
クルマの世界には、ジャンルが存在する。その代表例は、長い歴史を持つ「セダン」であり「ステーションワゴン」であろう。
しかし、人々のライフスタイルは移り変わる。そして、それに応えるように、新しいジャンルのクルマが台頭してくる。
たとえば、かつて1970〜80年代には、若い世代のカジュアルなライフスタイルにぴったりの「2ボックス」が一世を風靡。いまや成熟したジャンルになった。最近では、1990年代に登場した「ミニバン」が、ファミリー層のニーズを開拓し、大きなジャンルに成長している。
そうした新しいジャンルのクルマは、“勝手に生まれてくる”のではない。
新しいライフスタイルの台頭やニーズの変化にいち早く気づいた、クルマづくりのプロたちが“創り出す”のである。
2007年9月26日に発表の[マークX ジオ]は、既存のジャンルに収まらず、新しいジャンルを切りひらくクルマだという。
それはどんなクルマなのか、どんな人物が生み出したのか。編集部はチーフエンジニア・杵築邦昌に話を聞きに行った。
実家が、鳥取の米子で小さな自動車店を経営していたんです。主に車検や修理などを行う、いわゆる“街のモータース”でした。私も自然と地元の米子高専(国立米子工業高等専門学校)に進み、修理を手伝ったりしていました。周囲も私自身も、将来は長男である私が家業を継ぐものだと思っていました。 ある日、父がクルマを修理しながら言ったんです。「これを一から創れたら面白いだろうな」と。
後に私が、今でいうインターンシップで実習に行ったトヨタ自動車に興味を持ち、入社試験を受けるのは、その時の父の言葉が心の奥に残っていたからかもしれません。父は、本心では家業を継いでほしかったのでしょうけど、「好きなことをしなさい」と言ってくれましたよ。
トヨタ自動車に入社した私は、自分で希望を出して、実験部に配属されました。学生時代から図面に向かうより実物の機械をさわっているほうが楽しかったし、向いていると思っていたからです。
実験部で、希望通り機械を相手に仕事ができると思ったら、配属になったのは、人間工学を研究する部署。人が相手の仕事でした。
最初に上司から聞かれたのが「酒、飲めるか?」。「はい」と応えたら、「じゃあ、飲んで」と昼間から酒を飲まされる。聞くと、血中のアルコール濃度の違いによって、人の反射神経がどう変化するのか、データを取られていたんです。
当時は「変な研究をする部署だな」と思いましたが、いま考えれば、入社早々、とても先進的な取り組みに参加していたわけですね。