【大学自動車部】北の大地から熱い大志を! -北海道大学-

全国の大学や専門学校などの自動車部におじゃまして、日ごろの活動風景やご自慢の部員を紹介するこのコーナー。今回は北海道大学の自動車部を訪問。寒冷地ならではの悩みを抱えながらの活動を紹介します。

★​北海道大学体育会自動車部 プロフィール
●部員数:男子19名 / 女子1名 ※部員数は2014年12月現在
部員紹介ページ
●部車:三菱ミニキャブ ほか
●活動内容:毎週土曜日の10:00から、札幌キャンパス内の部室で部会と掃除。春から秋にかけては、毎週水曜日と金曜日にダートトライアルやジムカーナ、計算ラリーの練習を行う。冬季はクルマのメンテナンスや修理がメイン。年間通して最大のイベントは七大戦。
●活動実績:2014年度 全国七大学総合体育大会 3位

広いキャンパス内に位置する立派なガレージ

“工場”から姿を現したKZ-RR12。撮影のために時計台前に移動した際は、キャンパスにいた人たちから注目を浴びました
約1.8平方キロメートルという広大な敷地を誇る北海道大学の札幌キャンパス。構内にはクラーク像やポプラ並木など、観光ガイドブックの紙面を飾る「名所」も存在する。
ものづくりが大好きで入部を決意した薗さん。「“工場”で作業しているときは至福の気分」と話します
ガレージに併設された自動車部の部室は、3個のこたつに灯油ストーブと、暖房器具がとにかく充実。そうでないと冬場の活動に支障をきたすのだろう。
取材時は、フレームとなる一部のパイプの切り出しがすでに終了。アルミフレームはKARTの代名詞と評判です
このほど主将に抜てきされた2年生の高光 遵さん。その理由は、4年生の先輩いわく「彼が一番頑張っていたから」とのこと。
“工場”内は天井も高く、広々とした空間。車両整備もしやすい環境で作業がグングンはかどります
4年生の鷹巣恵鈴さん。本年度の七大戦ラリーでは、牧瀬貫慈さん(残念ながら取材時は欠席)とのコンビでクラス2位にランクインしている。

北海道大学は「少年よ、大志を抱け」のクラーク博士が初代教頭を務めた札幌農学校が前身です。開学は1876年で、1918年に北海道帝国大学に発展し、戦後の1947年に北海道大学と改称されました。当初からの理念である実学の重視とフロンティア精神は、今も脈々と受け継がれています。

水産学部は函館にキャンパスを構えますが、他の学部と施設は札幌市内にあります。札幌駅からすぐ近くに広大な面積を有し、キャンパス内はまるで一つの町のよう。ポプラ並木を抜けて雑木林の中の道をたどっていくと、競技用のクルマと部品取り車が何十台も並ぶ場所に出ます。そこにある立派なガレージに付属した建物が、北海道大学自動車部の部室でした。

取材に訪れたのは12月初旬で、雪がちらつく寒い日でした。北大自動車部は、そろそろシーズンオフの時期です。雪が積もってしまえば、なかなか練習もできません。部室の寒さ対策は万全で、大きなストーブに加えて3つ連結したコタツも用意されていました。

迎えてくれたのは、主将に就任したばかりの高光 遵さん。まだ2年生なのですが、重責を担うことになりました。なぜなら3年生の2人の部員がどちらも水産学部なので函館キャンパスで学んでおり、この部室を拠点に活動することが難しいからです。寒いのに坊主頭ですが、80kgを超える堂々たる身体で貫禄は十分です。

主将は先輩たちから指名されることになっていて、高光さんに白羽の矢が立ったのは「一番頑張っていた」ことが理由なんだとか。作業に熱心で、勝利を目指して練習にも熱が入っていたそうです。部員の前で先輩にほめられ、高光さんはちょっと照れ気味。愛車のミラージュ​​のクラッチが切れなくなったそうで、これから修理にとりかからなければならないということでした。

4年生までが現役部員ですが、大学院に進んだOBやOGも部室を訪れます。学内にいなくても、北海道に住んでいて連絡が取れる人は、部員に準ずるメンバーとして扱われます。現在の現役部員は20名。一番多いのが2年生で9名います。その前年と前々年は入部者が少なかったそうですが、持ち直したようです。

