NHKの交通安全ソング「ててて!とまって!」 誕生秘話~子どもたちを交通事故から守るために~

春、新入学の時期が近づいてきました。道路横断デビューする子どもたちが出てくるとともに、痛ましい交通事故の心配も増えます。NHKは2022年、子どもたちに道路の横断方法を伝える、交通安全ソング「ててて!とまって」をリリースしました。そして、この歌を中心に子どもたちの安全を守るためにイベントや番組作りなどの展開を行っています。

「ててて!とまって!」が誕生した経緯などをNHK首都圏局 視聴者リレーションセンター ディレクターの竹内はる香さんに伺いました。

突出して多い7歳児の交通事故

――交通安全ソング「ててて!とまって!」は、道路を横断するときにどうするかを歌と身振りで子どもに印象付ける内容となっていますが、この歌を作るきっかけは何だったのですか?

竹内さん:2021年の6月に千葉県八街市で、下校中の飲酒運転のトラックにより児童5人が死傷した事故がありました。この事故をきっかけにNHK首都圏局では、子どもたちの通学路を守るためのキャンペーンを始めたのです。首都圏ナビというサイト内で「その通学路、安全ですか」という特集ページを作り、子どもたちの通学路チェックや危険箇所の情報収集などを行ってきました。そんな中、子どもたち向けにも何かできないかと取り組み始めたのが歌を作ることでした。

【参考】NHK首都圏ナビ:https://www.nhk.or.jp/shutoken/selection/schoolzone/

――主なターゲットを7歳前後の子どもとしたのは何故ですか?

どの年齢に向けて発信したらいいのかを取材したところ、交通事故総合分析センターによる国内での歩行中の交通事故の死傷者数(10万人あたり)を示したデータを知りました。そのデータを見ると、全年齢の中で7歳の子どもが交通事故に巻き込まれる件数が断トツに多いのです。

専門家に聞いたところ、7歳というのはちょうど小学校入学の年齢で、自分の足で登下校するようになり、1人で道路を横断することが増えること。この年頃までの子どもたちは何か魅力的なものがあると、それに向かって衝動的に行動してしまう傾向があるそうです。

例えば、道路の向かいにお友達がいたら何も考えず飛び出してしまうといったことですね。あるいは、自分で危険の予測をするのが難しい、といった理由から交通事故に遭いやすいのだそうです。そこで、7歳前後の子どもたちに向けて届けようと方針を決めました。

子どもはあいまいな「確認してね」を理解しにくい

【「ててて! とまって!」の動画再生はこちらから】
https://www.youtube.com/watch?v=wJG7Byz-YCI

――歌も曲もテンポよく、思わず口ずさんでしまいたくなりますが、歌詞はどのように作ったのですか?

竹内さん:子ども番組の歌詞を作るのが得意なプロデューサーに依頼したのですが、子どもたちにわかりやすい言葉でという以前に、“子どもたちがやりやすい動作”で、しかも横断するまでの“できるだけ少ない動作”とはどんなものかと考えました。

というのも、道路を横断するまでにやらなければならない確認や動作というのは細かくてたくさんあるものです。「右を見てクルマが来ていないか確認。同様に左も。もう一度右を見て……」とそれらをすべて順番通りにやって全部クリアしないと横断できません。

しかし、7歳前後の子どもたちにとって、それらを全部覚えて確実に行うというのは大変難しいそうで。そこで、少ない動作で確実に安全を確保できるような動作をと考えたのです。結果、出てきたのがタイトルにもなっている「ててて!とまって!」という動作です。

  • 「ててて!とまって!」の動作

これは、京都府警や三重県警などが推奨している「ハンドサイン」をヒントにした、クルマのドライバーに向かって手のひらを向けるというものです。手のひらをしっかり見せると自然とドライバーの方を向く格好になり、クルマがちゃんと止まってくれたかどうかを確認することにも繋がります。

