トヨタ アルファード/ヴェルファイア開発者インタビュー(デザイナー編)
アヴァンギャルドだからこその高級感
2015年1月に発売された、最新型のアルファード/ヴェルファイア。その大きなトピックとなっている内外装のデザインについて、開発の背景や製品化に際してのこだわりを、担当者に語ってもらった。
「先代を引き継ぐ、新たなデザイン」が大事
「絶対に立派でなければならないし、絶対にカッコよくなければならない。そういうクルマなんです」
アルファード/ヴェルファイアには、これまでに培われてきた強力なイメージがある。ユーザーの期待を裏切ることは許されない。成功しているモデルの形を変えるのは、デザイナーにとって勇気のいる行為だ。
「売れないと困りますから、プレッシャーはありました。ただ、逆に言うとコンセプトもお客様の価値観も、ある意味わかりやすいとも言えます。クルマとしての狙いどころが明確なクルマですから、そこさえずらさないようにすればいいわけです。先人が『アルファード/ヴェルファイアはこういうクルマです』という意識付けをしてきたので、スタートしやすいというところはあるかもしれません」
とはいっても、変化が見えなければ代わり映えしないと言われるし、イメージを崩してしまえば拒否反応が起きるだろう。先代を引き継ぎながらも、新しいデザインの方向性を打ち出す必要がある。
「2台に共通するデザインコンセプトがあって、それが“アヴァン・グランド”です。新たな高級表現を作り出すためにはアヴァンギャルドな雰囲気を持つことが必要だということで、この造語を考えました。いつまでも今までのわかりやすい高級感を引きずっているわけにはいかないのです」
ファッションや建築から新しい高級を学ぶ
ユーザーの意識が変わりつつあることに、宇角さんは気付いていた。まずはその変化途上にある価値観を探ることが必要だった。
「ユニクロのような、センスがいいけど値段は安いもの、お金をかけて自分の欲しいものをなんとか手に入れたいというもの、どちらもあるんです。消費志向が二極化していますよね。今の消費者は、それをうまく使い分けています。アルファード/ヴェルファイアの場合は、本物の高級なところを狙うことが明確でした。そこに新しい高級の価値観を付け加えていく作業を行ったんです。そこで考えたのが、『先端豪華表現』でした。ファッションや建築の世界では、高級でありながらも斬新でインパクトのある表現が現れています。伝統的な表現とは大きさや比率が大きく異なっているのに、そこに高級感が感じられる。あえてバランスを変えることで、新たな方向性を見せているんです」
トヨタの中で伝統的な価値を担うモデルといえばクラウンだが、そこにも変化の波は及んでいた。大胆なフロントグリルを取り入れ、ピンクの外装色を採用するなど、以前のクラウンでは考えられなかったような冒険心を見せている。
「弊社の中でもこんなにクラウンを変えて大丈夫なのかという声もありましたが、新しいクラウンはマーケットに受け入れられました。お客様の価値観のほうが進んでいたんですね。私たちとしては、あれを上回らなければならないということで、さらにハードルが上がりました」
ヒエラルキーを壊す新たな価値観
ファッションや建築から学んだものを、まずは言葉に落としこむ作業を行った。それで見えてくるものがある。共通言語としてピックアップしたものを、別な分野の自動車に適用するという方法をとったのだ。
「それがアヴァン・グランドで、アルファードには豪華勇壮、ヴェルファイアには大胆不敵というキーワードを用いました。豪華勇壮はわかりやすい価値観で、どちらかというとクラウンに近い要素を持つヒエラルキーにのっとった高級感の表現です。大胆不敵というのは、それとはまったく違う価値観があるんじゃないかということがベースになっています。先代のヴェルファイアが若い人に人気となったのは、ヒエラルキーから外れたところから出た価値観に親和性があったのだと分析しました」
ミニバンはもともとセダンにあったヒエラルキーを破壊する存在だったが、それを徹底した。
「周囲の目を気にしなければならない立場というものもありますが、何よりも自分の価値観を大事にしようという人が増えています。内向きなのか外向きなのかで、大きな違いになります」
「大空間高級サルーン」という言葉も、デザインにとって大きな意味を持った。