70年代80年代の全盛期には50人以上の部員を抱えていました。でも、最近は部員集めに苦戦気味。とはいえ、北海道では帯広畜産大学の自動車部が消滅してしまったそうで、北大はまだ恵まれているのかもしれません。ちなみに、現役の女子部員は4年生の鷹巣恵鈴さんだけ。全日本ラリーにコ・ドライバーとして出場する実力派です。

“ラリーの北大”の伝統を守る

工作機械を扱う井澤さん。フライス加工、溶接など、自分たちでできることは自分たちで行います。なお、桂キャンパスには、高精度の工作機械もあるそうです
七大戦だけでなく、さまざまなイベントに参戦する北大自動車部。こちらは室蘭工業大学主催のダートトライアルの様子。
設計中の図面と向き合う後ろ姿からは、すでにトップエンジニアの風格すら感じさせます
札幌キャンパスの奥に位置する北大自動車部のガレージ。複数の車両を同時に整備できるスペースと、溶接機やクレーンをはじめとした、充実した設備が自慢だ。
最初は工具の名前もまったくわからなかった新入部員も、数ヶ月も経てば立派な戦力に
こちらで溶接作業にいそしんでいるのは、(顔は写っていないけど)2年生の清水裕貴さん。七大戦は基本的にマイカーでの参戦となるので、整備にも気合が入る。
KARTでは勉強会を実施して知識を継承しています。皆ものづくりが好きなので吸収力も抜群
部車として目下制作中の三菱ミラージュ。春までには完成し、クルマを持っていない部員のための練習車となる予定だ。

高光主将によると、北大自動車部の特徴は計算ラリーの練習に力を入れていることだそう。

「ジムカーナとダートトライアルが活発なのは当然ですが、それは他大学でも同じようにやっています。普段から部で集まって計算ラリーの練習をしているのは珍しいでしょうね。チェックポイントを設ける必要があるから人員が必要で、ラリーコンピューターも持っていなくてはいけません。何よりもノウハウが引き継がれていることが重要です。昔から“ラリーの北大”と呼ばれていたように、われわれには伝統があるんです」

北大が主管を務めた2011年の七大戦では、ラリー部門でワンツーフィニッシュを飾って総合優勝を果たしています。七大戦というのは全国七大学総合体育大会の略で、旧帝大の七大学が合同で運営して毎年開かれるスポーツイベント。自動車部にとっても、最も大切な競技会です。

「ただ、競技に出ることだけが目的ではありません。普通にドライブすることだって、自動車の楽しみです。自分のクルマを持っていなくてはいけないんじゃないかとか勘違いされがちなのですが、僕自身は入部するときクルマどころか運転免許も持っていませんでした。お金がかかるというのも誤解です」

北大自動車部が部として所有しているのは機材運び用の軽トラだけで、競技には自前のクルマで参加します。でも、誰も高価なクルマには乗っていません。

「免許をとって、先輩から92年式のスターレットをもらいました。歴代のものがたまっているからパーツのストックは豊富で、壊れていても自分で直して乗れるのです。もちろん最初は自動車の仕組みもわかりませんが、先輩から教わっているうちに覚えるんですよ。いろいろ助けてもらって直してもスターレットはダメになってしまいましたが、次に手に入れたミラージュもタダ同然でした(笑)」

1994年生まれの高光さんにとってスターレットは自分より年上でしたが、96年のミラージュは2歳年下になります。ダートラやラリーに出場して目いっぱい走るには、安くて壊れないことが第一条件です。90年代のクルマが主力で、中でもミラージュが一番人気。自動車部で乗る人が一番多く、5台あるそうです。加えて部品取り車が3台あり、壊れてもパーツには困りません。タイヤが14インチで安いのもうれしいところ。戦闘力ではシビックに劣りますが、優先すべきはコストパフォーマンスなのです。

雪の季節を迎えて、冬の間は修理に力を入れることになります。ガレージの中には5年放置してあったミラージュ​​があり、春になって雪がとける頃にはきっちり仕上がってくるはずです。

めざすは、優勝奪還!

