【試乗記】トヨタ・スープラRZ(FR/8AT)

トヨタ・スープラRZ(FR/8AT)【試乗記】
トヨタ・スープラRZ(FR/8AT)

スポーツカーは祭りだ!

4気筒モデルのバランスのよさも伝えられているが、「トヨタ・スープラ」といえば、やはり直6モデル「RZ」にとどめを刺す。電動化の波が押し寄せるさなかに復活した、古式ゆかしいスポーツカーの魅力を堪能した。

カッコよく見える“角度”

テスト車のボディーカラーは2019年の国内割り当てが24台のみという「マットストームグレーメタリック」。次回販売時期は未定とされている。
テスト車のボディーカラーは2019年の国内割り当てが24台のみという「マットストームグレーメタリック」。次回販売時期は未定とされている。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4380×1865×1290mm。先代のJZA80型(4人乗り)よりも140mm短くなった一方で、55mmワイドになっている。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4380×1865×1290mm。先代のJZA80型(4人乗り)よりも140mm短くなった一方で、55mmワイドになっている。
ヘッドランプは片側6灯式の個性的な意匠。ユニット下部にはデイタイムランニングライト&ウインカーとして機能するLEDストリップが備わる。
ヘッドランプは片側6灯式の個性的な意匠。ユニット下部にはデイタイムランニングライト&ウインカーとして機能するLEDストリップが備わる。
「RZ」ではマフラーエンドが直径100mmのヘアライン仕上げとなる(他グレードは同90mmのクロームメッキ仕上げ)。
「RZ」ではマフラーエンドが直径100mmのヘアライン仕上げとなる(他グレードは同90mmのクロームメッキ仕上げ)。
聞けば今回試乗したスープラの「マットストームグレーメタリック」のボディーカラーは抽選販売ですでに売り切れ、再び販売するかどうかは未定という。テレビコマーシャルなどに用いるいわゆるコミュニケーションカラーであり、人気のようだ。オプション価格は34万5600円と高価だが、将来の下取り価格も高いだろうから“行って来い”になるだろう。そういう下世話な損得を抜きに見ても、この色は悪くない。スープラはスタイリングも写真で見るよりも実物のほうがイカすが、この色もそう。写真で見ると使い込んだ文鎮みたいな色に見えるが、実物は当たった光が陰影を強調し、鍛えた体のような迫力がある。ロダンの彫刻のよう。

2018年12月にクローズドコースで行われたプロトタイプ試乗会で初めて実車を見たのだが、その際にカッコよく見える角度とそうでない角度が結構はっきりしているなと感じた。が、どの角度だとカッコよくてどの角度だとそうでないのか、法則がつかめないでいた。発売後に一般道で行われた試乗会で、自分の乗るクルマの前後とも同業者が運転するスープラという状態になった際になんとなくわかった。車内でウィンドウ越しに見るとカッコよくて、外から立って見るとそうでもない。つまり低い位置から見るとカッコよくて高い位置から見るとそうでもないのだと。

もうひとつ画像と実物で異なる点として、スープラは走行中にLEDのDRL(デイタイムランニングライト)が常時点灯しているが、これが画像だとさほど目立たないのに対し、実際に見ると非常に目立つのだ。特に後ろについたスープラをルームミラー越しに見ると、電光の隈(くま)取りを施した歌舞伎役者ににらまれているような感じでやや怖い。

テスト車のボディーカラーは2019年の国内割り当てが24台のみという「マットストームグレーメタリック」。次回販売時期は未定とされている。
テスト車のボディーカラーは2019年の国内割り当てが24台のみという「マットストームグレーメタリック」。次回販売時期は未定とされている。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4380×1865×1290mm。先代のJZA80型(4人乗り)よりも140mm短くなった一方で、55mmワイドになっている。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4380×1865×1290mm。先代のJZA80型(4人乗り)よりも140mm短くなった一方で、55mmワイドになっている。
ヘッドランプは片側6灯式の個性的な意匠。ユニット下部にはデイタイムランニングライト&ウインカーとして機能するLEDストリップが備わる。
ヘッドランプは片側6灯式の個性的な意匠。ユニット下部にはデイタイムランニングライト&ウインカーとして機能するLEDストリップが備わる。
「RZ」ではマフラーエンドが直径100mmのヘアライン仕上げとなる(他グレードは同90mmのクロームメッキ仕上げ)。
「RZ」ではマフラーエンドが直径100mmのヘアライン仕上げとなる(他グレードは同90mmのクロームメッキ仕上げ)。

