カローラ開発責任者に環境性能への想いを聞く 安井 慎一

それぞれの時代に応じ、その時代が必要とした新しいコンセプトと技術を応用し、トヨタの歴史とともに進化してきたカローラ。2012年5月に11代目として生まれ変わり、1.5Lエンジンの大改良と新開発CVTなどにより、環境性能を大幅に向上しました。そのカローラにお客様の強い要望である時代が必要とする技術として、2013年8月、ハイブリッドシステム搭載車(HV)を追加設定しました。これにより、アクシオ(セダン)はトヨタ最小の4ドアセダンとして、フィールダー(ワゴン)はクラス初のステーションワゴンタイプとして、トヨタ車のHVのラインナップがさらに拡がりました。​

より多くのお客様に愛されることを目指して進化を刻むカローラシリーズ。その設計・開発の責任者として現場の指揮を執り続けたのは2002年からカローラの開発に携わる製品企画本部チーフエンジニアの安井慎一。カローラの進化を10年以上にわたり見続けてきた安井が、カローラシリーズの環境性能を中心にクルマづくりを通じた社会への貢献についてその想いを語ります。

プロフィール
カローラ チーフエンジニア 安井 慎一
所属:製品企画本部ZE チーフエンジニア
略歴:愛知県一宮市出身。1988年トヨタ自動車に入社。開発企画部でエアバッグの先行開発、その後、第2ボデー設計部でシートやシートベルトの開発を担当。1995年に第2センター企画部に異動し、ヤリス・ヴィッツの先行企画に携わり、1997年から製品企画部で、「ファンカーゴ」「bB」「イスト」「プロボックス/サクシード」の車両開発に従事。2002年から「カローラ」の開発を担当し、10代目海外カローラのコンセプトプランナーを経て、2006年には北米カローラのチーフエンジニアとして現場を指揮。2008年には11代目のコンセプトプランナーを経て、現在は国内外カローラのチーフエンジニアを務める。

世界のベストセラーカーが環境性能を向上すれば、地球環境への大きな効果に直結

環境の世紀ともいわれる21世紀において、環境対応をどのように捉え、開発に取り組んでいますか。

カローラの開発チームの部屋には、初代カローラの開発責任者 長谷川龍雄氏から私たち開発陣に向けて送られた「地球人の幸福と福祉のためにカローラを」という言葉が掛けられています。これはアフォーダブルな価格で、より高品質のクルマを提供し、地球上の人々に幸せになっていただく、それがカローラの使命であると。カローラがグローバルカーであるがゆえに、大きな責務の一翼がかかっていると考え、21世紀の地球人の問題解決のためにさらなる精進を期待したエールでした。もちろんこの言葉には環境性能の向上も含まれます。

カローラというクルマは、トヨタの基幹車種であると同時に、国内では大衆車の代名詞であり、そして150ヵ国以上で販売される世界のベストセラーカーです。2013年7月末には全世界累計販売台数が4,000万台を超え、良品廉価の原点として誕生以来、本当に多くのお客様に支えられ、モータリゼーションを牽引してきました。

トヨタは『エコカーは普及してこそ環境への貢献』と考え、エコカーを全世界で加速する戦略をとっています。しかし、どんな次世代エコカーが出てきても、広く社会に受け入れられなければ意味がありません。自動車の燃料は引き続き石油が主流と考えられているため、当面の普及の中心となるHVをはじめ、販売車両の多数を占める従来型エンジン車の燃費向上を進めていくことが非常に大切だと思っています。それゆえ従来型エンジンを中心に、年間100万台以上を販売するカローラの環境性能の向上は、地球環境に大きなインパクトを与えると考えています。

左から、初代カローラ、11代目カローラ(日本、北米、欧州仕様)

ハイブリッドシリーズの発売を早めたのお客様の声

フルモデルチェンジから1年3ヵ月のタイミングでハイブリッドシリーズが設定されたのはどうしてでしょうか。

11代目のコンセプトプランニングをやっていた2008年当時、国内版カローラにはいずれハイブリッドシリーズが必要と考えていました。そのため、将来的にハイブリッドシステムを搭載できるようプラットフォームを変えるなど準備を進め、アクアの開発チームとは頻繁に情報交換を行っていましたが、発売のタイミングまでは決まっていませんでした。
企画当時はリーマンショックやリコールなどの影響もあり、社内では「ハイブリッドを優先的に打ち出す車種は何か」という議論が何度も交わされ、まずはハイブリッド専用車であるアクアを全面的に訴求しようというのが国内戦略の方針でした。

今回、フルモデルチェンジからわずか1年3ヵ月ほどの期間でハイブリッドシリーズを発表した背景には、HVのラインナップの議論を重ねる中で、やはりカローラが大変重要なクルマであるということを再認識するとともに、ひとえに本当にたくさんのお客様からの「カローラのハイブリッドが欲しい」という強いご要望に応えた結果です。

カローラは永くお客様に育てていただいたクルマです。そのため11代目の企画を始める際にも常に、「お客様の声に真摯に耳を傾ける」という想いを開発の根底に据えて取り組んできました。
クルマにはたくさんの願いが詰まっており、その願いはお客様のライフスタイルや家族構成、住んでる場所、クルマを運転するシーンなどにより様々です。お客様にしっかり向き合い、その声に耳を傾けることこそが「いいクルマづくり」のスタートであり、カローラの本質だと考えています。

