【試乗記】トヨタ・サクシードTX(FF/CVT)
- トヨタ・サクシードTX(FF/CVT)
あたりまえの存在
ついに「プロボックス/サクシード」にもハイブリッドモデルが登場。ハイブリッドを世に広めたトヨタにさえ、なぜかこれまで設定のなかった“はたらくクルマ”のハイブリッド、その仕上がりをリポートする。
自動車界七不思議のひとつ
今でも耳に残る「21世紀に間に合いました」という名コピーとともに、1997年末に初代「プリウス」が誕生してからはや21年。「1台のクルマにエンジンとモーターという、2種類の動力源を備えるなどバカげている」と、実際にそう理解されたのか、はたまた自らでは実現できなかったことへの腹いせ(?)か、他メーカーの技術者からは当時そんな趣旨のコメントさえ聞かれたりもしたものだ。
しかし、実はそれが後の自動車界に不可欠となるテクノロジーであったことは、今や世界で多くの量産車に採用されるばかりか、モータースポーツの頂点に立つF1マシンにすら用いられるということからもしっかり証明されている。
前述のプリウス開発のきっかけが、「圧倒的な低燃費の実現」にあったことからも明らかなように、そもそもそれはエンジンが不得意である領域を電気モーターにカバーさせるというテクノロジーだ。
となれば、たちまち普及しても然(しか)りと思えるのに、それがなかなか進展しなかったのが商用車への搭載。日本を代表する“はたらくクルマ”のひとつであるプロボックス/サクシードへの設定が見送られてきたのも、これまでの自動車界における“七不思議”(?)のひとつだった。
しかし、とうとうここにきてそんな両モデルにもハイブリッドバージョンが設定されることになった。「あって当然」だったのに、実は「これまで存在しなかった」という、そんなモデルに早速触れてみた。
しかし、実はそれが後の自動車界に不可欠となるテクノロジーであったことは、今や世界で多くの量産車に採用されるばかりか、モータースポーツの頂点に立つF1マシンにすら用いられるということからもしっかり証明されている。
前述のプリウス開発のきっかけが、「圧倒的な低燃費の実現」にあったことからも明らかなように、そもそもそれはエンジンが不得意である領域を電気モーターにカバーさせるというテクノロジーだ。
となれば、たちまち普及しても然(しか)りと思えるのに、それがなかなか進展しなかったのが商用車への搭載。日本を代表する“はたらくクルマ”のひとつであるプロボックス/サクシードへの設定が見送られてきたのも、これまでの自動車界における“七不思議”(?)のひとつだった。
しかし、とうとうここにきてそんな両モデルにもハイブリッドバージョンが設定されることになった。「あって当然」だったのに、実は「これまで存在しなかった」という、そんなモデルに早速触れてみた。
見た目からの識別は難しい
もっとも、ようやくにして登場となったプロボックス/サクシードのハイブリッドバージョンを、見た目上で識別するのはすこぶる難しい。
当初は“特別な存在”だったハイブリッド車が“普通のクルマ”になって久しい今、そんな技術を採用したプロボックス/サクシードのデザインが「何の変哲もないもの」であるのも当然だろう。
世界初の量産ハイブリッドモデルとして登場したプリウスが、当初から“専用デザイン”を採用してきたのを筆頭として、薄い緑色がかったヘッドライトレンズやテールランプユニットのクリア化など、主にライト関係に専用のコスメティックを施すことで、同シリーズ中の“エンジン車”との見た目上の差別化を図ってきたのが、過去のトヨタハイブリッド車でもあった。
ところが、プロボックス/サクシードにはそうした気遣いが見られないのだ。それは、多くの場合「オーナー(所有者)とドライバー(使用者)が一致しない」という“はたらくクルマ”ならではの事情も関係しているのかもしれない。
