“ワクワク”でクラスを越える [iQ 中嶋裕樹 チーフエンジニア](2/2)

製品企画っておもしろい!?

クラウンの次に担当したのがマークⅡ。そして、その次はハリアー。
だんだんと仕事がわかってきて、CEにも意見が言えるようになってきました。また、CEたち企画部門からの指示待ちではなく、ボディ設計担当として提案ができるようにもなってきた。
そうして企画のおもしろさが分かってくると、私は生意気ですから(笑)、「CEなんて、簡単にできるんじゃないの」と。
有志を集めて自主的にクルマの企画をし始め、「30歳代のキャリアウーマンが乗るクルマ」なんてアイデアを持ち込んだ。そうしたら、けちょんけちょんです。「ターゲットの平均貯蓄額の想定は?」などと次々に突っ込まれて、まったく返せません。CEはそんなことまで考えてクルマの企画をつくっているのか、すごいな、おもしろい仕事だな、と思うようになりました。
その後、新車進行管理部というクルマづくりを総合的に管理する部署を経験し、2005年、新しいクルマのCEをするよう言われました。いよいよiQに関わることになったのです。

仕事を変える。クルマが変わる”とは?

*1 現在は[スマート フォーツー]。ドイツ発のコンパクトカー。2人乗りのシティコミューターとして、1997年に登場。
*2 トヨタのコンパクトカーの全長は、[ヴィッツ]が3.785m、[パッソ]が3.60m。ちなみに、軽自動車の規格は3.40m以下。

決まっていたのは、“小さくて魅力的なクルマをつくる”ことだけ。私は、コンパクトカーの本場、ヨーロッパを視察することから始めました。そして、イタリア・ボローニャの空港で、全長3m未満のクルマだけが停められる駐車場を見たのです。当時、この駐車場は事実上、2人乗りのスマート(*1)専用。「だったら、4人乗りでここに停められるクルマをつくってやろう」と思ったのです。
「全長3m未満で4人乗り」は、常識で考えれば「そんなの無理だよ」といわれるような目標(*2)。既存の部品ひとつひとつを少しずつ小さくできたとしても、クルマは3m未満になりません。
私は“仕事を変える。クルマが変わる”というキーワードで開発チームを鼓舞しました。私たち自身が、考え方を変え、仕事のしかたも変えようじゃないか。すると、創るクルマが変わってくるはずだ、と。
もう一つ、CEである私の仕事は仲間づくり。このプロジェクトは社内でも、決して初めから歓迎されていたわけではなく、「そんなクルマ、本当にできるのか?」と半信半疑で見ていた人もいました。だから、社内のさまざまな部署に、企画を売り込み、仲間を増やしていくことが必要でした。それには、想いを伝えるしかありません。相手が「キミには負けたよ」と言ってくれるまで口説くんです。
そのうち、プロジェクトが社外でも取り上げられたりして話題になってくる。すると、「本当にやるの?」なんて斜に構えていた人が、力強い仲間になってくれたりするんです。
クルマという製品は、関わった人たちの想いでできている。“想いのかたまり”なんですよ。

*1 現在は[スマート フォーツー]。ドイツ発のコンパクトカー。2人乗りのシティコミューターとして、1997年に登場。
*2 トヨタのコンパクトカーの全長は、[ヴィッツ]が3.785m、[パッソ]が3.60m。ちなみに、軽自動車の規格は3.40m以下。

あえて技術を語らない”理由とは?

*1 ヨーロッパの燃費基準「EU混合モード」における1kmあたりのCO2排出量100g未満。ヨーロッパでは、排出するCO2の量によって自動車税が決まるのが主流になりつつあり、「アンダー100gカー」は、クルマの環境性能の新しいキーワード。ちなみに[プリウス]のCO2排出量は、104g/km。
注釈:
日本国内基準では、iQのCO2排出量は101g/km

iQでは、「全長3m未満で4人乗り」という短かさだけではなく、コンパクトであることの強みを活かし、「CO2排出量100g未満」(*1)「最小回転半径4m未満」という目標を掲げました。
そして、それらの目標を、さまざまな技術や創意工夫の積み重ねで実現していきました。開発メンバーは、きっとみんな「きつかった」と言うでしょうね。たくさんのブレークスルーが必要で、どれか一つがかけても、iQは実現しなかったでしょうから。
しかし私は、あえて技術を語りたくないのです。乗る人のライフスタイルを変えてしまうような、魅力たっぷりのクルマをつくったつもりですから、そうした話をしたいのです。
めざしたのは「クラスレス」。ヨーロッパの「ミニ」や日本の「プリウス」などは、クルマのサイズやクラス分類を越えて、さまざまな人々から評価され、人気を博しています。そうした存在をめざしたのです。
その評価基準は、私でした。私自身がワクワクするクルマでなければイヤだ、と。何せ、私はソアラにワクワクしてトヨタに入ったのですから。
もちろん座席も私が判断しました。「全長3m未満で4人乗りだから座席も狭いね」じゃ意味がない。私は身長が185cmあって、トヨタでもおそらくいちばん背の高いCEですが、私が座って満足できることが条件でした。そんな私がOKを出した後部座席、ぜひ体験してみてください。

*1 ヨーロッパの燃費基準「EU混合モード」における1kmあたりのCO2排出量100g未満。ヨーロッパでは、排出するCO2の量によって自動車税が決まるのが主流になりつつあり、「アンダー100gカー」は、クルマの環境性能の新しいキーワード。ちなみに[プリウス]のCO2排出量は、104g/km。
注釈:
日本国内基準では、iQのCO2排出量は101g/km

楽しくてワクワクするクルマへ。

“若者のクルマ離れ”といわれます。その言葉を聞くと、私は悔しくてなりません。少なくとも、私たちメーカーがそれを理由にしていてはいけない。「私たちが、おもしろいクルマ、魅力的なクルマをつくっていないから、離れるんだ」と考えなければいけないと思っています。
私たちがそんな想いを込めてつくったiQ。妥協は一切しませんでした。みなさん、ぜひ、実際に見て、乗って、ワクワクしてみてください。そして感想をお聞かせください。私は、みなさんの反応が楽しみで仕方がありません。
私はこれからも、楽しいクルマを創る、という想いから、仕事のやり方や質を変えていきたい。そして、仕事を変えることで新しいものを生み出したい。
今後、たとえ動力が何になろうと、クルマはクルマ。だったら、便利で楽しくてワクワクしたいじゃないですか。そう思いませんか?

( 文:三枝義浩 )

MORIZO on the Road