片岡龍也 ドライバーズコラム 第6回 D1ストリートリーガルデビュー苦労話

皆さん、こんにちは!レーシングドライバーの片岡龍也です。前回の続きでドリフトの苦労話です(笑)。

D1ストリートリーガルデビュー

もうここからは、僕のモータースポーツ人生の中で、最も充実した苦難の連続であったことは間違いないお話をさせていただきます。AE86でD1デビューは決まったけど、マシンがその時点で手元にありません。以前の所有者から引き渡されてはいましたが、そのままでは走れる状態ではなかったので、全部バラして一からやり直しとなりました。

バラバラになったマシンが組み直され、カラーリングされ、ストリートリーガルマシンとして完成するのは、大会開幕の1週間前の予定でした。そうすれば少し走らせてから開幕戦を迎えられる予定でした。しかし…。

メンテナンスは、SUPER GTに参戦している坂東商会ですが、SUPER GTなどで人手が足りなかったので、外注先でメンテナンスをしていました、なかなかガレージへ行ってなかったのですが、初走行も2日後に迫った日にマシンを見に行くと、ベースカラーの塗られたボディしかありません。

メカニックではありませんが、間違いなく2日後に走れる訳もないし大会にも間に合うとは思えない大大大ピンチでした。僕は直ぐに家に戻り、約一週間分の着替えを取りホームセンターで作業着を購入してガレージに戻りました。

人手が足りないのなら自分が手伝うしかない!と思い、その日から泊まり込みでマシンの組み立てを手伝いました。パイプを切ったりサスペンションを取り付けたり、内装関係もかなりやりました。次の日からは、坂東監督も泊まり込みで来ましたが、それでも人が足りないので、週末だけ予定していたメカニックも前倒しで応援に駆け付け、まさに突貫工事でマシンを形にしていきました。

しかも、そんな時に限って寒波が来てしまいガレージの外では雪が降る中、小さな石油ストーブとブランケット1枚で眠らなければならない環境は、本当に笑えるくらい辛かったです(笑)。

開幕戦

本来なら、金曜日に練習を走行して土曜日の予選に備えるのですが、金曜日の夜の時点ではガレージで作業していました。ただ土曜日の車検の時間は朝で、場所は岡山の備北。時間を逆算すると、もうそろそろガレージを出発しないと間に合わない状況でした。とりあえずエンジンも掛かりタイヤも4つ付いたので、急いでトラックに積んで岡山へ向かいますが、もちろんこのトラックのドライバーも僕でした(笑)。

眠らずに岡山まで走りきり車検もなんとか受かりましたが、マシンの状態はただ形になっているだけです。朝の練習は一回しかありません。その後は予選になるので、初めてのコースに初めてのマシンの感じを掴みたいところですが、やっつけ作業のマシンは真っ直ぐ走らない、ブレーキ利かない、エンジンは1気筒死んでいると悲惨です…。もちろん予選も通るわけありません。むしろドリフトも出来ません…。

火曜日から徹夜で作業を続け、トラックを運転して岡山まで行って、ほとんどドリフトすることなく帰ってくるって凄いでしょ!?

もうこれを経験しているから何が起きても驚かないけど、このシーズンも以降のシーズンもこのAE86は一度も調子良く走ることなく終了しました(笑)。

出来の悪い子ほど可愛いと言いますが、全く可愛くありませんでした! しかし、思い出は沢山作ってくれたマシンだと思います。

D1へスープラでデビュー

厳密に言えば、AE86でD1へ2戦出場しているので、デビューは済ませていると言う事は内緒にしておきます。

話戻りまして、スープラでD1へデビューしました!念願のハイパワー車です。

スープラになってからもちょこちょこと大変ではありましたが、650馬力のパワーは、始めのうちは楽しかったけれど、1000馬力級のマシンがゴロゴロといるD1の中にいると、もっとパワーが欲しくなってきました。

その後、NOS(*1)を搭載してもらい、これが一気に下からパワーを上げてくれたので、だいぶカッコいいドリフトが出来るようになり、D1でも予選を通過出来るようになってきました。

鈴鹿のストレートエンド200キロからのドリフトで、SUPER GTのチームメイトの谷口さんとの追走も面白かった!織戸さんと一度対戦してみたかったけど実現しなかったのが悔やまれます。

D1は3年参戦しましたが、最後のシーズンでは一人で走る単走の結果はかなり上位まで行けるようになりました。一度に2台で走る追走が無くなった大会の時には、単走の結果で2位になり、これが僕のベストリザルトになります。

単走は、レーシングドライバーとしての感覚も大きく役に立ちましたが、2台で走る追走だけは、最後までソコソコのレベルまでしか出来なかったのが悔しいかな。本当にトップレベルのD1ドライバーたちの追走は、技術も迫力も凄いですからね!

2回に渡ってお話したのが、ドリフト話なのか苦しかった話なのか分かりませんが、レースだけやってきた僕には、とても刺激的で新しい感覚も手に入れることが出来た楽しい時間でした。今はドリフトをやる体制が整わないので休んでいますが、そのうちひょっこりと復活するかもしれません。

その時には、もっと上位を目指したいと思っています!

今回のドリフトの話は、これで終了です。

(*1) ナイトラス・オキサイド・システム
ナイトラス・オキサイド(亜酸化窒素(笑気ガス/N2O))と呼ばれるガスをエンジン内部に噴射するシステムのこと。元々は第二次大戦中にドイツ空軍の航空機用に開発されたシステム(→GM-1)で、エンジン冷却と高い高度を飛んでも出力が低下しないようにするために用いられていた。ウィキペディアより

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road