そもそもこのように考察してみると、「燃料代を負担する人と運転する人が異なる」という商用車ならではの事情こそが、こうしたモデルへのハイブリッドバージョンの設定を遅らせたことの主要因なのではないか? という臆測も浮かんでくる。「車両代の安さこそが重要」というオーナーと、「燃料代など関係ない」というドライバー。そんな関係の下では、ハイブリッド車のメリットが生まれにくいのも当然というわけなのだ。
当初は“特別な存在”だったハイブリッド車が“普通のクルマ”になって久しい今、そんな技術を採用したプロボックス/サクシードのデザインが「何の変哲もないもの」であるのも当然だろう。
世界初の量産ハイブリッドモデルとして登場したプリウスが、当初から“専用デザイン”を採用してきたのを筆頭として、薄い緑色がかったヘッドライトレンズやテールランプユニットのクリア化など、主にライト関係に専用のコスメティックを施すことで、同シリーズ中の“エンジン車”との見た目上の差別化を図ってきたのが、過去のトヨタハイブリッド車でもあった。
ところが、プロボックス/サクシードにはそうした気遣いが見られないのだ。それは、多くの場合「オーナー(所有者)とドライバー(使用者)が一致しない」という“はたらくクルマ”ならではの事情も関係しているのかもしれない。
そもそもこのように考察してみると、「燃料代を負担する人と運転する人が異なる」という商用車ならではの事情こそが、こうしたモデルへのハイブリッドバージョンの設定を遅らせたことの主要因なのではないか? という臆測も浮かんでくる。「車両代の安さこそが重要」というオーナーと、「燃料代など関係ない」というドライバー。そんな関係の下では、ハイブリッド車のメリットが生まれにくいのも当然というわけなのだ。
オーナードライバーのために
一方で、そうした“雇用関係”からは外れるユーザーも少なくないというのがプロボックス/サクシードの特殊性でもあるとトヨタは言う。そう、レジャーユースも含めて少なからず“オーナードライバー”が存在するのがこのブランドだというのだ。
実際、今回新設定されたハイブリッドバージョンも、法人需要よりもむしろ個人ユーザーをターゲットとしている印象がうかがえる。そんな個人ユーザーにとっては、静かで燃費が良く、またアイドリング時間を最小限に抑えられるハイブリッドモデルは、なるほど待ち望んでいた存在でもあるはずだし、オートエアコンやドライバー席へのシートヒーター設定なども、「自分で買って自分で使う」という人を想定したものと考えられるからだ。
もちろん、技術が進歩してハイブリッドシステムのコンパクト化が可能になったことや、コストダウンが大きく進んできたことも、“はたらくクルマ”へのシステム搭載を加速させた大きな要因であることは間違いない。
ただ、大きな荷室容量が重要なポイントになるモデルにとって、駆動用のバッテリーをはじめとしたハイブリッド車特有のメカニズムは“邪魔もの”以外の何ものでもない。
実際は、駆動用バッテリーをリアシート下へと巧みにレイアウトしたことで、その荷室容量は“エンジン仕様”に対して遜色ないものになっている。システム分の重量増によって最大積載量こそ50kgのマイナスとなっているが、そもそもこのカテゴリーの商用車の場合フル積載まで積み込むケースはあまりなく、こちらのデータはあまり問題にならないのだという。
実際、今回新設定されたハイブリッドバージョンも、法人需要よりもむしろ個人ユーザーをターゲットとしている印象がうかがえる。そんな個人ユーザーにとっては、静かで燃費が良く、またアイドリング時間を最小限に抑えられるハイブリッドモデルは、なるほど待ち望んでいた存在でもあるはずだし、オートエアコンやドライバー席へのシートヒーター設定なども、「自分で買って自分で使う」という人を想定したものと考えられるからだ。
もちろん、技術が進歩してハイブリッドシステムのコンパクト化が可能になったことや、コストダウンが大きく進んできたことも、“はたらくクルマ”へのシステム搭載を加速させた大きな要因であることは間違いない。
