教習所で大型二種(バス)とけん引(トレーラー)を運転体験!

運転に慣れている人でも、大きなクルマに乗るというのは勇気がいるものです。なにより実際に運転できるかどうかは、乗ってみるまでわからないですよね。そこで、実際の教習に入る前に、本当にチャレンジできそうか確かめるための運転体験ができる教習所があります。それが、山梨県韮崎市にある韮崎自動車教習所です。

筆者が前回、大型免許の際の教習車(大型トラック)に体験試乗したとき、その風体から想像するより、ずっと繊細で扱いやすいことに驚きました。以来「できれば、大型免許を取りたいな」と思うばかりでなく、中古車検索サイトで大型トラックにばかり目が行ってしまうほど。やはり一度体験するのとしないのとでは、興味・関心が大きく変わるようです。

前回は大型トラックでしたが、今回はバスとトレーラーの2つを体験。大型トラックとの違いもあわせてレポートします。

自動車免許で「質」を問われる唯一の免許「二種」

前回もお見かけしたこちらの教習車で実際走ってみることに。バスと言えばサイズもかなり大きいので「かなり手を焼くのかも」と不安に

大型二種免許とは、大型車で有償(対価として料金を徴収して)の旅客輸送を行うのに必要な免許です。クルマを動かすだけでしたら大型免許でも事足ります。しかし旅客「人間」を乗せることになるのです。今回も案内してくださった韮崎自動車教習所の中込先生は二種免許について、こう話します。

「いい加減な運転をしていたら、乗客はたまったものではありません。苦情も言われるでしょうね。二種の免許は日本の自動車免許の中で唯一、質が問われる免許なのかもしれません」(韮崎自動車教習所中込先生)

まずはお手本を中込先生が見せてくれた。「簡単そう」に見えますが果たして乗れるかどうか

大型バス(大型二種免許)の運転体験!

「どうせ、トラックとバスは、上に乗る箱の違いくらいしかないだろう」と思っていたのですが、実際運転してみると、その挙動は大違いでした。

前回運転したトラックもサイズは大きいですが、エンジンをかけて発進、旋回、停車といった一連の動作は、乗用車に近かったものです。しかしバスは、まずギヤの部分で大きく違いました。

まず、エンジンをかける前にメイン電源のスイッチを入れます。基本的に2速発進なのはトラックと一緒ですが、そのギヤの形状がトラックとは大きく異なり、小さなスティック状のコントローラーになっています。これで段数を選ぶと、電気信号で選んだギヤにつながる仕掛けです。各変速したい段数のところに押さえて止めておかないとつながりません。また回転数的にあまり極端な段数を選ぶと、受け付けられず、ニュートラルのままになることもあるようです。
しかし、操作ミスは乗客へのダメージも大きいですし、ギヤボックスも傷めかねません。そのため、しっかりと速度に応じた操作が求められるということになります。

その代わり、通常運転時は変速時のショックがかなり小さいですし、ギヤの操作以外の挙動や乗り味はトラックよりも乗用車に近いと感じました。

S字カーブはトラックの時と同様、あくまでもミラーを添わせるように。あとは時々反対側後輪が縁石にぶつからないように注意する。大きなものを微調整するハンドルさばき、アクセルとクラッチの操作には、何とも言えない喜びがあるものだ

バスは、トラックに比べて車高が低いうえ、かなり後ろにタイヤがついています。そのため交差点を曲がる際は、ハンドルを切るタイミングに対して注意が必要だと感じました。ただ恐ろしく切れるハンドルと大きなミラー、見切りのいいボディのおかげで、かなり車両感覚はつかみやすかったです。
実際に曲がるときは、タイヤの中心が、交差する道路の縁石の延長線上に来たあたりで、めいっぱいハンドルを切ります。車高が低いので、縁石の高さなども気にしながらハンドルを操作して入っていきます。

トラックに乗った時以上に驚いたことは、小回りが利いた点。教習コースの道路はそれほど広くはないですが、バスが通れる幅があれば、どんな道でも入っていけるのではないか、と思えるほど小回りが利きました。

誰も乗っていないが、乗車定員の基準(11人以上)があるのでシートもそのまま装着されている
最近のバスのギヤは、小さなスティック状のスイッチになっている。これを通常のマニュアル車のギヤのように操作することで、電気信号でトランスミッションに指令を送り変速する。しっかり各ギヤのポジションで、一呼吸置かないと変速されない。操作のマナーは、あくまでも冷静に、余裕をもって
エンジンをかける前にハンドルの横にある電源のスイッチをオンにする。こういうスイッチはトラックにも、最近の乗用車にも見ないもの
運転席に座ったらシートベルトのほか、このバーでしっかり運転席の空間を車内の他の場所と区切る

加えて、指定された場所にきちんと停車する能力も求められます。行き過ぎてしまったり、手前すぎるとバスの運転手さんにはなれません。

「実際の試験では、バス停のポールがドアの幅の中に収まるように横付けして停車しないと、バス停への停車とみなされません」(中込先生)

これはしっかり車両感覚を把握しているかどうかも、求められるということ。動かし方だけではなく、いろいろなことへの配慮ができているかどうかが、普通の大型免許と大型二種の違いなのかもしれませんね。

