BMW、電動化のシナリオ「PHEVは単なるエコカーではない」

世界的に環境規制が厳しくなる中、欧州車ブランドを中心にプラグインハイブリッド(PHEV)の投入が相次ぐ。中でもBMWは、量販車のPHEV化を積極的におこない、日本市場においても最多のPHEVラインアップを揃えている。

PHEVは「次世代の自動車」たり得るのか、をテーマにPHEVの今と未来を読み解いて行く特集の第二弾では、BMWが描くPHEV普及のシナリオを紐解く。BMWジャパンで電動化車両のブランディング、商品企画を取りまとめる岡田裕治氏に訊く。

電動化のシナリオ

----:BMWはプラグインハイブリッド車(PHEV)を昨年から日本市場に積極的に投入を始めましたね

岡田:いわゆるBMWモデルとしては、昨年秋の『X5 xDrive40e』が皮切りですね。それ以前では『i3』や、『i8』があります。iシリーズの発表は2013年の秋で、デリバリーの開始はi3が2014年春、i8が同年夏からです。

その後に、2015年からBMWの量販モデルでもPHEVを打ち出してきています。X5 xDrive40eの次が今年に入ってからの『330e』、それから『225xe アクティブツアラー』と続き、さらにこの秋には『740e』を追加する予定です。

----:そうしますとPHEVは740eで6車種目になりますか

岡田:i3をPHEVとは会社としてはあまり大きくいっていなくて、EV(電気自動車)の派生と考えていますので、5車種という言い方をしています。

----:それではi3と、それ以外のPHEVのメカニズムの違いを踏まえて、マーケティング上、商品性の違いを解説して頂けますか

岡田:まずはi3がどういう車かということからお話しします。新しい電動化技術である『eDrive』を訴求するために、まったく新しい『パーパスビークル』と社内では呼んでいますが、エネルギー消費が100%自然エネルギーで運用される専用のボディ工場を造りました。

カーボンでボディを軽量化して、EVのネガティブな部分となる電池重量をオフセットした車をつくり「駆け抜ける喜び」と電動化技術を両立させたのです。技術や環境に対する企業姿勢をBMWとして明確に打ち出してiシリーズはスタートしました。そして次のステップとして量販モデルを出していく。それがX5以降のPHEVシリーズになります。

ですから、iシリーズと量販のPHEVモデルではポジショニングが違います。革新技術を集めて台数よりも、イメージやBMWの考え方、方向性を具現化したものがiシリーズというわけです。

BMW i3

そして次のステップとしてX5から始まって、225e、330e、それから7シリーズ、さらにその後もどんどんとPHEVが続いていきます。

----:すべてがシナリオに沿っているというわけですか

岡田:そうです。BMWとしては将来的に電動化というのは必ず必要になってくる。それがいつか、10年後か20年後か30年後か、これはまだわかりませんが、電動、EVというのは必ず主流になってくるとBMWは考えています。

BMWジャパンで電動化車両のブランディング、商品企画を取りまとめる岡田裕治氏

量販することが目的

----:日本の自動車メーカーが取り組んできたHVは、EVに向かっていくための過程というよりも、ガソリンエンジンの燃費をより良くするための電動アシスト、アイテムとして使われてきたと思いますが、BMWはそれとは違うというわけですか

岡田:BMWもHVを出していましたので、そういう考え方で造ってきた時期もありました。ただHVとPHEVと何が決定的に違うかというと「充電できる」ということです。充電ができるということはガソリンに頼らなくても車が動く時代に対応できる、これが大きな違いというわけです。

----:通常の車をPHEV化するにあたってはエンジンとトランスミッションの間に薄いモーターを挟むようになっていて、他のヨーロッパメーカーのPHEVでも、ほぼこの方式がとられています。非常に合理的に、現行ラインアップをPHEV化しやすい構造になっていますね

岡田:コンパクトにできていて、かつ従来のパッケージをそれほど崩さずに使えるというのが特徴です。モーターの分だけ寸法は長くなりますが、パワートレインもシャシーも現行のものが使えるように、最初から設計されています。

----:そこがPHEVを普及させるためのシナリオでもあるわけですね。そういう仕組みがあるからこそ、魅力的な値段設定にすることができると

BMWの量産型プラグインハイブリッドモデル BMW 225xe アクティブツアラー

岡田:量販することを目的に造っているので、やはり単体で環境に良いだけではなくて、そのような車がたくさん走ることで初めて世の中のCO2が削減されるという意識です。

PHEV以前の取り組みで、HV(アクティブハイブリッド)の時はグレード的にトップエンドの位置付けで、750相当とか550、もしくは335相当の価格レンジにHV仕様を設定しましたが、PHEVはそれぞれのシリーズの中の真ん中もしくは下のレンジを狙うという考え方で展開しています。

