極上フォトジェニック ~いすゞ117クーペ(1950年式)~

TGRFで気になるおクルマがありましたので、少々レポート。ココロ奪われるその容姿に、声をかけずにいられなかったクルマがこちらです。埼玉県在住の渋谷さんのいすゞ117クーペ。無個性なクルマは作らないという当時の“いすゞイズム”と、このスタイルにゾッコンとのことで、なんといすゞ117クーペをグレード別に3台も所有! 想い出を語る渋谷さんに、極寒の朝でもほっこりさせていただきました。それでは、どうぞ。

初めてのこのクルマとの出会いは、70年代後半の18歳。近所のおじさんが乗っていたという赤い117クーペのスタイリッシュさに心を奪われたそう。18歳、男女問わず刺激と同居の世代ですから、その受けたインパクトの大きさと言ったら想像もつかないです…。もちろん、18歳の少年には高嶺の花だったのは言うまでもなく…、容易に手にできるクルマではなかったのは百も承知。当時は、2年落ちのいすゞ117クーペXCでも80万円切らなかった時代ですから、さらに高級車でも100万円前後だったことを考えれば、とんでもない金額ですよね。しかもDOHCではなくOHCエンジンのXCの値段でそれ。しかし、青年の心は万国共通、誰にも止められません。前に進むばかり!この勢いこそ、若さが為す術なのでしょうか、懸命にアルバイトをして半分の40万円を貯め足りない分は母親に泣きつき、晴れて購入に至りました。よくよく考えてみると、お母さまもきっとクルマ好きだったのでは?と勝手に思ったりもしていますが。

117クーペの魅力は、何と言ってもそのスタイリング。このクルマは、ご存じ70年代一世を風靡した世界的デザイナーのジウジアーロ(ジョルジェット・ジウジアーロ)が手掛けたものです。彼がデザインしたクルマの曲線は、この上なくエレガント。個性的なクルマ作りを信条としていたイスズにあって、一際、輝きを放っていた一台と言えます。そんな憧れの117クーペを買ったにも関わらず若気の至りで2年で壊してしまい…、乗り継いだのがグレードを上げたXG。ところが、これも2年で手放してしまい、しばらくは仕事に没頭する日々。それからずっと欧州車を乗り継いでいましたが、2000年あたりから、また117クーペ欲が目を覚まし始めた。そして手に入れたのが、この1975年式の117クーペXE。

最初に出会った時は、動かないクルマでしたが、迎い入れてからECGI(電子制御式ガソリン噴射装置)が壊れていたので外してキャブレターに取り替え、オートマチックミッションをマニュアルに変更したりと大がかりなところから手を加え、その後安全性に関わるブレーキの強化であったり、角目になってからのテンションのかかるシートベルト(当時のシートベルトは衝突してもストッパー機能がなかった)まで変更しました。できる限りオリジナルのパーツを使い、現代の交通事情に合わせ込んで作り上げたそうです。そのお考え通り、オリジナルの雰囲気を全く壊すことなく良い仕上がりになっているように思えます。

前述したように、渋谷さんは仕様違いの117クーペを3台所有しています。その理由は、このクルマが年代によって仕様が細かく違うという点。ミニカーならわかりますよ…、と了見が狭い私は驚くばかりです。そしてその3台とは、大きく分けるとハンドメイド型、量産型、角目型の3種類。117乗りの間では、ハンドメイドが一番人気があるそうですが、渋谷さんは“断然量産型”推し。この量産型のXEだけが1,8Lエンジン。また、ハンドメイド型も角目型も135psなのに対して、量産型は唯一140psの高出力エンジン。そこが最大のこだわりとの事でした。

この他に、所有する残りの2台は、77年式のXEと79年式のXG。今回取材したXEは色々と手を加えていますが、もう一台のXEとXGは、ほぼノーマルとのこと。そうすることで、117クーペの本来の姿を忘れないようにしているそうです。そのままの彼女でいて…という事でしょうか。

その他に、このクルマに入れ込む理由の一つとして、オーナーズクラブの会員であることも一つ。オーナーズクラブに所属することで、イスズの技術者と直接お話ができるそうです。生みの親まで知ったら、より深く117クーペを理解することができますよね。例えば、シート幅が日本人の体型に合わせて、455mmに設定し腰から背中がピッタリ密着するように考えられていること。目線の位置を考えて、ダッシュボードからメーターの位置、ハンドルの高さまで計算されていたり…。そんな開発秘話を聞く事で、さらにこのクルマへの愛情が深まっていくのは自然の事です。好きになってしまうと、あなたのこともっと知りたい…、当然のことです、はい。

最後に、このクルマの知識やそのお仲間との繋がりも充実した今、思うことは、「窓を開けて乗れるクルマに乗りたかったんですよね。キャブの音やガソリンの匂い、まさに18歳の頃に走るのが楽しくて仕方なかった頃のクルマなんです。女房ともよくドライブに行くんですが、夏の高原なんかで窓を開けて走ると蝉の声なんかが聞こえてくる。そうすると、そのドライブは忘れないんですよ。蝉の声を聞くたびに、あの時あの場所を走った記憶が甦るんです。ただのドライブが、特別なものになる。僕にとって、コイツはそんなクルマです」。

ありがとうございました。クルマと共に過ごしたこれまでの時間、わたしも長く生きておりますので、自分もそんな時があったと回想させてくれた素敵なエピソードたちは、ルックスがインスタ映え、フォトジェニックなだけではなく駆け抜けた背景も含め素敵。今、自分が運転席ではなく助手席に座りドライブしている姿を妄想中です。嗚呼…、なぜかローマの休日な気分(!?)。今は、奥様と共に新しい思い出をたくさん作られているようで、なんともうらやましい限り。決して上書きされることのない思い出が、ひとつひとつ増えていくんでしょうね~。くぅーーー!言葉の端端にクルマへの優しさや奥様への優しさ(多分)を感じるインタビューでした。

(写真 折原弘之)

[ガズー編集部]