井野口:1996年にVICSの情報が公開されるまで道路交通情報は私たち民間企業が取り扱うことはできませんでした。しかも、それはJARTIC(日本道路交通情報センター)を通じて提供されたものをそのままナビで表示することに限定され、一切、加工を加えることは許されませんでした。その意味では、98年にスタートしたモネのインターネットや携帯電話による移動体通信で道路交通情報を提供するというサービスはまさにエポックメイキングな出来事でした。
編集部:日本の道路交通情報サービスのありかたを大きく変えるきっかけになったわけですね。
井野口:そうですね。それから10年経って、いまではVICSの現状の交通情報や過去の統計データを下に今後の渋滞予測をトヨタ独自に作成して提供する(2005年のG-BOOK ALPHAで実用化)だけにとどまらず、プローブコミュニケーション交通情報ではトヨタが独自にG-BOOK mX搭載車両から道路交通情報を収集して渋滞予測を提供しているわけですから隔世の感があります。そしてこの10年間、交通管理者への規制緩和への働きかけにおいて、ずっと先頭になって取り組んできたという自負があります。

編集部:具体的にはどんなことをされてきたのでしょうか?
井野口:簡潔に申し上げれば、「できることから、どんどんはじめて、実用化していった」ということです。規制が緩和されるのを待っていては、何も動かないし、何もはじまりません。できること、やってもいいことからどんどん作っていって、徐々にその範囲を拡げてきたわけです。規制緩和の働きかけといっても、交通管理者に対して真っ向からそこに風穴を開けようというわけではなく、国の道路交通情報の提供をうまく補完しサポートするカタチで我々の守備範囲を拡げていっているわけです。
杉本:G-BOOK mXにおいても、プローブコミュニケーション交通情報で主眼を置いているのは、あくまでVICSがカバーしていない道路を補完して、トヨタがドライバーに道路交通情報を提供しようということです。
編集部:VICSは全国の道路のどれくらいをカバーしているのでしょうか?
井野口:いまナビの地図がカバーしている道路は上り下りを合計して約80万キロ、そのうち、VICSの情報提供されている道路は約7万キロです。
杉本:そもそも、交通管理者である警察などが交通情報を収集している一番の目的は、道路の交通量をコントロールする交通管制のためです。ドライバーに「こっちの道路が混雑していて、こっちは空いてるよ」というのを教えるためではありません。私たちが提供したいのは後者の方ですから、そもそも目的が違うのです。一方で、VICSの設置されていない道路では渋滞が発生していないかというとそんなことはない。とはいえ、お金がかかりますから、設置が追いついていかない。しかし、そこを走行しているドライバーからすればVICSの情報が欲しいわけです。そこでそれに変わる情報を提供できないかと考えたとき、DCMのような最適の機器があってこれを使えば実現できる。そうなると自動車メーカーの技術屋としてはなんとしても提供したいと思うわけです。

編集部:なるほど、ドライバー(お客様)の立場になって考えれば、“VICSが設置されるのを待っているだけでは、何も動かない”ということですね。
杉本:ある段階までは、“個の最適化が全体最適につながる”ことがわかっています。つまり、ドライバー一人ひとりが渋滞を回避して迂回することで、全体として渋滞の緩和につながるのです。この点においては交通管理者(警察など)と目的は一致しています。もちろん、今後、DCM(※3)搭載車が増えていけば、情報の精度は高くなり、全ての道路を網羅することも十分可能です。しかし、プローブ情報を収集するにはDCM や携帯電話の通信費の負担の問題があります。これをビジネスモデルとしてどう解決していくのか今後、さらに検討していく必要があります。でも、だからといってそれが解決するのを待っていられない。じゃあ、できるところからはじめようということで、お客様のニーズが高い、VICSがカバーしていない道路を補完するカタチでまずはプローブコミュニケーション交通情報を実用化したわけです。
※3:G-BOOK mX専用の車載通信機。通信モジュール。DCMによるプローブ情報(走行速度などの走行情報)の収集は携帯電話の約60倍の能力があるといわれている(トヨタ自動車比)。DCMが普及することで、収集されるプローブ情報が大幅に増加し、より精度の高い渋滞予測および渋滞回避ルートの案内が可能となる。
井野口:VICSのインフラ整備を待っていられないというお客様ニーズがあるのであれば、少なくとも、自分たちのできることを自分たちのできる範囲で実現したい。そう考えて実現したのがG-BOOK mXのプローブコミュニケーション交通情報です。
編集部:2002年の初代G-BOOKの頃に比べると、走行中の操作など操作性がずいぶん向上しているようですが、これも国の規制緩和への働きかけの成果なのでしょうか?
杉本:走行中の操作に関する規制は国によるものではなく、私たちの自主規制によるものです。そして、その考え方自体は現在もなんら変わっていません。しかし、私たちはずっと、安全で視認性の高い画面デザインに挑戦してきています。その成果が使いやすさにつながっていると思います。
編集部:G-BOOK mXでは、「情報・G画面」もずいぶん変わりましたね。
杉本:G-BOOK mXではタブを使って画面が切り替えられるようにしました。「情報・G画面」ではどのボタンを「情報」と「G-BOOK」のそれぞれのタブがついた画面に配置するかで熱い議論になりました。また、G-BOOK mXでは、新しく「設定・編集スイッチ」をつくり、それにタッチして表示される「設定・編集画面」にナビの基本設定からG-BOOK の設定まで、それまではバラバラに存在していた設定が全てここでできるようにしました。これについては事前のユーザー評価でも高い評価をいただきました。