----:一方、欧州では環境面の規制がかなり厳しくなってきました。規制をクリアするというモチベーションは電動化プロジェクトの中でもかなりのウェートを占めていますか

岡田:会社が成り立って初めて、いろいろなビジョンが語れるわけですので、もちろん規制はクリアしていかなければいけない。社会の中の企業として、そうした責任はまっとうしたいというのがBMWの考え方ですね。

----:BMWは日本市場でクリーンディーゼル普及の先駆けとなりましたね

岡田:メルセデスベンツが6気筒エンジンで先鞭をつけましたが、高価なグレードとして設定してきました。しかしBMWとしては燃費の良いモデルを普及させたいという考え方にたって、4気筒のモデルに絞って投入しました。そこが大きな違い、戦略の違いだといえます。

----:ディーゼルでの成功を踏まえての低価格帯でのPHEV導入といえますね

岡田:そうかもしれません。さらに魅力的な値段にするために、本社とかなり交渉はしました。実現したのは、やはりディーゼルでの成功があったからだと思います。

BMWのSUVモデルのプラグインハイブリッド BMW X5 xDrive 40e

PHEVは単なるエコカーではない

----:PHEVの販売状況はいかがですか

岡田:お陰様で順調に推移しています。とくに330eについては、乗って頂くと良さがわかるということで、試乗車をほとんどの販売拠点に用意して、お客様にご試乗頂いています。

実際に乗って頂いて『この加速はなんだ!』と思ってもらうと、この車はベース車に比べていくら高いから何km乗ればいいのかといった変な計算はしなくなります。330eのパフォーマンスをこの値段で買える。しかも燃費も良いということをご実感頂けると思っています。

----:そこですよね。付加価値を燃料代だけで計算したらだめですよね

岡田:計算するのであれば、一番出力の低いエンジンを買うのが一番お得ですよという話になってしまいます。でも、そうではないですよね。車は、やはり楽しむもので、加速性能含めてドキドキして楽しんでもらいたいとBMWはとくに思っています。

----:つまりPHEVは単なるエコカーではないということですよね。プラスアルファの金額を支払って得るものはエコ性能ではないと

岡田:BMWですから、BMWらしい走りを現在の環境に応じたものでも楽しめる、将来の環境下でもお楽しみ頂けるというのが、PHEVだと思っています。

----:それを実感できるクルマになっていますよね

岡田:乗ればBMWらしさがわかりますし、やはり加速性能もお楽しみ頂けるし、そして燃費性能や充電機能も楽しんで頂ける。もっと環境貢献しながらもっと楽しい、そういった喜びがあるのがPHEVだと思っています。

----:330eの価格は554万円からとなっていますので、BMWを検討している方にとってPHEVは買いやすいといえますね

岡田:買いやすいと思いますよ。320をご検討されている方でも、ディーゼルは20万円高、さらに30万円高でPHEVが選べるようになっていますので、さすがに100万円や200万円も違うと検討しなくなると思いますが、そういう意味では良いステップになっていると考えています。

----:BMWはさまざまなパワートレインを取り揃えていますが、パワートレインごとの位置づけはどうなっていますか

岡田:一番トップにあるのがガソリンエンジンを積んだMモデルで、その次が通常の6気筒ガソリンモデル、そしてミドルレンジはこれからはPHEVに変わっていくと思います。さらにディーゼル、小排気量ガソリンといった並びになります。当面はさまざまなパワートレインを用意するという状態が続くと思います。まだお客様のニーズが分かれていますし、またお客様の使い方によってガソリンが良いとか、ディーゼルが好みだという方もいらっしゃるので、そうした方々に向けて、今のパワートレインのラインアップは当面継続します。PHEVだけでなく、6気筒の良さであったりディーゼルの楽しさも伝えられるのがBMWで、これは国産車では味わえないことだと思います。

BMW3シリーズのプラグインハイブリッドモデル BMW330e

《聞き手:レスポンス三浦和也、執筆・まとめ:小松哲也、撮影:伊藤和幸》

クルマ、鉄道など様々な乗り物に関する最新情報を提供するニュースサイト“Response”編集長 三浦和也氏

[ガズー編集部]