ドアの位置をバス停に合わせて停車。これも大型二種に合格するためには必要なことなのだそう
ドアのちょうど真ん中あたりで停止させることができた。初めてにしては、まずまずではないだろうか

よく見るトレーラーより難しい? 長さ比1対1の教習用トレーラー

このトレーラーは教習用に作られたものだそう。けん引するトラクターヘッドの部分と、けん引される荷台の部分の長さがほぼ1:1

あるトレーラーをたくさん所有する運送会社の社長さんが、けん引の免許を取るために韮崎自動車教習所に通われていたそうです。空いている時間には自社のトラックを使い、自社敷地内で練習して、手ごたえを感じ「よし、これで大丈夫だ!」と言ったところ、社員の熟練ドライバーの方に「社長。これよりも、教習車のトレーラーの方がもっと難しいですよ」と言われたのだそうです。

また、この日筆者が「けん引で車庫入れをした」とSNSに投稿したところ、「免許はいろいろ持っているけど正直二種より難しい」「チャレンジしたけど取れる気がしない」など様々なコメントが寄せられました。

こちらもまずは中込先生のお手本から。「体勢が曲がってきたなと思ったらそれ以上曲がらないで、曲げたい方にめいっぱいハンドルを切ると思っておけば大丈夫です」とのこと。聞くと簡単だが、感覚がなれるまでには少し時間がかかる。またバックで曲げるためには、トラクターヘッドを逆向きにすることからスタート。理解できても体がなかなか動かないもの

教習所で使っているトレーラーは、けん引するトラクタの長さと、けん引されるトレーラー部分の長さが等長になっています。この関係は一番向きが動きやすく、微調整にもコツを要するのだそうです。

トレーラーの大きな特徴は、タイヤが動く向きが普通の自動車とは逆になる点です。乗用車も大型のトラックも、車体の大きさは違えど、ハンドルを切ったときのタイヤの動きは同じです。しかしトレーラーでは、真逆の考え方をしなければならないのです。

いざ、教習用トレーラーでけん引運転体験!

今回は限られた時間の中だったので、周回の運転のほか、バックと車庫入れを体験しました。

バック
けん引の状態で寸分の差もなくまっすぐにバックする、というのは無理であり、必ずどちらかにトレーラーが曲がり始めます。このとき右方向に曲がり始めたら「これ以上右に曲がってはいけない」ので「右にハンドルを切る」ことになります。逆でも同じ。左にそれ以上折れては困るので「左」に切ります。

「いろいろ細かいことを説明しても混乱しますので、はじめはこれだけを意識して練習していきます。そうすると、どうしてそうなっているのかわかってきますから。大丈夫ですよ」と中込先生。

体験運転の時間終了間際で、なんとか形にすることができた筆者の車庫入れ。これはもっと練習しないとだめだと実感
トレーラーの結合部分を覗き込む。ずいぶん細いパーツでつながっているのがわかる

けん引トラクタの向きをハンドルで操作していくのですが、この時コントロールしなければいけないのは「トレーラー全体」です。
ハンドルを右に切って下がるとトラクタは右に向きます。そのままバックすると右にそれてトレーラーを押し出すことになるので、トレーラー全体としては左に折れることになります。
この関係は少し乗っているとわかってきますが最初はなかなかちんぷんかんぷん。頭の中で混乱するものです。

「教習車のように引く方と同じサイズのトレーラーは、体勢が変わりやすいうえに、微調整も比較的コツを要します。これに比べると、よく走っている短いトラクタで長い荷台を引くタイプのトレーラーは難しくありません。そんなにぶれないですし、微調整がしやすいのです」(中込先生)

教習所では、難しい方に慣れておこうということですね。

車庫入れ
車庫入れでは結局、なかなかうまくいかずまごまごしてしまいました。リミットの時間が迫る中、中込先生が「もう一度やりましょう」とチャンスをくださいました。けっこう緊張していましたが、切る方向タイミングが良かったのか、なんとかお尻をスペースに入れることができました。
けん引のほうは「これならいけそうだ」ではなく、「これは真剣に練習しないとだめだな」という意味で、なんだか教習に通いたくなってきました。

運転体験だからこそ、参加する甲斐がある

でも終わってみて「なるほど」と思います。これは「運転体験」です。みんながそこまで「難しい」と言うような種類の運転体験ができるだけでも、これに参加する甲斐はあるというものです。

そして、普段は乗ることができない車種、そして大きい車体を動かしている喜び、全身に伝わるメカニカルな鼓動のようなものを感じ取ることができると、免許が欲しくなりました。前回に続き、今回も「僕も通おうかしら」と思った次第です。

この運転体験は、通常月に一回。春から秋までの日曜日に開催されています。今回取材するにあたり、2016年最終回のような状況の中で時間を取っていただきました。(韮崎自動車教習所の皆さま、ありがとうございます) 次回開催は春以降になりますが、免許取得を考えている人もそうでない人も、ぜひ機会があったら参加してみるとよいと思います。自分は運転しなくても、自分のクルマと同じ路上を走っているクルマがどのような動きをするのか。どんなことが自分のクルマと違うのか。それを知るだけでも、価値があることだと思いました。

坂道発進用の登坂路からは前方の富士山が見えた

(中込健太郎+ノオト)

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road