直6を選ぶ価値

BMWとの協業によって開発された新型「スープラ」は、マグナシュタイヤーのオーストリア・グラーツ工場で生産されるため、日本では輸入車として取り扱われる。
BMWとの協業によって開発された新型「スープラ」は、マグナシュタイヤーのオーストリア・グラーツ工場で生産されるため、日本では輸入車として取り扱われる。
ルーフ中央をへこませた“ダブルバブルルーフ”を採用し、空力性能を高めている。
ルーフ中央をへこませた“ダブルバブルルーフ”を採用し、空力性能を高めている。
ホイールのデザインとサイズはグレードごとに異なる。「RZ」(写真)では19インチが標準。
ホイールのデザインとサイズはグレードごとに異なる。「RZ」(写真)では19インチが標準。
B58型3リッター直6ターボエンジンは最高出力340PSと最大トルク500N・mを発生。エンジンカバーにはトヨタのエンブレムが貼られている。
B58型3リッター直6ターボエンジンは最高出力340PSと最大トルク500N・mを発生。エンジンカバーにはトヨタのエンブレムが貼られている。
スープラには、3リッター直6ターボエンジン(最高出力340PS/5000rpm/最大トルク500N・m/1600-4500rpm)を搭載したRZと、2リッター直4ターボエンジンを搭載した「SZ-R」(同258PS/5000rpm/同400N・m/1550-4400rpm)、同じエンジンで出力の異なる「SZ」(同197PS/4500rpm、同320N・m/1450-4200rpm)がある。RZとSZ-Rには、状況に応じてデフのロック率を最適化するアクティブデファレンシャルと、4輪のダンパー減衰力を最適制御するアダプティブ・バリアブル・サスペンションが備わる。このほかブレーキ性能にも差がつけられているほか、タイヤサイズも異なる。

今回試乗したのはRZ。前述の有償ボディーカラーを除くと、オプション装備はドラレコとETCのみというほぼ素の仕様だ。ワインディングロードを走らせてみて、数カ月前に試乗したSZ-RおよびSZに対し、エンジンの回り方にも車体の動きにも重厚さが感じられた。アクセルペダルを踏み込むと、典型的な直6のサウンドを発し、スムーズに高回転まで吹け上がるのだが、軽やかというのとは違って厚みを感じさせる。6気筒以上のエンジンを試す機会が年々減っていることも関係しているのかもしれないが、なんというか恐れ多い気もする。

もちろん回すほどにパワーがもりもりと出てくるので、高回転域では緊張感も増す。1600rpm、つまりアイドリング状態からアクセルを踏んですぐに最大トルクの500N・mに達し、そこから5000rpmで最高出力の340PSに達するまでグイグイ加速していく。その先も6500rpmあたりまでパワーの落ち込みを感じさせずスムーズに回り続け、このあたりが実に気持ちいい。直6を選ぶ価値がここにあると思う。

BMWとの協業によって開発された新型「スープラ」は、マグナシュタイヤーのオーストリア・グラーツ工場で生産されるため、日本では輸入車として取り扱われる。
BMWとの協業によって開発された新型「スープラ」は、マグナシュタイヤーのオーストリア・グラーツ工場で生産されるため、日本では輸入車として取り扱われる。
ルーフ中央をへこませた“ダブルバブルルーフ”を採用し、空力性能を高めている。
ルーフ中央をへこませた“ダブルバブルルーフ”を採用し、空力性能を高めている。
ホイールのデザインとサイズはグレードごとに異なる。「RZ」(写真)では19インチが標準。
ホイールのデザインとサイズはグレードごとに異なる。「RZ」(写真)では19インチが標準。
B58型3リッター直6ターボエンジンは最高出力340PSと最大トルク500N・mを発生。エンジンカバーにはトヨタのエンブレムが貼られている。
B58型3リッター直6ターボエンジンは最高出力340PSと最大トルク500N・mを発生。エンジンカバーにはトヨタのエンブレムが貼られている。