大型化の歴史に別れを告げ原点回帰

カローラの具体的な環境性能について教えてください。​

まず、11代目日本向けのカローラは、「大人4人が安全・快適に長距離を移動できるミニマムサイズのクルマ」をコンセプトとしています。これはカローラの原点であり、46年の歳月を経ても通用するカローラの根幹です。この原点に立ち返ってすべてをゼロから再構築した結果、アクシオは先代よりも全長が50mm、フィールダーは60mm短くなり、車両重量はそれぞれ約50~80kg軽くなりました。サイズが小さくなったから、軽くなるのは当たり前と思われるかもしれませんが、サイズの縮小比に対し車両重量の削減比の方が大きいということに注目していただきたいと思います。もちろんコンパクトになっても室内・荷室は広がり、視界は広く運転しやすくなっています。
軽量化は燃費の他にも、資源の節約、加速性能や運動性能の向上にもつながるので、環境の視点だけでなく、クルマを開発するうえでとても重要な取り組みです。

具体的取り組みは、生産技術の向上や、高張力鋼板(ハイテン材)の採用など様々な積み上げによるものですが、トヨタ初の取り組みとして樹脂製のバックドアをフィールダーに採用し、鋼板バックドアと比べて約2.5kgの軽量化を実現しました。これは構造部品の一部に熱可塑性樹脂TSOPを採用し、従来と同じ安全性能を満たしながら従来比約10%の軽量化を実現したことになります。

また、従来から使用していた樹脂部分を一体化することで部品点数を削減しています。部品点数の削減は、車両組み立て時のみならず、解体時の時間低減にも効果的でリサイクル性の向上にも貢献します。

アクシオのエンジンは、1.8L車を廃止し、1.5L車と実用性の高い1.3L車を新たにラインナップしました。フィールダーは、1.8L車と1.5L車になります。
1.8L車は、先代のバルブマチック(バルブリフト連続可変機構)とCVTを改良し、さらなる効率化により燃費を向上しています。

1.5L車は、小型・軽量化した新開発Super CVT-iを採用し、新開発エンジンとの統合制御でクラストップの低燃費を実現しています。また、信号待ちや一時停止時にエンジンのアイドリングを自動的にストップする「アイドリングストップ機能」をオプション設定しており、さらに燃費が向上します。

このアイドリングストップの作動時間がどの程度だったかをマルチインフォメーションディスプレイとドライブモニターで確認できるので、エコドライブの意識向上にも寄与するのではないでしょうか。
1.3L車は、エンジン内の摩擦を低減するなどして燃費向上を実現しています。

  • アイドリングストップ作動時間表示

一方、新たに設定されたハイブリッドシリーズは、アクアと同ユニットである小型・軽量・高効率化を追求した1.5Lハイブリッドシステムを活用し、プリウスを上回るJC08モード33.0km/L(アクアのオプション装着車と同じ)の低燃費を実現しています。 燃料タンクや駆動用バッテリーはアクアと同様、後席の下に設置することで、後席や荷室はスペースを犠牲にすることなくガソリン車とまったく同じでスペースを確保しています。荷室がフラットになるフィールダーもフロアボードをめくると、床下収納スペースやスペアタイヤがきちんと確保されています。

また、ハイブリッドシリーズは専用メーターを搭載しています。右下のマルチインフォメーションディスプレイには、エコジャッジやエコウォレット、エネルギーモニター、デジタルインフォメーションなどの画面をステアリングスイッチで切替表示できます。ハイブリッドシステムの出力や回生レベルをリアルタイムに表示したり、指針をエコエリアに保つことで、環境に配慮した状態で走ることができます。

エコジャッジ
エネルギーモニター

JC08モード燃費比較(掲載の燃費数値はシリーズの一部のみを記載しています)

アクシオ
1.3L 2WD CVT 1.5L 2WD CVT・SMART STOP機能付 1.5L ハイブリッド車
20.6km/L 21.4km/L 33.0km/L
フィールダー
1.8L 2WD CVT 1.5L 2WD CVT・SMART STOP機能付 1.5L ハイブリッド車
16.6km/L 21.2km/L 33.0km/L

ハイブリッドカーがついに「普通のクルマ」になったという記念碑的なクルマ

カローラハイブリッドシリーズと先行するハイブリッド専用車との違いは何でしょうか。​

カローラは50年近く11代にわたり進化を遂げてきたクルマなので、ずっと乗り継いでいただいているお客様がたくさんいらっしゃいます。そういったお客様がガソリン車からHVに乗り換えても違和感なく操作でき、パネルも従来通りのわかりやすさで安心して乗っていただけるクルマづくりを目指しました。
そこが未来感が盛り込まれたハイブリッド専用車との大きな違いかもしれません。

たとえば、トヨタ車のHVでは初めてとなる「アナログ式タコメーター」を装備しました。一部のレクサス車を除き、HVにはタコメーターはなく、スピードもデジタル表示が多いのですが、あえてガソリン車と同じ仕様にしています。
タコメーターはエンジンの回転数を表示するものですから、EV走行をしているとタコメーターは0を指したままという状態になります。しかし、これがいかにもガソリンを使用していない証としてわかりやすいと、お客様から好評を得ています。また、「HVは乗った時、どこを動かして良いか迷うことがあるが、カローラのハイブリッドシリーズは安心して乗れる」といったご感想もいただいています。
外装の仕様も大きな変更をしないようにしているのですが、これはガソリン車をベースにHVを設定する場合、ベース車と大きく変えないことで、HVが自然に大衆に拡がっていくようなイメージを持っているからです。

ハイブリッドシリーズを発表して2ヵ月が経ちますが、本当に幅広いお客様から、「普通のクルマ」になったハイブリッドカーとして選んでいただいています。カローラの扱いやすさや居住性を全く犠牲にせずハイブリッドシステムを搭載している。そんなカローラはハイブリッドカーの普及という役割を着実に果たしつつあり、ハイブリッドカーがついに「普通のクルマ」になった記念碑的なクルマだと思います。

[ガズ―編集部]