布製ボディの電気自動車「rimOnO」 元経産官僚&元トヨタデザイナーの挑戦

2016年5月に発表された「rimOnO(リモノ)」は、柔らかくてかわいらしいデザインが特徴の超小型EV(電気自動車)です。開発したのは経済産業省出身の伊藤慎介さんと、元トヨタ自動車デザイナーでznug design代表の根津孝太さん。開発パートナーの「ドリームスデザイン株式会社」奥村康之さんとともに、開発に至る経緯や苦労話などをお聞きしてきました。(以下、敬称略)

(左上)ドリームスデザイン株式会社 鳥羽宣秀さん、(右上)同、奥村康之さん、(左下)株式会社rimOnO 伊藤慎介さん、(右下)同、根津孝太さん

――rimOnOはどのような経緯で生まれたのでしょうか?

伊藤:私はもともと経産省で電気自動車やスマートハウス、スマートグリッドを推進していました。「騒音、排ガスが出ないクルマ=人の生活空間に近づけることができる」という発想で、電気自動車が走る街づくりを考えていたんです。あるとき、根津がzecOOという電動バイクを作っているのを知りまして。「こういうかっこいい乗り物を少人数で作れるんだ」と驚いて、根津にコンタクトをとったのが最初ですね。

根津:僕は2012年からTOYOTA「Camatte」というコンセプトカーのプロジェクトに関与しているのですが、そのコンセプトカーに乗ることができるお台場のメガウェブに伊藤を連れて行ったら、大変感動したみたいで。「小さくてかわいいクルマって、いいな」と。

伊藤:2013年ごろから、国土交通省が「超小型モビリティ」の実証実験を始めました。地方の高齢者が公共交通機関だけで移動するのは難しいという社会的課題があり、それを解決するために最低限の移動手段を提供すべく小さなクルマにチャンスを与えようとしてスタートした制度です。スタートしたころの状況では、3年ぐらい実証実験をやったのちに車両規格ができて、市販できるような制度になると考えられていました。そういうチャンスがあるのであれば、我々がプロトタイプを作って商品化を進めれば、ちょうど良いタイミングで制度が整備されているのではないかと思い、経産省を辞めて2014年9月に「株式会社rimOnO」を立ち上げました。

――デザインコンセプトはどのように?

根津:このクルマは「人にどれだけ近づけるか」というのがテーマです。鉄ではなく布であれば威圧感がなく、ぬいぐるみのように扱ってもらえる。素材を変えることで、人への距離感を変えていけるんじゃないか、という思いがありました。

初期のスケッチ

――設計とプロトタイプ製作は名古屋の「ドリームスデザイン株式会社」が担当されているんですよね。東海地方にそういった会社が多いのでしょうか?

奥村:やはりトヨタさんがいるというのが大きいですよね。ウチ以外にもプラスチック製品や樹脂部品を熟知しているメーカー、布ボディを製作してくれたメーカーなど、東海エリアの会社がかなり協力的に動いてくれました。

外装素材はクッション性のあるウレタンを布で覆ったもの。将来的には着せ替え可能にする予定だ

――ハンドルはバイクのような「バーハンドル」なんですね。

根津:最近の高齢者事故のニュースをみると、原因の多くはアクセルとブレーキの踏み間違えです。であれば、アクセルとブレーキは分離させたほうがいいんじゃないかとバーハンドルにしました。ブレーキは自転車と同じですから、操作も比較的簡単です。

奥村:人が初めて自分で運転する乗り物は三輪車で、Tバーですよね。おばあちゃんの手押し車もTバー。最初と最後がTバーなんですよ(笑)。

操作はすべてバーハンドル。足元にペダルがないため、意外と広く感じる

――最高速度が45km/h(検討中)となっていますね

根津:それ以上出せないというわけではなく、「こういう乗り物に適した速度は何km/hなんだろう?」と議論の上で設定したのが45km/hです。

奥村:高速道路を走るのでなければ、遅くてもいいんじゃないか、と。そうすることで、rimOnOが人に危害を加えるものではなくなります。それが「人に近づける」というコンセプトなんです。

根津:この話をすると、かならず「速いクルマと混走するときに、邪魔になるんじゃないか」という議論になる。でも、都会にも生活道路がたくさんあるし、田舎だとそもそもそれほど多くのクルマが走っていません。青梅街道みたいな幹線道路を想定して「邪魔だ」というのは、あまりにも議論の幅が狭いと思うんですよね。

――昨年5月に発表されたあと、どんな反響がありましたか?

