限界を自分で決めてはいけない [レクサスLS600h、LS600hL 定方理チーフエンジニア](3/3)

すべてを一からつくり直した「LS600h」。

私がRX400hの開発を行っている頃、レクサスセンターではすでに「LS600h」の構想が進められていました。RX400hを送り出した私は、すぐにLS600hの開発にレクサスハイブリッド統括CEとして携わることになったのです。RX400hを完成させた余韻を楽しむ暇もありませんでしたよ (笑)。
最初に、使われることが想定されていた部品を一通り使って、クルマを組み上げてみたんです。それぞれの部品は最高級のものですから、十分に想定した性能はクリアしました。でも、振動騒音やドライバビリティなどの面で、どうしても物足りないところがありました。
なにせ「ザ・フラッグシップ・オブ・レクサス」を創ろうというのですから、妥協はできません。
一から全部、つくり直すことにしました。たとえばモーターなら、コイルの巻き方から設計し直すという具合。メンバーたちは、これはたいへんだと慌てていたようですよ。でも私はRX400hの開発で、エンジニアとしての存在価値を問われるような大変なできごとを一通り経験していましたから、大丈夫だと信じていましたね。
CEが「これくらいでいい」と思ったら、そこまでのクルマしかできません。限界を自分で決めることをせず、「もっと良いものにできる。まだまだ!」と自分もメンバーも引っ張っていく。それによって、不可能といわれたことも可能にしていく。それがCEの役割だと思います。

エネルギーのマネジメントを考える。

LS600hを発表した2007年は、初代プリウスの発売からちょうど10周年に当たります。私はLS600hがハイブリッド車の第1段階の到達点だと思っています。
では、ハイブリッド車の第2段階は、どんなものだろうか。それを考えるのが、今の私の大きなテーマとなっています。
世間では、ハイブリッドはフュエルセル(燃料電池)などの画期的な新技術が実用化するまでの"つなぎ"だと言われているようですが、私はそうは考えていません。
現在のハイブリッド車は、ガソリンで動くエンジンとバッテリーで動くモーターを組み合わせ、いいとこ取りをしたもの。いわば、現在の技術で最も効率的にクルマを走らせるためのエネルギーマネジメントの方法です。地球の温暖化を防ぐという大きな視点から見た時、どのエネルギーを使い、どうマネジメントするのがよいのか。その技術がハイブリッドだと私は考えているのです。
そうした視点から考えれば、次世代のクルマにふさわしいのは、たとえばディーゼルや太陽電池とのハイブリッドかもしれませんし、燃料電池も何かと組み合わせることで、より効率が上がるのかもしれません。
そのような次世代のクルマを、ぜひ手掛けてみたいですね。何せ私は"新しいもの好き"ですから(笑)、やりたいことがたくさんあるんですよ。

( 文:三枝義浩 )