違いはなに? どんな人が運転してる? 意外と知らない「個人タクシー」のあれこれ

普段、私たちが何気なく利用しているタクシーには、日本交通やMKタクシーなど、タクシー会社が運行する「法人タクシー」と、会社に所属していない運転手が個人で運行している「個人タクシー」の大きく2つがあります。

タクシー会社が運行するタクシーの仕組みはなんとなくわかるものですが、個人タクシーとなると意外と知らないことも多いもの。そこで、「クラウンが個人タクシーのドライバーに愛される理由とは? 」でお話を伺ったタクシー運転手歴40年、個人タクシー歴25年のベテランドライバーである斎藤孝春さんに聞いてみました。

個人タクシーとして開業するには?

まずは、その違いから。法人タクシーが、タクシー会社の所有する車両にその会社の社員が運転手として乗務するのに対し、個人タクシーは、試験に受かったドライバー個人が、自分の車両で運行するものです。つまり、個人タクシーの運転は「個人事業主」というわけ。

個人タクシー運転手になるには、「個人タクシー試験」に合格する必要があります。年齢などにより異なりますが、「自動車の運転を専ら職業とした期間が10年以上あること」など、受験資格・条件も厳しく、ドライバーとして十分な経験がなければ受験することができません。また、試験の内容は、交通関連の法令や運転規則、運転時の地理の理解などがあり「法令の関係で、細かい部分がよく変わるし、難しい試験」とのことです。

斎藤さんと愛車のクラウン。行灯の三つ星はマスターズの証で、個人タクシー最高位ドライバーの証だ
斎藤さんと愛車のクラウン。行灯の三つ星はマスターズの証で、個人タクシー最高位ドライバーの証だ

ちなみに、斎藤さんが試験問題に取り組んでいたときは、「若いころに、これだけ勉強していれば東大にだって受かったかも」と思ったとか。昔はひとりで勉強しなければならなかったので、かなり狭き門だったのです。現在は、個人タクシーを目指す人に向けた講習会も充実しており、タクシー会社で経験を積んで、受験資格が得られるとすぐ受ける人もいるそう。

個人タクシーの資格を得ても、さまざまな義務が運転手にはあるとのこと。「『事業車は清潔に』という法令があって、『車庫は屋根付きで、洗車や整備のために水道や電気が近くになくてはならない』といった細かい決まりがありました」と斎藤さん。現在はだいぶ緩和されており、屋根付きの駐車場以外でも車両を置くことは可能だそうですが、事業車を常に清潔することが大切な義務であることは変わりません。

斎藤さんのクラウンも年季は入っているが車内は綺麗に保たれていた
斎藤さんのクラウンも年季は入っているが車内は綺麗に保たれていた

ちなみに都内では「日個連東京都営業協同組合」(通称:ちょうちん)と「東京都個人タクシー協同組合」(通称:でんでん虫)という大きな個人タクシーの組合があり、斎藤さんは"でんでん虫"に所属しています。組合への加入は義務ではありませんが、組合に入らなければJRや私鉄、繁華街の敷地内などで停車待機できないので、「所属しない人はほとんどいない」とのことです。

「個人タクシーは怖い」はまったくの間違い

よく「個人タクシーはなんだか怖い」と敬遠する人がいますが、個人タクシーは「経験10年以上」など厳しい条件と試験をクリアしているベテランばかり。また、細かいクレームの対策なども組合が取り組んでいるので、「安心して欲しい」とのことです。

たとえば、組合に「人をバカにしたような話し方だった」「乱暴な応対をされた」といったクレームが入ると、事業車がわかった場合は、組合の会報にクレームを受けたドライバーのイニシャルとともに、クレーム内容が記載されます。「イニシャルだけでも、クレームを受けた場所などで大体、誰かはわかりますね」と斎藤さん。

ドアには組合の証明証や事業車ナンバーが記されている。安心の証だといえるだろう
ドアには組合の証明証や事業車ナンバーが記されている。安心の証だといえるだろう

あまりにひどいドライバーには、タクシー乗車券(タクシーチケット)の一時換金禁止や、事業車の上についている行灯(あんどん)を一時取り外されるなどの措置もあるとか。組合の行灯を取り外されると繁華街などに停車できなくなるので、ドライバーにとって大きなペナルティーとなりますから、自ずと接客の質は上がっていきます。ちなみにこういった行灯を外されたタクシーは、黄色一色の行灯をつけることから、業界内で「かまぼこタクシー」と呼ばれているそうです。

さらに事故や違反をした場合、隠蔽することは不可能とのこと。スピード超過などで捕まった場合も報告義務があり、黙っていても免許更新のときに無事故証明書を提出する必要があるため、「黙っていてもすぐにバレる」そうで、個人タクシーは安心感があるといえそうです。

タクシードライバーに「運ちゃん」は禁句

運転の腕に関しては「法人タクシーのドライバーとの差はわからないけど、年季の入っている人が多い」とのこと。長いドライバー経験を持ち厳しい試験をクリアした人だけが開業できるとあって、地理に詳しいドライバーが多いのは、個人タクシーの特徴のひとつといえるでしょう。渋滞を避けたり近道を使ったりすることで、運賃を抑えることもできるかもしれません。最後に斎藤さんはひとつ、タクシーをより気持ちよく使うためのアドバイスをしてくれました。

「ドライバーを『タクシーの運ちゃん』と呼ばない方がいいでしょうね。『会ったばかりの人に“ちゃん付け”はないでしょ』と頑固な人は思っちゃう。親しみを込めて言っている人も多いとは思うけど、『運転手さん』の方が、私たちはうれしいです」。

たしかに言われてみればそのとおり。気をつけたいものですね。聞けば聞くほど、個人タクシーは奥が深くて、あえて選ぶべき価値があるなと感じました。

(取材・文・写真:斎藤雅道、編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road