日本から渋滞が消える日は来るのか-東京五輪、IoT、自動運転…その時VICSは
多くのドライバーにとって、道路渋滞は苦痛なひとときだ。国土交通省が平成24年の道路状況をもとに算出したデータ(※1)によると、日本の自動車乗車時間のうち約4割は、道路の混雑によって余計にかかっている時間だという。
道路渋滞は環境への悪影響や燃料消費増、経済損失からの観点からも解消すべき課題だが、どうすれば解決するのか。道路交通情報通信システム「VICS(ビックス)」を管理している、一般財団法人 道路交通情報通信システムセンターの専務理事・岩崎泰彦氏、常務理事・本郷俊昭氏に聞いた。
VICSの目的は、「日本から渋滞をなくすこと」
VICS(Vehicle Information and Communication System)は、渋滞や交通規制などの道路交通情報をリアルタイムに送信し、カーナビゲーションなどの車載機に文字・図形で表示する情報通信システムだ。
「VICSは、日本から渋滞をなくすことを目的に1996年にスタートしました。現在、VICSが交通情報を提供できる路線は、高速道路や国道、都道府県道など『基本道路』の総延長約38万Kmのうち、約18万Kmに達しています」(岩﨑氏)
渋滞は主に市街地とその近郊で起きている。渋滞を減らすために道路を増やすことは、都市部ではもう難しい。そのため、情報によって道路の交通の流れをスムーズにし、道路利用の効率を高めるのがVICSの目的だ。
VICSは2015年から新サービス「VICS WIDE」をスタート。従来のVICSよりも大容量かつ精度の高い情報をカーナビへ提供するシステムだ。
単に「混雑」や「渋滞」だけでなく、区間ごとの通過時間情報(都内の一部の交差点では右左折・直進の違いによる通過時間情報までも)を活用することで、通過時間を基準にしたルート選びが可能となり、よりスムーズな道を選べるようになった。
また、従来のFM電波からの情報だけでは実現できなかった「もっとも移動時間の短いルートを自動的に案内する」という機能も加わっている。このVICS WIDEにより、道路混雑時の移動時間が短くなったことを実感しているユーザーも少なくないだろう。
さらに、気象情報を地図上に表示したり、津波や噴火といった特別警報をポップアップ表示したりする機能も追加された。また、VICSは今年度中に『大雨情報提供サービス』を全国展開する。
どんなときも「スムーズな移動」のサポートを
VICSは、通常時の渋滞情報の提供にとどまらず、大雨や津波など災害から人々を守るための情報伝達ツールとしての役割を担おうとしている。特に、東日本大震災後の発生後、機能の強化を進めてきた。
「通常時に渋滞をなくすことはもちろん、非常時の安全な移動のサポートも担えるようになれればと思っています。また、東京では2020年にオリンピック/パラリンピックが開催され、その際に大規模な道路規制が行われることが予想されます。その情報をカーナビ上に表示してドライバーをサポートするシステムを整備することを考えています」(岩崎氏)
2020年の東京オリンピック/パラリンピックの会期中は、都内の交通が混乱することが考えられる。交通規制に加え、交通量自体が増える。また、駐車場が見つからず混雑した道路から脱出できない……などということも考えられる。VICSは、臨時駐車場の空車情報を提供する仕掛けも用意する予定だ。
IoT時代、自動運転時代の到来で、VICSはどう連携する
これから、道路を走るクルマたちの多くがセンサーとなり、大量の情報を集約、解析できるIoT時代がやってくる。
「実は、現在は自動車メーカーやカーナビメーカーがそれぞれ独自でプローブデータ(車両の走行履歴を集計した移動時間情報)を集めて活用しているのですが、VICSが各社からプローブデータを収集し、より大きなデータとしてまとめることを検討しています。うまくいけば、道路全体をいまよりももっとスムーズに利用できるようになるはずです」(岩﨑氏)
すでにホンダとパイオニアはデータの相互活用を行っているが、VICSがビッグデータをまとめてユーザーに提供することで、より精度を高めて交通の流れを円滑にしようという考えだ。今年度からは、どうすれば各社のプローブデータを取りまとめて効率よく活用できるかの調査を行なう予定だという。
また、今後自動運転車が道路を走るようになったとき、VICSはどのように連携するのか。
「自動運転時代の到来に備えて、目的地の方向にある規制情報や落下物情報など、クルマが知りたい情報を伝えられるシステムを整えておく必要が出てきます」(本郷氏)
AIがVICSの情報を参考に空いている道路を選べば、さらに交通の流れはスムーズになるだろう。
「VICSの意義や目的は、サービス開始当初から変わりません。自動運転の時代になっても同じ。日本から渋滞をなくすことが最終目標です」(本郷氏)
(工藤貴宏/ノオト)
[ガズー編集部]
※1:国土交通省「交通流対策について」平成27年3月
<取材協力>
一般財団法人 道路交通情報通信システムセンター
専務理事・岩崎泰彦氏
常務理事・本郷俊昭氏
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