穏やかな衝撃 [10代目カローラ 藤田博也チーフエンジニア](2/2)

大切なのは、自分の意見を持つこと。

10代目の開発をするに当たって、私は実にさまざまな人から意見を聞きました。お客様、販売店、ジャーナリスト。営業部門をはじめとする社内のさまざまな部署の人たち。そして友人や知人、家族にも。
インターネットも使いましたよ。先代のカローラを出した2000年頃には、その評判を知りたくてずいぶんネットを見た覚えがあります。当時はGAZOOもまだまだでしたけどね(笑)。
でも、情報や意見を集めるだけではダメ。私の上司は「開発者は営業部門の言うことを聞くな」という名言(暴言?)を残しています。これは本当に聞かなくて良いという話ではなく「聞いた上で、ちゃんと消化して、自分の意見をまとめろ」ということなのです。「みんながこう言っているので、こんなクルマができました」ではなく「私はこう考えたので、こんなクルマを創りました」と言える仕事をする。それがCEの務めだと思います。

コンセプトが支持された。

私が今回、CEとしてこだわったのは、カローラとしての基本性能を高めることと同時に、インパクトのある装備を取り入れたクルマづくりをすることでした。
全グレードにバックモニターを装備。そしてレクサスだけの装備だったインテリジェント・パーキングアシストを導入※。さらに、ミリ波レーダー方式のプリクラッシュセーフティーシステムの導入や世界初の機構であるフィールダーのワンタッチ格納リアシートも実現しました。
レクサスの高級装備や世界初の先進装備を、果たしてカローラに載せていいのか、という意見もありました。また実際、コストの面で厳しかったのも事実です。しかし、私はこれからカローラというクルマが果たす役割を考えたとき、これらの装備があるべきだと考え、押し通して実現させたのです。
結果は予想以上。購入者に聞いたアンケート調査のなかで、これらの装備があるから、という購入理由が、上位に食い込んで来ているんです。これは、従来のクルマでは見られなかった傾向です。
まさに私たちの立てたコンセプトが広く支持されたわけで、苦労が報われた気がしますね。

※上位グレードに標準装備。その他グレードではオプションだが、わずか4万2000円(税込)で装着できる。

普通のクルマから、世の中に衝撃を与えたい。

実は私は、初めから自動車メーカーを志望していたわけではありません。学生時代の前半は、例えば橋脚やトンネル、高速道路といったような大勢の人たちが日常の暮らしの中で接する構造物に興味がありました。
そのうち、動くもの、乗りものに興味・関心が移るようになり、自動車メーカーに入社したわけですが、私の根底には、“一部の人が使う特別なものではなく、大勢の人が日常的に使うものを創りたい”という気持ちが、今も変わらずあるのだと思います。
カローラという、いわばもっとも“普通のクルマ”を、いかに優れたモノにしていくか。普通のクルマという立ち位置から、世の中にどれほどの衝撃を与えることができるか。 10代目カローラの開発は、私自身にとっても、とても興味深く、挑戦しがいのあるテーマだったのです。

( 文:三枝義浩 )

MORIZO on the Road