トヨタ アルファード/ヴェルファイア 開発責任者に聞く

高級でカッコいいと、使い勝手がいい、の二律双生

アルファードのフロントマスクは、堂々とした品格を表現(写真は、アルファードG ボディカラー:ホワイトパールクリスタルシャイン)
ヴェルファイアのフロントマスクは、ダイナミックな力強さを表現(写真は、ヴェルファイア HYBRID Executive Lounge ボディカラー:バーニングブラッククリスタルシャインガラスフレーク)

エクステリアデザインにおいてはアルファードのアイデンティティといえるクルマとしての圧倒的な存在感、“ツヨカッコイイ(強くてカッコいい)”外観スタイルは継承しています。しかも実車をご覧いただければ分かりますが相当、攻めています。

アルファードのデザインコンセプトは「豪華勇壮」、大胆かつ、堂々とした華やかさを実現。縦に分厚いフロントグリルとヘッドランプとのインバランスな対比によって、アクの強い顔つきになっています。
ヴェルファイアは「大胆不敵」、厳ついワルっぽさ。あのクルマが後ろから来たらちょっと怖いですよね(笑)。しかし、ワルっぽさの中にも、きっと高級を感じていただけるはずです。

そして、「斬新な構成」と「手の込んだ造り」によるインテリア。アルファード/ヴェルファイアの伝統である分かりやすく豪華な室内。各席への“おもてなし”や本物感と素材感の追求については改めて説明するまでもないでしょう。

パッケージについては、お客様の要望を取り入れて全高を20mm低くし、全長も45mm伸ばし、フロントピラーを40mm前に出して「低くて長いカッコいいハコ」を実現しました。全高を下げた分、フロア高を下げているので室内高は同じです。また、ホイルベースを50mm延長し、走行安定性を向上させるとともに、室内長が50mm拡大し、2列目席のスペースが広くなっています。そしてホイルベースが長くなったにも関わらず、タイヤの切れ角を増やすことで最小回転半径は若干ですが小さくなっています。全幅は機械式駐車場に入るギリギリの1850mmまで20mm拡大し、デザイン面を考慮して、抑揚のあるサイドシルエットを実現しました。

乗降性については、低床化(地面から450mm)に加えて、ステップをさらに下げ(地面から350mm)、先代より50mm低くして、高齢者や子どもでも楽に乗り降りができるようにしています。スライドドアの開口量も70mm広げて、3列目の席への乗降性も良くなりました。

あわせてスライドドアの開口部にあるアシストグリップの長さを約4倍に大型化するとともに従来よりかなり低い位置から設定して、背の低い子どもでもそれを掴んで乗り降りができるようになっています。実はこのアシストグリップの大型化と低い位置から設置するという改良はこれまでも色々なクルマが挑戦し、実現できなくて諦めてきた開発です。それには理由があって、シートを後ろに下げた状態でサイドエアバッグが展開する時これにぶつかって妨げになるからでした。今回の開発でも一度は諦めかけていたのですが、そんな時、ベンチマークで乗っていたあるクルマに私の子どもが乗り込もうとしてアシストグリップに手が届かないことが原因でドアに指を挟んで大怪我をするという事件がありました。この話を開発メンバーに話したところ、みんながすごく頑張ってくれて課題を克服し、実現してくれました。

また、お客様からの要望が多かった収納スペースの拡大については148Lの大容量ラゲージ床下収納を新設。収納スペースの上に鉄橋のような2本のレールを敷いて3列目席もその上をスライドできるようにした世界初の床下収納です。

ここで“ミニバン”という言葉を使うと話がややこしくなるかもしれませんが、“大空間高級サルーン”を目指して新しい高級を追求する中で、“ミニバン”に求められる基本性能、基本価値の部分はきっちり造り込んで進化させていかなければいけない。利便性はアルファード/ヴェルファイアの忘れてはいけない強みです。それもまた高級の価値観の一つとしてお客様に満足いただけるものにしていかなければいけない。そんな風に考えて開発を進めました。

運転席ではなく後部座席で開発する

2列目シートの乗り心地にこだわり開発(写真は、アルファード HYBRID Executive Lounge 内装色:ブラック)

今回の開発で徹底的にこだわり抜いたことは2列目シートの乗り心地の向上です。高級サルーンとして考えた時、これまでのものではまったく満足できませんでした。広いということに関しては圧倒的な強みがありましたが、乗り心地については正直、「もっと良くできないかな」と感じていました。

そもそもアルファード/ヴェルファイアのようなタイプのクルマは構造的に真ん中のBピラー(センターピラー)と呼ばれる柱から前は非常に頑丈なのですが、それと比べると後部座席の部分は弱い作りになっています。大型スライドドアの採用でボディ開口部が広く、さらに低床化で床の部分が薄くなっている。そして、ただでさえ車高が高く、重量が大きく重心が高いので走行安定性はセダンと比べると格段に悪い。だから後部座席は揺れるし乗り心地は悪くなる。それはミニバンの宿命であり、常識でもありました。これをなんとかしないといけないと考えたわけです。

その解決のために徹底してボディ剛性の強化を図りました。弱い部分は高張力鋼板を使用したり、床下にブレースを入れて補強。ドア開口部やフロア結合部を重点的にスポット溶接の増し打ちをし、リヤホイールハウスやロアバックまわりに構造用接着剤を採用しました。

そして、リアのサスペンションにダブルウィッシュボーンを採用したことも乗り心地の向上に大きく貢献しています。低床化でスペースがない所に構造が複雑なダブルウィッシュボーンリアサスペンションを入れるのはすごく大変でした。まるでパズルを作り上げるように1mm単位で関連部品の配置と形状変更を繰り返し、サスペンションを新しく開発してやり切りました。

