プジョー リフター 新型試乗 彼の国で働く人々は随分と恵まれているなぁ…中村孝仁

プジョー リフター デビューエディション
兄弟車であるプジョー『リフター』とシトロエン『ベルランゴ』を同時に導入するというグループPSAジャパンの決定を当初は測りかねていた。というのもこの2台、メカニズムは基本的に完全に一致しているモデルだし、プラットフォームからボディパネルの多くも共有しているからである。

そこに違いはあるのか?というのが僕の考えであって、市場も一緒だからいわゆる食い合い、つまりカニバるのではないかと思っていたからである。しかしながら、この2台を乗った後の感想としては、こりゃだいぶ車のイメージも走りの感覚も違うな…と言うのが正直なところであった。


◆リフターとベルランゴの違いとは

具体的にどこがどう違うかをそれぞれ詳しく説明しよう。まずはタイヤだ。ベルランゴは205/60R16のミシュラン「エナジー+」を履いているのに対し、リフターの方は215/65R16のミシュラン「ラティチュード・ツアーHP」を装着している。というわけで65タイヤを履くリフターの方が当然ながら車高が高くなる。

次にリフターには少しオフロードを意識した「アドバンスドグリップコントロール」が装備されている。ベルランゴにそれは無かった。

そしてインテリアに行くと、リアシートがリフターの場合6:4分割シートとなるのに対し、ベルランゴの方は独立した3席が備わるなど、使い勝手にもその差が出ている。


さらにリフターは他のプジョー同様にいわゆる「i-Cockpit」と称する小径ステアリングの上からメーターを眺める独特なレイアウトとされているが、シトロエンの方はステアリング径も大きく、メーターはそのステアリングの隙間から覗くごく一般的なレイアウトだ。

これだけでもだいぶ異なることがわかってもらえると思うのだが、実際に走らせてみると乗り出した瞬間から、おやっ?何故かこっちの方が静かに感じるぞ?という思いと、こっちの方が乗り心地が少しいいんじゃないか?という感想がすぐに湧いた。タイヤの差に気が付いたのは後からのことだから、この違いはある意味で当然と言えば当然である。


それにベルランゴの方は黒に塗装されたホイールを履いて全体に締まった印象だし、色に惑わされるところもあってやはり車高が低く、ホイールアーチの隙間も小さく感じられて全体的にはスポーティーな外観という印象が強い。乗り心地が良いと感じたのはいわゆるスピードにして60km/h以下のタウンスピードの領域だけ。高速に入ってしまうとシトロエンの独特なリバウンドの味付けが、リフターのプジョーらしい硬質な乗り心地を凌駕していると感じられた。


◆彼の国で働く人々は随分と恵まれているなぁ…

1.5リットルの直4ターボディーゼルとアイシン製8ATの組み合わせは一緒。従って走り出しから加速の感じは変わらない。敢えて言うならリフターの方がステアリングの切り出しからの挙動がシャープに感じられることだが、そうは言っても所詮は背の高いMPVであるから、運動性能を愉しむというわけにはいかず、やはりファミリーカーの域を出ない。

しかし、元はと言えばこの2台、ともに商用車として生を受けそれをピープルムーバーに転用しているモデルである。彼の国のコマーシャルヴィークルはかくも乗り心地が良く、彼の国で働く人々は随分と恵まれているなぁ…と言うのが正直な感想で、リフターにしてもベルランゴにしても実に快適である。


クロスオーバーSUV用に開発されたラティチュードを装着するリフターは、グリップコントロールも装備されてオフも少し意識した設定の味付けという考えが成り立つ。一方のミシュラン・エナジータイヤはいわゆるエコタイヤ。ウェット性能はB表示だが、やはり典型的にファミリー志向のクルマという立ち位置と考えて良いと思う。

そんなわけで、この2台を乗り比べると、同じ箱型MPVながら細かいところは随分と味付けが異なっていることが良く分かる。どちらもいわゆる「デビューエディション」という限定仕様のモデルだけに、正式導入された時に今と同じ仕様でやっているのかは不明だが、使い勝手にしろ、走りの点にしろ、違いをつけておいた方がユーザーも選びやすいかもしれない。

因みにデビューエディションでは価格差は9万円あって、リフターが336万円と高い。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファーデプト代表取締役も務める。

(レスポンス 中村 孝仁)

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