【ジャガー XE ディーゼル試乗】全方位の性能を備えた美しいサルーン…河西啓介

ジャガーXE
◆強力なトルクを発揮するジャガー自製のディーゼルエンジン

白馬から長野市内に向かう山あいの道を、ジャガーのサルーン『XE』で走っている。

クルマは2リットルのディーゼルターボ・エンジンを積む「D180 AWD」だ。山には雪が積もっているが、道はしっかり除雪されているから、全輪駆動システムの出番はなかなかない。

XEの走りはとてもスポーティだ。ジャガーのAWDはFRを基本として、状況に応じて前後50対50までトルク配分する駆動システムだが、運転しているととくにそれを意識することはない。たとえ全輪駆動であっても、ジャガーの美点であるニュートラルなハンドリングは損なわれていない。

感心するのは、「インジニウム」と名付けられた、ジャガー・ランドローバー社自製によるディーゼルエンジンの静かさだ。「ガラガラ……」と粗い音を立てていたかつてのディーゼルとは隔世の感がある。よほど気をつけてエンジン音に耳を澄ませなければ、これがディーゼルとは気が付かないだろう。

いっぽうディーゼルエンジンらしさを感じるのは、低回転域から溢れ出すようなトルクの豊かさだ。インジニウム・エンジンは最高出力180psを4000rpmで、そして43.8kgmという最大トルクを1750~2000rpmという低回転で生み出す。43.8kgmという数値は同クラスのライバルと較べても抜きん出ていて、アクセルをほんの少し踏むだけでグイグイと加速する。

白馬から長野に向かう一般道では、アクセルを思い切り踏み込んでそのトルクを十分に発揮させる場面はないが、高速道路を使って1日に数百kmを走るようなロングドライブであれば、きっと相当に快適かつ楽しいエンジンだろう。

◆最も美しいプロポーションを持つセダン

道中、ずいぶん「道の駅」を見かけるな、と思って調べてみると、なるほど、長野は全国で3番目に「道の駅」が多い県なのだそうだ。せっかくだから地元の名産品でも買っていこうかと、道の駅「おがわまち」に立ち寄った。

クルマを降りてジャガーXEを眺めると、あらためてそのスタイリングに見入ってしまう。このクラスのセダンでは群を抜いた美しさだと思う。全体の75%あまりがアルミ製のボディは、クーペのような流麗なデザインを纏う。ロングノーズ・ショートデッキのプロポーションは、実際のサイズより大きく伸びやかに見える。

インテリアは英国車らしく、レザーを多用する贅沢なものだが、デザイン的にはかなりコンサバで、やや地味に感じられるのが残念だ。ライバルとなるメルセデスベンツ、BMW、アウディなどと較べると、やはり物足りなさを感じてしまう。

ドイツ勢のようなギラギラ感は似合わないが、エレガントさや上品さは保ちつつ、同門のランドローバーのようにクラシックとモダンを上手く融合させたインテリアデザインが加われば、XEの魅力はさらに高まるだろう、と思う。

ダッシュの中央に収まる、10.2インチのタッチスクリーンをメインとするインフォテイメント・システムも、分かりやすくはあるのだが、操作性やコネクティビティという点では、ライバルに少々水を開けられているという気がする。

◆Fタイプの4ドアサルーン版

ふたたび長野に向けて走り出す。

この日はジャガー・ランドローバーが主催する試乗会で、本来はスノードライブでの実力を試すという趣旨だった。

だがこの冬は降雪が少なく、道は概ねドライだったため、その目的は十分に果たされなかったのだが、代わりにXEの“走り”を存分に堪能することができた。

XEには「Jaguar Driveコントロール」という走行モードの切り替えシステムが備わっている。「スタンダード」「エコ」「ダイナミック」「ウィンター」の4つから選ぶことができ、「ダイナミック」を選ぶとエンジンの吹け上がりが鋭くなり、ステアリング操作にぐっと手応えが増す。

さらにハンドルに備わるパドルを使って8速ATを操れば、まさに“ジャガー”の名に相応しい、しなやかで俊敏な走りを見せてくれる。

XEのシャシーは2座スポーツカー、『Fタイプ』のアルミモノコックを発展させたものであり、デビュー時にジャガーが主張していたように“Fタイプの4ドアサルーン版”とも解釈できる。

スポーティな走り、16.4km/リットルの燃費を謳うディーゼルエンジンの経済性、あらゆる路面に対応するAWD。その全方位的な性能がこの美しいスタイルに内包されていることを考えると、XEのラインナップにおいてこの「D180 AWD」は、ひときわ魅力的なモデルだと言える。

長野へと向かう道すがら、このジャガーXEのルーフにスキーキャリアを積んで走ったらさぞカッコいいだろう。次の冬にはぜひ試してみたいと思った。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★

河西啓介 編集者/モータージャーナリスト
自動車雑誌『NAVI』編集部を経て、出版社ボイス・パブリケーションを設立。『NAVI CARS』『MOTO NAVI』『BICYCLE NAVI』の編集長を務める。現在はフリーランスとして雑誌・ウェブメディアでの原稿執筆のほか、クリエイティブディレクター、ラジオパーソナリティ、テレビコメンテーターなどとしても活動する。

(レスポンス 河西啓介)

[提供元:レスポンス]レスポンス

MORIZO on the Road