高速道路では路面にピタリと張り付く

前後重量配分50:50をうたう新型「スープラ」だが、「RZ」では前軸が780kgで後軸が740kgとなっていた(車検証記載値)。
前後重量配分50:50をうたう新型「スープラ」だが、「RZ」では前軸が780kgで後軸が740kgとなっていた(車検証記載値)。
「イグニッションレッド」の内装色は「RZ」専用。エアコンの操作パネルの形状やセンタースクリーンの位置など、「BMW Z4」とはかなり違ったつくりになっている。
「イグニッションレッド」の内装色は「RZ」専用。エアコンの操作パネルの形状やセンタースクリーンの位置など、「BMW Z4」とはかなり違ったつくりになっている。
「RZ」にはアルカンターラと本革のコンビシートが標準装備。オプションでブラックの本革シートも用意されている。
「RZ」にはアルカンターラと本革のコンビシートが標準装備。オプションでブラックの本革シートも用意されている。
荷室の容量は290リッター。キャビンとの間に隔壁は備わらない。
荷室の容量は290リッター。キャビンとの間に隔壁は備わらない。
車体の動きも6気筒のスープラは4気筒のそれよりも重厚感があり、印象がいいのは4気筒のほうだ。6気筒で装備も最も充実したRZの車両重量は1520kgと、SZ-Rに対しては70kg、SZに対しては110kg、実際に重い。またトヨタはSZ-RとSZの売り文句として「前後重量配分が理想的なのは4気筒のほう」という表現をしばしば用いる。こうした違いはアベレージドライバーたる私がワインディングロードを気持ちいいペースで駆け巡るレベルでもそこはかとなく感じることができる。SZ-RにせよSZにせよ4気筒版のほうがひらりひらりと向きを変えることができて面白いのだ。もちろんこれらは相対的な印象であって、RZが向きを変えにくいという話ではない。

ちなみに同業者の間では、SZ-RとSZを比較し、アダプティブ・バリアブル・サスペンションが備わるSZ-Rのほうが好印象だという意見もあれば、かえってそれがないSZのほうが気持ちよく走らせられるという意見もあり、僕自身は後者の意見に賛成だ。

今回初めて高速道路でスープラを運転し、安定していることに感心した。試乗会の際、開発陣は「サスペンションでコーナリング性能を高めた一方で、エアロダイナミクスなどを駆使して高速安定性も確保した」と言っていた。特にアンダーパネルの形状を最適化したほか、サスペンションアームの形状なども空力を考慮してフィン形状とし、車体のリフトを抑える努力をしたのだという。彼らの思惑通り、スープラは高速走行中に路面に張り付くように走行する。ロー&ワイドなプロポーションからイメージする通りの安定性を見せる。4気筒版では高速道路を試していないので断定はできないが、高速道路では6気筒版のほうが魅力的だと思う。加速時に怒とうのトルクを味わえるし、高回転を維持して鋭いレスポンスをより楽しめるのも6気筒版のほうだろう。

前後重量配分50:50をうたう新型「スープラ」だが、「RZ」では前軸が780kgで後軸が740kgとなっていた(車検証記載値)。
前後重量配分50:50をうたう新型「スープラ」だが、「RZ」では前軸が780kgで後軸が740kgとなっていた(車検証記載値)。
「イグニッションレッド」の内装色は「RZ」専用。エアコンの操作パネルの形状やセンタースクリーンの位置など、「BMW Z4」とはかなり違ったつくりになっている。
「イグニッションレッド」の内装色は「RZ」専用。エアコンの操作パネルの形状やセンタースクリーンの位置など、「BMW Z4」とはかなり違ったつくりになっている。
「RZ」にはアルカンターラと本革のコンビシートが標準装備。オプションでブラックの本革シートも用意されている。
「RZ」にはアルカンターラと本革のコンビシートが標準装備。オプションでブラックの本革シートも用意されている。
荷室の容量は290リッター。キャビンとの間に隔壁は備わらない。
荷室の容量は290リッター。キャビンとの間に隔壁は備わらない。

