脇阪寿一 ドライバーズコラム 第8回 開幕直前!スーパーGTなお話

1998年(童夢/ホンダ)より2015年(坂東/LEXUS)まで、ず~っと全日本GT選手権からスーパーGTの舞台で、レーシングドライバーとして戦ってきた僕ですが、2016年よりチーム監督としてスーパーGTを戦うことになりました。

そう、去年まで選手で今年から監督を任されたのは、全国いや全世界広いと言え、読売巨人軍の高橋由伸監督と僕ぐらいです。身の引き締まる想いでおります(笑)。

僕が監督を任されたチームは、LEXUS TEAM LEMANS WAKO'S
知っている方は知っているかと思いますが、僕がホンダからトヨタに移籍してきた際、2001年から2005年まで5年間在籍した名門チームで、2002年には全日本GT選手権のタイトルを獲得させてもらい、数々の優勝を経験させていただいた恩義のあるチーム。青と白のエッソウルトラフロー・スープラと言えば未だにスーパーGTにおける歴代GTカー人気ナンバーワンを誇るクルマです。

ご縁を感じるのですが、言わば長い時間をかけて僕はチームルマンに戻ってきたのです。
ですがここ最近のルマンは、本来持つ実力がなかなか結果に現れ無いシーズンが続いており、その局面を打開すべく監督の職を仰せつかりました。

チームの土沼社長からは、“あの頃の様なチームにして欲しい“と言われていて、あの頃とは僕がいた頃で、僕の色が濃かった頃の事を指しています。チームとしては、しっかりとした実力を持っているチームです。

僕がすべきことは、そこに少し僕色の雰囲気をつけることによって、チームスタッフ全員がより仕事をしやすい環境作り、より失敗をしない為の準備をして、みんなで同じ感覚を持ち、同じクルマを頭の中で走らせ、シーズンを通して安定感を作る事。微力ではありますが、精一杯頑張りたいと思います。幸せな事に、チームスタッフ全員が僕のオーダーに対し、既に聞く耳を持って接して頂いており、大変感謝しています。

今年のクルマは、去年に引き続き、LEXUS RC F 。スポンサーの変更に伴い、カラーリングが一新されました。スポンサーになって頂いた株式会社和光ケミカル様と共に、新たな出発です。

ドライバーも大嶋和也選手が残留し、アンドレア・カルダレッリ選手がTOM'Sより移籍してきました。2人共、非常にクレバーで速いドライバー、プロとしてしっかりした仕事をこなします。

今シーズンは、今までに岡山国際サーキットとツインリンクもてぎ、そして今回のスーパーGT公式テスト@岡山国際サーキットと3回のテストをこなしてまいりましたが、いずれも高いレベルで安定し、テストをトップタイムで終わる事が珍しくない雰囲気も出てきています。これに油断する事なく、自分たちの存在すべき位置を身体に染み込ませ、ライバルに意識してもらえる様にする事は大切と考えています。

まずは、今年のルマンは違う!って自分たちとしても意識し、ライバルに対してもそう思われる様、残る次回の公式テスト@富士をこなし開幕を迎えたいと思います。

精一杯頑張りますので、LEXUS TEAM LEMANS WAKO'Sの応援をよろしくお願いします。僕としても新たな挑戦をしっかりと頑張ります。

それでは、スーパーGTのチームはどの様な人たちで成り立っているかを、チームルマンを例に挙げて少し説明しましょう。

まずは、エンジニアです。
チームの頭脳です。クルマのセッティングからレースの戦略、メカニックの方々への指示全てがエンジニアの仕事。全ての周のラップタイムをチェックして、クルマをミリ単位で考え、タイヤの空気圧は100分の1単位で調整し、優秀なエンジニアは、ドライバーのメンタルもセッティングしてしまいます。

続きまして、データエンジニア
クルマがピットに戻ると、クルマから走行データを抜き取り、そのデータを解析、エンジニアが欲しい情報を即座に伝えます。特に走行姿勢やダウンフォース量など、ありとあらゆるデータを管理します。

情報収集係
スパイって言ったら怒られますが、全ての情報を収集、管理します。
ライバルたちがどんな状態で走行しているか等、全てを把握し、必要に応じてエンジニアやドライバーにそれを伝えます。

ドライバーがニュータイヤでアタックして、自分のラップタイムとライバルのラップタイムを比べたい時、そのライバルが使っているタイヤとか色々気になるでしょ!?それらを調べるの。よそのメーカーの情報とかは細かくはわからないけど、それは経験といろんな情報で予測します。

ピットマン
ピットウォールで、自分のチームがホームストレートに帰ってきたときに、ピットボードで情報を伝えます。今は無線が装着され、全てにおいて無線で交信できますが、念のためにという意味合いと、走行中のクルマの確認や、いろいろな意味があり存在しています。

因みに12 19・7は、#12号車がトップタイムでラップタイムが1分19秒7という事です。自分がトップタイムの時は、2番手のクルマとラップタイムを表示します。ドライバーは、クルマの中のモニターで自分のラップタイムはリアルタイムで理解しています。

そしてL 3これはチームによって、シチュエーションによって、カウントアップやカウントダウンは異なりますが、3周目という事です。ピットマンはクルマの走行中はピットウォールでピットボードを出していますが、クルマがピットに戻ると、クルマをピットに誘導し、その後は、一メカニックとして作業に加わります。

タイヤ交換です。
レース中やクルマがピットに戻った際に、タイヤを交換します。
スーパーGTの場合、レース中にタイヤ交換をしますから、この作業が速いか遅いかによって勝敗が変わります。

例えば、ドライバーがライバルより1周、0.3秒速く走る事は大変な事ですが、この作業で3秒や5秒ロスする事は容易に起こります。その3秒や5秒をドライバーが取り返そうとすると、1周0.3秒ライバルより速く走れたとして、何周かかります!?