ただ、大きな荷室容量が重要なポイントになるモデルにとって、駆動用のバッテリーをはじめとしたハイブリッド車特有のメカニズムは“邪魔もの”以外の何ものでもない。
実際は、駆動用バッテリーをリアシート下へと巧みにレイアウトしたことで、その荷室容量は“エンジン仕様”に対して遜色ないものになっている。システム分の重量増によって最大積載量こそ50kgのマイナスとなっているが、そもそもこのカテゴリーの商用車の場合フル積載まで積み込むケースはあまりなく、こちらのデータはあまり問題にならないのだという。
ハイブリッドでも騒音は感じる
前述のように、外観上に特別な“お化粧”こそ施されていないものの、ブルーの前後エンブレムによってハイブリッドバージョンであることの識別が何とか可能なサクシードに乗り込んでスタートする。
メーターパネル内の「ready」の文字を確認しつつ、Dレンジをセレクトしてアクセルペダルに軽く力を込めると、まずはほとんど無音の状態でスタートを切りつつ、いつしかエンジンが始動して今度はこちらが“主役”となって加速を続けていく……というプロセスは、すでにおなじみとなったトヨタのハイブリッド車が持つ流儀そのもの。
ちなみに、1.5リッターエンジンを組み合わせたハイブリッドシステムは「アクア」から譲り受けたアイテムだ。それゆえ、大人1人分ほどは車両重量が重いこちらでは、蹴り出しの瞬間に「ちょっと荷が重い」印象が伴うのは致し方ないところだろう。
加速時のエンジン音や減速時の“電車(モーター)音”、そしてロードノイズ等々の大きさは、端的に言って同じハイブリッド車でも“乗用モデル”とはそれなりの隔たりが感じられる。率直なところ「ハイブリッドだから静か」という印象はあまり受けなかった。こればかりは「商用モデルにとって、ノイズ対策などは二の次」という当然のことをあらためて教えられることとなった。
かくして、ついにハイブリッドシステムの搭載に至ったサクシードは、“想定以上”というわけでも“感動モノ”というわけでもなく、「当然こうなるだろう」という想定内の仕上がりだった。
今、このタイミングで振り返ってみれば、「どうしてこれまでなかったのか?」と、結局のところやはりそんなフレーズばかりが脳裏に浮かぶ一台なのであった。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸/編集=櫻井健一)
メーターパネル内の「ready」の文字を確認しつつ、Dレンジをセレクトしてアクセルペダルに軽く力を込めると、まずはほとんど無音の状態でスタートを切りつつ、いつしかエンジンが始動して今度はこちらが“主役”となって加速を続けていく……というプロセスは、すでにおなじみとなったトヨタのハイブリッド車が持つ流儀そのもの。
ちなみに、1.5リッターエンジンを組み合わせたハイブリッドシステムは「アクア」から譲り受けたアイテムだ。それゆえ、大人1人分ほどは車両重量が重いこちらでは、蹴り出しの瞬間に「ちょっと荷が重い」印象が伴うのは致し方ないところだろう。
加速時のエンジン音や減速時の“電車(モーター)音”、そしてロードノイズ等々の大きさは、端的に言って同じハイブリッド車でも“乗用モデル”とはそれなりの隔たりが感じられる。率直なところ「ハイブリッドだから静か」という印象はあまり受けなかった。こればかりは「商用モデルにとって、ノイズ対策などは二の次」という当然のことをあらためて教えられることとなった。
かくして、ついにハイブリッドシステムの搭載に至ったサクシードは、“想定以上”というわけでも“感動モノ”というわけでもなく、「当然こうなるだろう」という想定内の仕上がりだった。
今、このタイミングで振り返ってみれば、「どうしてこれまでなかったのか?」と、結局のところやはりそんなフレーズばかりが脳裏に浮かぶ一台なのであった。
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