通常、クルマの開発はフロント席で行いますが、今回のアルファード/ヴェルファイアの開発において、私は開発の6割から7割を2列目シートに座って行いました。静粛性や運動性能の感じ方についても全て2列目シートを基準に判断しました。2列目が良くなればフロント席は自ずと良くなりますし、3列目もそれにつられて良くなるからです。

そして極めつけは、新しく「エグゼクティブラウンジグレード」を設定したことです。飛行機のファーストクラスや新幹線のグランクラスのシートをベンチマークして開発した専用のラグジュアリーシートによって、高級ラウンジのような大いなるゆとりの室内空間を提供しています。伸縮式のパワーオットマンになっているので靴を履いたまま脚を伸ばすことができますし、100mm拡幅したシートは広くゆったりと包まれるような最高の座り心地です。読書灯やテーブル、AC電源もついています。

またシートだけでなく室内のあしらいに上質な本革素材や工芸品のような専用の木目調パネルを使用しています。更に、より上質な乗り心地を実現するために、クルマの足まわりにも専用チューニングを施し、最上級グレードに相応しい静粛性と合わせて、「高級サルーン」を超える、極上のくつろぎをお楽しみいただけます。

細かい所まで配慮したちょっとした「GRANDELUXE」

ちょっと蛇足かもしれませんが、よくクルマのシートとシートの間の狭い空間に小銭やボールペンなどを落としてしまって、拾えなくて困ったり、見失ってしまうことってありますよね。しかし、エグゼクティブラウンジグレードの専用シートではシートの間にモノを落としてもポンと座席の前に転がって出てくるという機構をつけています。ちょっとしたことですが、そんな細かいところにも気を配り、開発しました。

その他に、全グレード共通の装備では、些細なことですがカップホルダーの設置場所にも配慮しました。最近のクルマは大概、センターコンソールにカップホルダーがありますが、その位置だと運転中は視界の外で見えないので使い勝手が悪い。そこで設置場所を工夫して、運転席と助手席のエアコンの吹き出し口の位置で、かつ、視界を妨げない絶妙なところに設置しました。これは昔乗っていたハイラックスサーフについていたものをヒントに開発しましたが、すごく便利です。エアコンの冷気でドリンクを冷やすこともできます。

またハイブリッド車では100V・最大1500WのAC電源も用意しました。その気になれば電子レンジも使える大容量です。

後席を包み込むように光のラインで囲うLEDルーフカラーイルミネーション。高級感と先進性のある居住空間を演出

それからもう一つだけこだわった例を紹介しますと、全16色・4段調光が可能なルーフカラーイルミネーション。初代の室内照明はスポットの点で照らす間接照明、2代目はそれを後に伸ばして線で照らす間接照明。いずれも光による空間演出ですが、新型ではそれをどうしようとみんなで考えて、出てきた案がLEDを使った直接照明の色を変化させて面で演出しようというアイディアでした。同様の7色の光による演出をANAのボーイング787が採用しているという話を聞き、東京出張をわざわざ当時就航していた岡山空港まで行って実際に乗って体験し採用を決めました。気分転換やヒーリング効果が期待できる、これもまたちょっとした「GRANDELUXE」です。

鉄の鎧に守られているという安心感と満足感、優越感

アルファード/ヴェルファイアは元々は国内向けに開発されてきたクルマですが、近隣の左側通行の国にはかなりの台数が輸出されていて、すでに高級サルーンを凌ぐ、高い評価を得ています。ハコ型のクルマの車内を高級に作り込み、運転がしやすくてサイズもちょうどいい。そんなクルマは海外にはありません。日本独創のクルマです。インドネシアの空港に行くと送迎車はほとんどがアルファード/ヴェルファイアです。香港ではほとんど国民車といっていいほどの台数が走っています。タイも最近、増えてきました。

日本国内はもちろん、海外でも新型の投入で更にその傾向に拍車がかかると期待しています。

新型アルファード/ヴェルファイアの外観をぱっと見た時の印象は「鉄の鎧」です。強くてカッコいい圧倒的な存在感。堂々、重厚そして斬新で活発。

しかし、そんな鉄の鎧の車内に乗り込むと、広くてくつろげる豪華な空間が暖かく迎えてくれる。ハンドルを握ってみると、びっくりするくらい運転しやすい。先進装備により渋滞でも疲れにくいし、駐車もすごく簡単。他のクルマや障害物にコツンとぶつけることもまずない。乗り降りもしやすいし、2列目の乗り心地はどんな高級サルーンにも勝るとも劣らない。

そして、運転席はもちろん後部座席からの目線も高い位置にある。交差点で隣の車線に並んで停車した高級サルーンを鉄の鎧の窓越しに見下ろす優越感。これもこだわり続けた大事なポイントです。

新型アルファード/ヴェルファイアに乗った時に誰もが感じる「迫力圧巻の外壁が包み込む安心とくつろぎの車内。まるで鉄の鎧に守られているみたいだ」という安心感と満足感、そして優越感。これらは代々受け継がれてきた「GRANDELUXE」です。

アルファード/ヴェルファイアは最近の30代や40代の若い人たちの憧れになってきていて、「いつかは…」と考えている人が増えているそうです。少し背伸びをして高いお金を払ってでも、優越感や存在感に浸ってクルマを運転したい、移動したいという人たちがいる。そんなお客様のご要望にお応えする「GRANDELUXE(最高の質的贅沢を極めるクルマ)」。それが新型アルファード/ヴェルファイアです。世界中のお客様にそれを実感していただければ…と願っています。

取材・文:宮崎秀敏(株式会社ネクスト・ワン)

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