前回大会での記念ショット。準優勝という成績に誇らしげ!と言いたいところですが、悔しさで胸がいっぱいなので笑顔が少なめです
部内のライセンス取得のために用いられるチェックシート。自動車を運用する部として、安全運転の徹底は欠かせない。
タイトなコックピット。エースドライバーとして車両を駆るのは、井澤さんです
シミュレーター代わりにゲームソフトの「グランツーリスモ」をプレイする2年生の一條龍之介さん。冬場に練習できないのは、北大自動車部の大きな悩みといえる。
後輩の真横について設計指導をする修士生の山路さん(手前)。トークスキルの高さもさることながら、とにかく熱の込もりようが段違い!
集合写真撮影のため、部員によって運ばれてくる高光さんの三菱ミラージュ。先日クラッチが壊れた(!)とのことだが、高光さんは「直せますよ」と涼しい顔。このたくましさは、さすが自動車部員である。
チーム一丸となって再び優勝をめざすKART。ここから将来の自動車業界を盛り上げるエンジニアが現れるかもしれません
2014年夏に開催された道学連シリーズのジムカーナ戦にて、競技車両とともに部員のみんなでパチリ。

北大自動車部には、ユニークなライセンス制度があります。独自に設定しているもので、AからDまで4種類に分かれます。

「競技に命をかける硬派な人も、ドライブを楽しむライトな人もいますが、基本的に部員は2年生の始まる頃にはみんな“Bライ”を取ることになっています。部内での審査があって、基準を満たせばランクが上がります」

一番下のDライセンスは、普通免許を取得すれば自動的にもらえます。Cライセンスになると、大学構内に限ってひとりで運転できる資格が与えられます。隣にBライセンスを持っている人を乗せれば、校外でも運転してかまいません。自動車教習所での仮免のようなものですね。ただ、このライセンスだと、部での活動でガソリン代の補助がありません。Bライセンスを取ることで、ようやく北大自動車部員として一人前と認められるわけです。

「Aライセンス保持者は、部員を審査してBライやCライを発行することができます。3台以上連なって隊列走行をするのに、全体の動きを把握して知らない土地でもスムーズに走れるようになると、Aライセンスの資格が得られます。教習所と同じで、大切なのは安全に運転する能力です」

広い敷地を生かし、キャンパス内で練習できるのが北大自動車部のアドバンテージ。練習用コースとまではいかないけれど、“裏ストレート”と呼ぶちょっとしたオーバル状の道があるそうです。そこでハンドリングの練習ができるということで、首都圏の大学から見ればうらやましい限りでしょう。ただ、冬の間はその利点も生かせません。

「越冬用に、冬装備が決められています。ワイパーを冬用の太いものに替え、スノーブラシとスコップを積んでおきます。スタックした時のために、タイヤの下にかませるスノーヘルパーとけん引ロープも欠かせません。1年生には、新品のスタッドレスタイヤを必ず買うように言います。夏にちゃんと履き替えれば、4年間もちますから」

北の大地ならではの苦労も多いようです。
ところで、ほかにも高光主将には心配事があるのだとか。

「環境社会工学科で資源のことを勉強していて、石油資源が枯渇しそうなのが不安なんですよ。バイオエタノールの質を高めて、日本でも環境にやさしいエコガソリンを作れるようになればいいんですが……」

自動車部員だからこそ、将来も安心してモータースポーツを楽しめるようにしたいという思いが強いのでしょう。同じ環境社会工学科の先輩である高橋和多利さんも、別の角度から自動車の未来を考えていました。

「都市計画を学んでいて、渋滞でガソリンが無駄になることがもったいなく思えます。クルマの流れをうまくコントロールすれば、ガソリン消費を減らせます。ドライブの楽しい街づくりができれば、環境問題にも貢献できるはずなんですが」

高橋さんは官庁への就職が内定していて、来年からは都市計画の立案にも関わっていくことになりそうです。

一方、就職にはまだ間がある高光さんは、最後に自身と自動車部のこれからの課題について話してくれました。

「北海道のモータースポーツ界を盛り上げたいんです。競技会でもオフィシャルが足りないことがよくあり、自動車部からも人を出しています。気軽にモータースポーツに参加できる環境を、自動車部が率先して作っていきたいんです!」

寒空の下でも、高光主将からは熱い思いが伝わってきました。

(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)

関連サイト 
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[ガズー編集部]

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