「ミニバンはハコですが、それを崩すんです。ハコに動きをつける、ハコを動かすことで、動感のある形を作っていきます。今までは室内空間を確保するために、なかなか意匠代(しろ)がとれませんでした。ミニバンは、スポーツカーのようにドア断面をたっぷり取れないという宿命があります。今回のモデルチェンジでは全幅を20mm広げ、室内は前モデルと同じスペースにしました。片側10mmを意匠代に使うことができ、ドア断面を豊かにすることが可能になりました」
わずか10mmと感じてしまうが、デザイナーにとってはこれが素晴らしいプレゼントになる。立体感を表現する上で、10mmは十分に使いでのある寸法なのだ。
制約があることこそが醍醐味
「1mm、2mmでも、造形的にはまったく違います。片側10mmのおかげで、抑揚のあるドア断面が実現できました。初代はドア断面にそれほど余裕がなかったので、ホイールのフレアまわりを強調するためにレリーフ的に立体感を出していたんですね。エジプトの壁画のようなものです。そのままでは陰影がなくなってしまうので、キャラクターラインを入れて処理していました。2代目ではもう少し全幅がもらえたので、ホイールフレアまわりをブリスター形状にしてスタンスを強調していました。でもベルトラインには意匠代がないので、やはりキャラクターラインが必要でした。今回は、初めてキャラクターラインに頼らずに動きを表現できたんです」
内装では、“アヴァン・ゴージャス”というキーワードを使っている。外観と同じように、斬新な方法で新しい高級感を表現している。
「Executive Loungeのデザインでは、飛行機のファーストクラスのシートを研究しました。国際線には負けますが、国内線のファーストクラス並みの幅はあるんです。両方のアームレストが可動式で、開けるとテーブルが出ます。まわりの加飾では見切りの管理をしながら違和感のないように仕上げるのが難しいところでした。フィルム巻きの曲げられる限界を見極めて仕上げるなど、見えないところに工夫があります」
内装にも、伝統的な方法とは異なる表現を用いている。ウッド素材で高級感を表すというのが定番だが、新技術によって今までになかった加飾を作り出しているのだ。
「素材の進歩なしには、新しいデザインはできません。エアロのグレードで使用している黒木目パネルは水圧転写というスタンダードな工法で作っていますが、中にホログラム層を入れるのは世界初です。光を当てると螺鈿(らでん)のように光るので、玉虫色に見えます。Executive Lounge用のパネルは3Dプリントの技術を使って実際に凹凸を作っていて、光を当てると本物の陰影が映ります。木をそのままコピーして乗せるのではなく、光による見応えをデザインに取り込むという考え方です」
思い通りにデザインを進められたのは、トヨタで初めてPCD(プロジェクト・チーフ・デザイナー)制度を採用したことが大きかったという。
「トヨタは車種が非常に多いので、一気通貫体制でやると非効率になりがちです。それで企画を考える人、先行する人、製品化する人を分けていました。専門化ということではいいんですが、最初の“想い”が薄れてしまうということにもなりかねないんですね。今回はひとりの責任者が専門家集団の知見も取り入れつつ、最後まで製品に持っていくという方法でデザインを行いました。これからは、これと同じ体制でクルマを作ることが増えていくはずです」
重要なミッションを終えて、宇角さんにはやりたいことがあるという。
「若い人のクルマ離れということが言われていますが、だからこそ若い人がどんなクルマに乗りたいかを調べたいと思っています。今までの価値観が通用しないなら、新しいものを作り出さなければなりませんよね」
宇角さんは、一台のクルマというスケールを超えて、新しいクルマ作りそのもののデザインを考えようとしているのかもしれない。
プロフィール
トヨタ自動車 デザイン本部 グループ長
宇角直哉
1989年入社。スープラのチームでスポイラーのデザインをしたのを手始めに、先行企画に携わる。ランドクルーザー200やマークXなどのエクステリア、SAIなどのインテリアのデザインに関わった。内外装のデザインを経験したこともあり、アルファード/ヴェルファイアのPCDを任されることになった。
[ガズー編集部]
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