伊藤:問い合わせが多いのは、70代の男性と50~60代の女性。70代の方は、「自分で運転したいんだけど家族が認めてくれない」、「本人も不安になってきた、でも移動できないと生活が成り立たない」という人が多いですね。50~60代の女性は親御さんの介護のために必要というニーズです。「親が要介護になったので自分がクルマに乗せて連れて行く必要がある。でもペーパードライバーなので、rimOnOならなんとか運転できるかも」といった電話もありました。このように、現実問題として困っている人たちがいる。「いつ買えるんですか?」という切実な要望はかなりたくさんいただいています。

――自動運転についてはどのように考えていますか?

伊藤:自動運転の技術はものすごい勢いで進歩しているので、我々もいずれは取り入れたいと考えています。でも、今この瞬間に必要とされているのは「それほどスピードが出ない、危なくない、簡単に運転できる」乗り物なんです。

根津:事故が起きる危険性という観点で言うと、「軽い、ゆっくり走る、柔らかい」というのは自動運転との相性もいいはずなんですよね。

――制度面については、現状どのようになっていますか?

伊藤:ヨーロッパには原付免許で2人が乗れるL6eという制度があります。「日本版L6e」の導入可能性について国土交通省で議論をしていますが、いまだに見通しが立っていない状況です。制度ができないことで困っているのはトヨタさんの「i-ROAD」も同じですよね。なるべく早く仕組みを作ってもらいたいと思います。現状の超小型モビリティ制度の最大の問題は、走行地域が限定されていること。渋谷区内しか走れない乗り物では、まったく使い物にならないですから。

――気になるのは発売時期と価格ですが、今どのような状況ですか?

伊藤:開発資金の調達に苦労していまして、今の見通しでは第1号車の市販は2018年になりそうですね。まずは1人乗り仕様で出します。カテゴリーで言うと「ミニカー(原付ミニカー)」。その後に2人乗りを出したいと考えています。

――価格は 100万円(目標) とありますが?

根津:そうですね、なるべくそこに近づけたい。でもベンチャーなので、いきなり量産体制でドーンとは作れない。難しいですね。値段は下げていきたいですが、まず誰かが買ってくれなければその先には進めませんので。

――その他、開発を進めるうえで苦労している点は?

伊藤:日本は、電気自動車のベンチャーがかなり少ないんです。一方、アメリカ、中国、インドではいろんな会社が出てきています。結局チャレンジしやすい国から出てきた乗り物が、デファクトスタンダードになっていく可能性が高い。もっと新しいことにトライできる環境を日本国内でも作っていかないと、世界に負けてしまうリスクも高まる気がします。こう言ってはなんですが……、元役人と元トヨタなど国内外で幅広く活動してきたメンバーが本気で取り組んでもめちゃくちゃ苦労しています。モーター1個の調達でさえ、ですよ。ガッカリしたことが何度あったか(苦笑)。

根津:日本の自動車産業がずっと”城下町”でやってきたので、突然知らない人が訪ねてきても「なかなか売れない」ってなるわけですよね。そういう気持ちもわからないわけではないですけど、世界の視点で見ると競争力を失っている。そこには早く気づいていただきたいと思います。

――今後の予定は?

奥村:確定ではないですが、5月に横浜で開催される「人とくるまのテクノロジー展」に出展する予定です。多くの人に知ってもらうとともに、新たに協力してくれるパートナー企業を探すという目的もあります。

見た目のかわいさに惹かれて取材をしたのですが、聞いてみると「高齢化社会」「ベンチャーが育たない日本の自動車産業」など、多岐にわたる問題点が浮き彫りになりました。制度、価格などまだまだ課題は多いようですが、こんなかわいいクルマが街中を走っていたら楽しいですよね。設計・技術担当の奥村さんがrimOnOに対して「この子が~」「この子は~」と話していたのが印象的でした。最後に、名前の由来を紹介して終わりにしましょう。

「のりものから“NO”をなくして リモノです」

(村中貴士+ノオト)

[ガズー編集部]