを感じる
コレクションのクルマのエンジンが始動されるパフォーマンスも。このイセッタと2002ターボも実際間近でエンジン音を聞くことができた。イセッタは、思わず「頑張って!」と応援したくなるようなエンジン始動。しかし一度かかれば元気よく回るエンジン。会場には安堵にも似た雰囲気が広がった
こちらのBMW・503カブリオレは実際に車内に乗り込んで記念撮影ができた。堂々とした雰囲気の見た目とは裏腹に「さあ、行くぞ!」と走る意欲を掻き立てるドライビングポジションには、BMWの血統を感じる
こちらのBMW・3/20AM-4もエンジン始動の実演が実施された。クランクバーを回すスタイルの指導方法は子供から大人まで注目の的。車内には可憐な一輪挿しが飾られていた
BMWがイセッタ600ベースにミケロッティのしゃれたデザインのボディを与えた乗用車。700LSは本格的な乗用車への足がかりとして忘れることのできない一台だ。このクルマもエンジンがかけられた。リアに搭載している水平対向2気筒エンジンは一度目をさますと元気な音を響かせる
コレクションではないがBMWの最新モデルも展示。開け放ったドア越しに見る今までの足跡。こういう体験もここでしかできないことだ
クラシックBMWを代表する一台と言っていいだろう。507ロードスターは息をのむ美しさだ
BMW・1600GT GLAS。1966年にハンス・グラースを吸収したBMW。グラースのスタイリッシュなクーペを活用して登場したモデル。だいぶ雰囲気が違うがイタリア人デザイナー、ピエトロ・フルアの手によるもの。華やかな雰囲気の陰にこの時代のBMW独特の苦悩、悲哀、迷い、ブランドの行く末を案じるかのような雰囲気は独特、なんとも言えないものがある
ここに来る楽しみはこのGLASのクーペ。同じデザインのBMW V8クーペと並んでいる。とても美しい。ピエトロ・フルアのバッジが誇らしい

(中込健太郎+ノオト)

[ガズー編集部]