実は、子どもたちに「左右を見て確認してね」と伝えても、何をどう確認するのか、理解しにくいそうです。「ててて」の動作をすることで、自分の存在をドライバーに示すとともに、クルマが止まっているかどうかを自分で確認する形になるわけです。それを左右両側に向けてやって、クルマが止まってくれたら、ドライバーさんにお礼をしましょうね、という流れで歌詞をお願いしました。

その依頼を受けて、クルマに止まってもらう動作をしっかりと子どもたちに覚えてもらえるよう「ててて!とまって!」というキャッチ―なフレーズが生まれました。

歩行者とドライバー双方のコミュニケーションで無事故に

――歌は、ドライバーへのお礼までがワンセットになっているのですね。

竹内さん:「くくく くくる!くるま!」とクルマが来るのを確かめて、「ててて ててて!とまって!」とドライバーに向かって手を向けて、止まってくれたら渡りながら「ててて ててて!サンキュー!」とドライバーにあいさつするという流れですね。

もちろん、道路を横断するための動作なのですが、ドライバーに対して合図をしたり、あいさつをしたりというコミュニケーションをしてみよう、という子どもたちへのメッセージも込められています。

専門家の方によると、交通安全というのは、ドライバー側と歩行者側、双方が適切にコミュニケーションを取ることで成り立つものだそうです。お互いに良好なコミュニケーションが取れていれば、交通事故は起こらないはずなのです。ですから、子どもたちに小さいうちから道路でのコミュニケーションの大切さを知ってもらえればと思っています。

同時に、ドライバーの皆さんには、子どもたちが必死にサインを送ってきたら、それをきちんと受け止めて止まってあげてほしいのです。道路交通法でも信号のない横断歩道で渡ろうとしている人がいる場合は止まらなければならないと定められていますので。

痛ましい事故をなくすために「ててて!とまって」を広めたい

――「ててて!とまって」の反響はいかがですか?

竹内さん:昨年リリースしてから、イベントなどで発表する機会があったのですが、7歳前後のお子さんを持つ保護者の方からは好意的な声をいただいています。やはり、小学校入学を控えて、1人で道路を横断しながら通学できるのだろうか、と不安を感じている保護者の方が多かったようです。子どもたちと楽しみながら学べるものはうれしいとのことで、「子どもと一緒に歌って練習します!」といった声をたくさんいただきました。

子どもは「気をつけてね」と大人に言われても、具体的に何に気をつけたらいいのかわからないといった面があるそうです。また、保護者としてもどう声かけをしたらうまく伝わるのかと迷っている方もいるとのことで。親子で何をどう気をつけるのかを学ぶためのツールとして「ててて!とまって!」を利用していただけたらうれしいですね。

――「ててて!とまって!」は、2022年4~5月の「みんなのうた」で放映されていましたが、今はどうすれば見られますか?

NHK「あおきいろ」のサイトで映像が見られる他、今年2023年も3月から5月まで「みんなのうた」や「あおきいろ」の番組で放映しています。

【参考】あおきいろ」サイト
https://www.nhk.or.jp/irotoridori/aokiiro/movie/uta.html

4月の新入学期、5月の全国交通安全運動の機会に、ぜひ全国の子どもたちにこの歌を歌っていただき、安全に横断歩道を渡っていただけたらと思います。

また、2022年12月に「ててて!とまって!」を使った小学校向けの授業教材が完成しました。専門家のアドバイスの元、歌やクイズで楽しく学べる教材となっています。こちらはNHK for School 「オープンクラス!」のページから見られます。全国の小学校の先生方に、生活科などの通学路の安全に関する授業でご活用いただきたいと考えています。

【参考】NHK for School 「オープンクラス!」サイト
https://www2.nhk.or.jp/school/watch/bangumi/?das_id=D0005270363_00000

子どもの安全を守るために非常にわかりやすい歌が登場したのは喜ばしいことです。ドライバーとしては、子どもたちの「ててて!とまって!」のサインを見逃さず、上手にコミュニケーションを取り、子どもたちを守るよう心掛けたいものです。

<取材協力>
NHK首都圏局
子どもを守る交通安全ソング 「ててて!とまって!」

(取材・文:わたなべひろみ/画像:NHK首都圏局/編集:奥村みよ+ノオト)

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