この作業、実はスーパーGTにおいて本当に重要な仕事なのです。ですから、この作業をするメカニックはそのチームでも選りすぐりのメカニックが担当しますが、腕力もかなり必要なため、若さも求められます。

彼らは0.1秒でも速く作業ができるように、レーシングチームの本境地に戻っても仕事終わりで特訓し努力を欠かしません。

タイヤ交換があれば、次は給油です。
給油するメカニックのすぐ後ろには、消火器を持ったメカニックが待機、万が一の時に備えます。安全面の観点から、公平性を保つという観点からこの給油に伴うガソリンの流量が決まっています。給油時間を稼ぐには、ドライバーがレーシングスピードで走りながらも燃費走行を心がけるか、エンジンスタッフが効率の良いエンジンマップを調整するか、この給油器具をロスなく指し抜きするしかありません。その指し抜きもかなりの力が必要で、給油中に給油器具がクルマから離れないように押し付けるのですが、靴の裏が滑ると力が入らないと靴の裏に細工をしているメカニックさんも存在します。

給油するためのガソリンは

この給油タワーに納められていて、LEXUSチームは全て共通デザインでカラーリングはそのチームスポンサーカラーとなっています。

これは何をしているかわかります!?
メカニックが、路面温度を測っています。
15分から30分に1回は、クルマがピットに戻って出て行く度に気温と合わせて路面温度を測って、無線で全チームスタッフに報告しています。

レーシングカーやレース用のタイヤは、非常に環境に敏感で、どのような条件でクルマを走らせているか、どのよう条件でタイヤがどう働いているか、それを知るために細かくチェックしています。

じゃぁ、これは何をしているかわかります!?
メカニックさんが、変な機械をクルマに向けています。

色々な送風機を使って、クルマに風をあてています。これは、全部そのための送風機です。

レーシングカーは、レーシングスピードで走るときに合わせて全てが作られています。例えばブレーキ、皆さんが乗られている乗用車に使われている鉄のブレーキではなく、スーパーGTの場合はカーボンブレーキを使います。フルブレーキ時のブレーキローターの温度は定かではありませんが、今横に座っているアンドレアが500度から600度まで上がると申しておりますが、もっともっとですよね!?

ブレーキングのときにホイルの中が赤く焼けて見えますよね!?あれ!
そんな上がったブレーキ温度をレーシングスピードで走った時にダクトに入ってくる風の量で温度を管理していて、それが急にクルマが止まったら風で冷やせなくなりブレーキが熱でダメになることを防いでいます。もちろんブレーキだけでなくエンジンやターボも冷やしています。これ、大切な作業です。

大嶋選手にラップタイムモニターを見せているのは、チームマネージャーです。
マネージャーは、チームの雑用から、宿泊移動の手配、ドライバーのケア、食事の手配、全てを行います。結構大変な仕事です。ルマンの場合、英語をネイティブに話す彼女は、難しい内容をアンドレアに伝える時の通訳もします。

こちらは、TRDのエンジンスタッフです。エンジンスタッフは2通り存在し、彼は主に、エンジンの管理や調整を走行データからパソコンを使って行います。
エンジンのパフォーマンスが良いか悪いかは、彼次第です。

そしてもう片方のエンジンスタッフは、エンジンの組み替えやメンテナンスをするスタッフです。こちらもTRDのスタッフで、各チームでエンジンに何かあると彼らがやってきてエンジンを触ります。

この画角より下は、LEXUSのTRDの機密事項です。

こちらはTRDの中枢、総司令部とでも言いましょうか、TRDスタッフが集まり各チームの情報が全て集まる場所です。ピットでの作戦司令部の他に、LEXUSには、通称K-MAXというトレーラーの荷台部分がオフィスのようになっている場所も存在し、

そこが総作戦司令部で、ピット内は現場の司令部のような位置つけです。

ピットウォールにも、このようにTRDスタッフの場所があり、こちらでも情報を集めています。

このようにして、スーパーGTはたくさんの人の存在の上に成り立っています。
現場だけでもレースウィークには1チームに30名から40名、現場に来ない開発スタッフや、チームスタッフを入れると1台に100名以上が関わってレースが成り立っています。

今日はその一部を掘り下げましたが、やり出したらきりがありません(笑)。
ですが、少しでも情報として皆さんに届けられたら、開幕戦がより楽しみになる、よりレースが解りやすくなると思い書かせていただきました。

これを読んでいただいた皆さん、今年は是非サーキットに足をお運びくださいね!!

サーキットでお待ちしています!!

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road