【試乗記】プジョー3008 GTハイブリッド4(4WD/8AT)

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    プジョー3008 GTハイブリッド4(4WD/8AT)

答えはひとつじゃない

プジョー3008」のマイナーチェンジに合わせて登場したPHEV「GTハイブリッド4」に試乗。プジョー初のPHEVにして現行ラインナップで唯一の四駆となるその走りを、日常使いを想定したドライブルートで確かめた。

フランス生まれのPHEV

リーマンショック後の2010年に相前後して、「三菱i-MiEV」と「日産リーフ」が発売。電力会社は余剰深夜電力を活用したV2Hを商品化するなど、日本は電気自動車(BEV)の本格普及に向けて華々しいスタートを切った。

と、その1年後に起こったのが東日本大震災だ。福島第一原発の事故という、日本が今後も延々と背負い続けるだろう事案に伴い、世界に先駆けてBEVによってもたらされると思われていた未来は、いきなり出ばなをくじかれた。i-MiEVとリーフの無念さは想像にあまりある。そして今、準備万端整えたオリンピックが降って湧いたコロナ禍で開催もままならない状況をみていると、つくづく日本は厄介事に好かれるよなぁと、どんよりした気持ちにもなる。

そんな枕になってしまった理由は、このクルマにある。3008 GTハイブリッド4は、プジョー初のPHEVにして、プジョーの現行ラインナップにおいて唯一の四駆でもある。

と、そこで思うのは、電源構成の6割以上が原子力、そこに再生可能エネルギーを加えると9割に及ぶという、電力由来のCO2カウント的には極めて優位に立つフランスが、なんでハイブリッドなどと生ぬるい手を講じているのだろうということだ。早いとこ100%BEVにという、一部の過激な論調にむしろ乗じることもたやすいだろうに……ともうかがえる。

日仏に共通するメーカーの意向

これについて、英『オートカー』誌に興味深い記事があがっていた。英『フィナンシャルタイムズ』紙が主催する未来の自動車産業をテーマとした講演での、元グループPSAのCEOにして現ステランティスのCEOであるカルロス・タバレス氏の発言を報じたものだ。

氏は「電動技術の普及に関する決定は、自動車業界によってなされたものではない」と暗に行政の思惑が自動車業界に影響を及ぼしていることを示唆したうえで、「単一の技術ではなく、複数の技術を用いたほうがより効率的だと思う」と話したという。加えて、アフォーダブルであることは移動の自由という人権を担保するうえで大切なことや、高価格のBEVに裕福な人しか手が出ない状況は、かえって環境性能の低い古いクルマを使い続けさせることになってしまうとも論じている。

この発言から垣間見えるのは、歴史的背景もあって“移動権”の平等な享受にうるさいフランスで、長きにわたりモビリティー分野のリーダーを務めたタバレス氏ならではの責任感であり、また、ステランティスが今後継続的にカバーしようとする商圏とBEVとの適性がみえにくいという、同社の経営上の課題である。

ともあれ、今あるインフラで安価に自律的、持続的に運用できる内燃機車両の効率向上は見切るべきものではない。このタバレスCEOの意向は日本の自工会のそれとも重なるように思える。

速さも十分プレミアム

というわけで、多様なパワートレインを擁するプジョーのなかでも、PHEVは価格的に最高峰に位置する。同じエンジンを積むガソリンモデルとの価格差は130万円に近く、補助金をフルに活用してもその差はかなりのものだ。モーター四駆という機能付加によって行動範囲に制約がより少ない、そのうえでベストの効率を引き出せる、しかも速い……と、そういう性能に対する対価としては妥当という冷静な見立てだろう。

搭載されるバッテリーの容量は13.2kWh。普通充電のみに対応し、ゼロからの満充電には付属の電源ケーブルを使用する200V 3kWのコンセントタイプで5時間、ウォールマウントなどの同6kWで2.5時間を要する。モーターでの走行可能距離はWLTCモードで64km。つまり日々の通勤や買い物など、半径20km余くらいの行動範囲はエンジンレスでカバーできる算段だ。ちなみに走行時の充電や電力セーブなどのモードは備わらない。

パワー&ドライブトレインはガソリンの1.6リッター直4直噴ターボに8段ATという従来の組み合わせに最高出力110PS/最大トルク320N・mのモーターを挟み込み、さらに後軸には同112PS/同166N・mのモーターを配している。システム合計では最高出力が300PS、最大トルクが520N・mと3リッター過給器付きユニット級のそれを備えていることもあり、3008 GTハイブリッド4の速さは十分プレミアムに値するものになっている。単に速いというだけでなく、その加速の質やアクセルペダルの踏み込み時に印象的な後ろ足の力強い蹴り出しなどに、モーターならではの味わいも感じられる。

エネルギー効率をとにかく重視

PHEVシステムのパワーマネジメントはハイブリッド、電動優先、4WD優先、スポーツと4つのドライブモードに沿って変化するが、基本的な性格としてはバッテリーの余力は積極的に持ち出していく方向にしつけられているようにうかがえた。電動優先モードの際には主に後軸のモーターが駆動を担い、4WD優先モードにおいてはメーター上でSOC(バッテリー充電率)が0%になっても、バッファーを持ち出しつつ前軸モーターが給電に回るなど巧みな制御で四駆走行を成立させているようだ。

スポーツモードではエンジンが前面で稼働するが、その域でも前後のモーターは隙あらばとばかりに回生エネルギーを拾っていく。中高速域の定速巡航でも駆動や回生のパターンは読めない。パワーフローをみるにポン載せではなく、その制御は相当複雑なアルゴリズムにのっとっていて、必死で最適効率を追いかけていることが伝わってくる。

それはさながら「THS(トヨタハイブリッドシステム)」のような……と思ったところで、はたと気づくのが、このハイブリッドシステムのインテグレーションにアイシンが深く関わっていることだ。8段ATのトルコンの代わりにモーターを組み込んだこの「eアクスル」は、2年余にわたるグループPSAへの納入実績もある。アイシンの電動化にまつわるノウハウの蓄積が、米粒を拾い集めるようなこの制御にも関係しているとみるのが普通だろう。

そんな回りくどい技術に食われる手数はとっととBEVに投入しろという論も世の中にはあるわけだが、“答えは多様であることもまたSDGsだ”というコンセンサスは、少なくとも日仏のクルマ屋の間では形成できているのだと思う。

(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=櫻井健一)

テスト車のデータ

プジョー3008 GTハイブリッド4

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4450×1840×1630mm
ホイールベース:2675mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:200PS(147kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/3000rpm
フロントモーター最高出力:110PS(81kW)/2500rpm
フロントモーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/500-2500rpm
リアモーター最高出力:112PS(83kW)/1万4000rpm
リアモーター最大トルク:166N・m(16.9kgf・m)/0-4760rpm
システム最高出力:300PS(221kW)
システム最大トルク:520N・m(53.0kgf・m)
タイヤ:(前)225/55R18 102V XL/(後)225/55R18 102V XL(ミシュラン・プライマシー4)
ハイブリッド燃料消費率:15.3km/リッター(WLTCモード)
価格:565万円/テスト車=614万4330円
オプション装備:ボディーカラー<ヴァーティゴブルー>(8万2500円)/パノラミックサンルーフ(15万3000円)/ナビゲーションシステム(24万8380円)/ETC車載器(1万0450円)

テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3763km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:248.0km
使用燃料:17.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.4km/リッター(満タン法)/15.8km/リッター(車載燃費計計測値)

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