コラボレーションを喜ぼう

全車速追従機能付きのレーダークルーズコントロールや操舵支援機能、衝突回避支援ブレーキなどが全車に標準装備となるが、他のトヨタ車と同じ「Toyota Safety Sense」の呼称は用いられていない。
全車速追従機能付きのレーダークルーズコントロールや操舵支援機能、衝突回避支援ブレーキなどが全車に標準装備となるが、他のトヨタ車と同じ「Toyota Safety Sense」の呼称は用いられていない。
ローンチコントロール機能を備えた8段のトルコン式ATを採用。シフトセレクター前方の小物入れの上にはETC車載器が装着されているが、この使い勝手はいまひとつだった(「BMW Z4」のETC車載器はルームミラーに内蔵)。
ローンチコントロール機能を備えた8段のトルコン式ATを採用。シフトセレクター前方の小物入れの上にはETC車載器が装着されているが、この使い勝手はいまひとつだった(「BMW Z4」のETC車載器はルームミラーに内蔵)。
本革巻きのステアリングホイールにはシフトパドルやACCの起動スイッチが備わる。ウインカーはステアリングポストの左側にレイアウトされている。
本革巻きのステアリングホイールにはシフトパドルやACCの起動スイッチが備わる。ウインカーはステアリングポストの左側にレイアウトされている。
メーターパネルは中央に大型のエンジン回転計を備えた液晶タイプ。レッドゾーンは7000rpmから。
メーターパネルは中央に大型のエンジン回転計を備えた液晶タイプ。レッドゾーンは7000rpmから。
重箱の隅をつつくような話で申し訳ないが、ETC車載器が取り付けられている位置が適切でなく、その下にある小物入れに手を伸ばした際に何度かスイッチに当たってカードが排出されてしまった。ここじゃないほうがいい。もっと細かいことを言うと、小物入れにあるUSBポートが上向きに付いているため、差したケーブルが上に伸びて小物入れへのアクセスが悪化し、使いにくかった。小言は以上。

“スープラ復活”といっても自らやめたわけで、やめなければ復活させる必要もなかったわけだが、それはトヨタの自由だ。そもそもスポーツカーは祭りみたいなものだから、不景気だとなくなるし、景気がよくなれば増えるものだ。BMWをうまく利用して復活させたという人もいれば、BMWに頼み込んで復活させてもらったという人もいるが、どっちでもいい。技術的にではなくビジネス上の判断として、トヨタ単独では(主に)6気筒のFRスポーツカーを開発するのは難しかったわけだから、素直にコラボレーションを喜ぼうじゃないか。

まだほとんどデリバリーされていないということもあるのだろうが、街中を走らせていてここまで注目度の高いクルマは珍しい。ガソリンを燃やして純粋に走りを楽しむためのスポーツカーが、来る電動車時代に対してどこまであらがい、あるいはどういう適応をするのかという観点からも、スープラには注目していきたい。

(文=塩見 智/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

全車速追従機能付きのレーダークルーズコントロールや操舵支援機能、衝突回避支援ブレーキなどが全車に標準装備となるが、他のトヨタ車と同じ「Toyota Safety Sense」の呼称は用いられていない。
全車速追従機能付きのレーダークルーズコントロールや操舵支援機能、衝突回避支援ブレーキなどが全車に標準装備となるが、他のトヨタ車と同じ「Toyota Safety Sense」の呼称は用いられていない。
ローンチコントロール機能を備えた8段のトルコン式ATを採用。シフトセレクター前方の小物入れの上にはETC車載器が装着されているが、この使い勝手はいまひとつだった(「BMW Z4」のETC車載器はルームミラーに内蔵)。
ローンチコントロール機能を備えた8段のトルコン式ATを採用。シフトセレクター前方の小物入れの上にはETC車載器が装着されているが、この使い勝手はいまひとつだった(「BMW Z4」のETC車載器はルームミラーに内蔵)。
本革巻きのステアリングホイールにはシフトパドルやACCの起動スイッチが備わる。ウインカーはステアリングポストの左側にレイアウトされている。
本革巻きのステアリングホイールにはシフトパドルやACCの起動スイッチが備わる。ウインカーはステアリングポストの左側にレイアウトされている。
メーターパネルは中央に大型のエンジン回転計を備えた液晶タイプ。レッドゾーンは7000rpmから。
メーターパネルは中央に大型のエンジン回転計を備えた液晶タイプ。レッドゾーンは7000rpmから。

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