小学生に“やさしい運転”を教える理由は? 「こどもエコドライブ教室」の壮大な作戦

子どもには、小さい頃から英語を学ばせておくといいと聞いたことがあります。リスニング力と発音が良くなるなど、いくつかのメリットがあるそうなので。

では、クルマの運転についてはどうなのか? NPO法人山形自動車公益センターは、2015年より小学生を対象とした「こどもエコドライブ教室」を実施しています。なんでまた、小学生に自動車運転の授業を!?

助手席に座る子どもを通し、運転席にいる大人の意識を変える

まずは、山形県とクルマの関係について。国土交通省山形運輸支局のまとめによると、同県の一世帯あたりの自動車保有台数は2020年3月末時点で2.23台。全国第2位と非常に高く、山形県民にとってクルマは生活に欠かせない存在です。

ここからは、同センターの事務局長・髙橋志穂さんに話を伺います。

高橋さん:「自動車を所有している人が多い山形県ですが、その一方で、『窒素酸化物など有害な排ガスを出す』『CO2を撒き散らす』という古くからのイメージから、自動車が環境悪の象徴のように捉えられることも少なくありませんでした。

しかし、電気自動車やハイブリッド車など、近年は環境にやさしいクルマが開発されています。ハード面に関しては、メーカーさんがすでに頑張っている。あとは、ソフト面……つまり、人間の運転技術を直してCO2の排出を減らす試みをやっていきたいと考えたんです」

志はわかります。でも、一旦覚えた運転の仕方って、なかなか変わるもんじゃないしな……。

高橋さん:「そうなんです。ドライバーさんに『やさしく運転してね』と言っても、それはなかなか難しい。そこから行き着いたのは、『助手席から運転席の意識を変えられるんじゃないか?』という考え方でした。お子さんから『お父さんの運転は怖い』と言われたら、ドライバーさんの意識は変わりますよね」

つまり、こういう動線です。

①小学生がドライブ教室で環境にやさしいドライブの仕方を学ぶ

②授業で学んだ小学生が、助手席から運転席のお父さん、お母さんに声をかける(運転のダメ出しする)

③ハッとしたお父さん、お母さんが運転の仕方を直す

高橋さん:「小学生にエコドライブのやり方を教え、結果的に大人の意識を変えることで、ソフト面でやさしい運転を広めていくという目的です」

これは、うまく考えましたな……。

“環境”と“エコドライブのコツ”の二部構成授業

気になるエコドライブ教室の内容は、前半と後半に分かれた二部構成になっています。

  • 小学校の体育館でエコドライブ教室が行われたときの様子

前半は、講師に環境学者を招いた環境の授業です。

高橋さん:「内容は『地球温暖化が進むと、何が起こるか』というものです。例えば、近年は温暖化の影響でグリーンランドの氷が張らなくなり、ホッキョクグマが狩りをする場が少なくなってきています。その結果、ホッキョクグマが死んでしまったり、狩りができずに親熊が子熊を食べてしまったり……」

ええっ、そんなことが起こってるんですか!? それは、残酷な……。

高橋さん:「残酷ですよね。『でも、ちゃんと対策すれば大丈夫だから、お父さんやお母さんにやさしいドライブの仕方を教えてあげよう』と、子どもたちには呼びかけています」

そして後半では、自動車ディーラーのスタッフ兼「環境マイスター」(※1)を招いた“エコドライブのコツ”を教える授業が行われます。

  • 緑のボールを持った人がエコドライバーで、銀のしわだらけのボールを持った人はタイヤの空気を気にしないドライバー

高橋さん:「教室をガソリンスタンドと仮定して、定期的に“タイヤの空気圧をチェックするかどうか?”の寸劇を行います。『タイヤの空気を確認します!』の役のほうは空気がちゃんと入ったボールを、『タイヤの空気なんて気にしない!』の役のほうはグチャッとなっているボールを持ち、2人でボールを転がします。

空気が入ったボールのほうが転がりやすいという結果を踏まえ、どちらのほうが燃費が良くて、エコドライバーなのかをディーラーのスタッフ兼、環境マイスターさんが解説します。

『自転車を漕ぐとき、タイヤの空気が減っていると疲れるよね? クルマも同じで、定期的に空気を入れないとエネルギーをいっぱい使うんだよ』と教えると、子どもたちは納得してくれるみたいです」

授業を受けた子どもたちが、ガソリンスタンド(もしくは、自動車ディーラーの店舗)に行くお父さん、お母さんに「空気圧、見てもらったら?」と声をかける……という、なかなかに壮大な動線を想定してのエコドライブ教室というわけです。

高橋さん:「もちろん、子どもたちが免許を取った後のことも視野に入れて活動しています。小学生の早期環境教育でありつつ、自動車離れを防ぐことも目的の1つです」

そんな「こどもエコドライブ教室」は、主に理科の授業で環境を、もしくは社会の授業で自動車について学ぶタイミングで、4~6年生を対象に開かれるそうです。さらに、サッカーチーム「モンテディオ山形」からの依頼で開講したこともあるとのこと。これまでに、50回ほど行われてきました。

  • 小学校4~6年生が対象。みんな真剣に聞いている

高橋さん:「先生の間で『エコドライブ教室がいいらしいよ』と口コミで広がり、多くの小学校からお呼びいただくことで、活動を続けてくることができました。そういう意味では、授業をさせていただくたびに常に良い反応をいただいている感触はあります」

2017年には、環境省から環境大臣表彰を受賞しているエコドライブ教室。「助手席から運転席の意識を変える」という試みは、どうやら功を奏しているようです。

ちなみに、「こどもエコドライブ教室」は、同法人が携わる自動車リサイクル事業(寿命を迎えたクルマの再資源化、再利用)の利益を活動資金に充て、社会還元を目的に行われているそうです。

自動車のリサイクルと、やさしいドライブの啓蒙。やはり、ハードとソフトの両面からエコに取り組んでいるという印象です。山形県だけでなく、全国にも広まっていくといいですね!

※1
地球温暖化防止・省エネルギー・グリーン購入・大気汚染防止等に対しての知識、情報を持った、県内各メーカーのディーラーの販売員のこと。日常の販売活動を通じ、ドライバーへ適切なアドバイスを行うとともに、地球環境問題の啓蒙活動やエコドライブの普及に努めている。

(文:寺西ジャジューカ/写真:NPO法人山形自動車公益センター/編集:木谷宗義type-e+ノオト)

<関連リンク>
NPO法人山形自動車公益センター

コラムトップ

MORIZO on the Road