わたしの自動車史(前編) ― 桃田健史 ―

1962年東京生まれ。1985年に東海大学工学部動力機械工学科を卒業後、ドライバーとして全日本ツーリングカー選手権に参戦。その後は活動拠点をアメリカに移し、インディ500、NASCAR、パイクスピークなどさまざまなモータースポーツで活躍した。現在は米国テキサスに在住し、自動車専門誌やウェブ媒体にて活躍している。
日本におけるスーパーカーブームの主役を担ったランボルギーニ・カウンタックLP400。
著者が試乗したという初代BMW 3シリーズ。この時の経験が、よりクルマを深く理解することにつながったという。
ミドシップのスポーツカーでありながら、2+2のシートレイアウトを採用していたランボルギーニ・ウラッコ。生産台数はわずか780台という希少モデルである。
1970~1980年代に開催された富士グランチャンピオンレース。同時期の全日本F2000/F2選手権とともに、高原敬武や星野一義、中嶋 悟など数多くの名ドライバーを輩出した。

窮屈な毎日が、イヤだった。

私の母は東京芸大の声楽科出身。その影響で、私は幼少期からクラシック音楽の基礎教育を受けた。ピアノは長続きせず、小学校低学年からはバイオリンを猛練習した。さらに、学習塾、そろばん、書道、英会話、水泳など、習い事が一週間みっちり。そんな過密スケジュールの毎日だった。私の妹もピアノの英才教育を受け、のちに東京芸大の作曲科で学ぶことになる。

私は小学校5年の時、横浜市内の私立桐蔭学園に編入。新しい生活環境の中で、「もっと自分自身を変えたい」と思い始めた。でも、そのためにどうすればよいのか。答えはなかなか出てこなかった。昭和49年、中学1年になると「違う自分探しは必然だ」と強く意識するようになった。当時の私には「違う自分=不良」という安直な思いがあった。

「どうすれば、不良になれるか?」その答えが、クルマだった。
渋谷の東急文化会館(現ヒカリエ)、行きつけの三省堂書店で「不良のネタ探し」をしている時、一冊の雑誌に目がとまった。それが『カーグラフィック』(以下、カーグラ)だ。
「一般的に、高校生になればオートバイに興味が湧く。でも、中学生でクルマに興味があるのは、なんだか不良っぽい」。当時は本気でそう思った。そんなハチャメチャなキッカケで、『カーグラ』や『モーターファン』等の購読が始まった。ところがしばらくして、私の計画は大きな修正を余儀なくされることになる。

昭和49年、『週刊少年ジャンプ』の連載『サーキットの狼』(著者:池沢さとし、現池沢早人師)がスーパーカーブームを巻き起こした。ランボルギーニ・ミウラ、カウンタックLP400、フェラーリ365BB、マセラティ・ボーラなど、私にとっての「不良の対象」が、いきなり「子どもたちの正攻法の楽しみ」に昇格してしまったのだ。私の立場は一変し、中学校でスーパーカー博士的な立場でもてはやされるようになった。そうした基礎知識がのちに、『週刊ヤングジャンプ』の連載『カウンタック』(著者:梅澤春人)での技術監修や、同誌での連載企画『スーパーカー講座』執筆へと結びつくこととなる。

さて、70年代スーパーカーブームの中期、私にとって予想外のことが起こった。若い頃からクルマを運転していた母が“外車(ガイシャ)への興味”を持ち始めてしまい、私が買った『カーグラ』に掲載されている各メーカーの日本総代理店に連絡を取り、ショールームに行き、試乗を繰り返すようになった。当然、私も同行した。バルコムトレーディングで、登場したばかりのBMW 320i、ヤナセでメルセデス・ベンツ240D、西武自動車でシボレー・カマロ、シボレー・モンツァ、東邦モータースでフォードマスタングII。さらには、シーサイドモータースでランボルギーニ・ウラッコまで手を伸ばした。

試乗の対象は中古車にも及び、当時すでに「外車販売店通り」という雰囲気があった環八の世田谷区尾山台から千歳船橋あたりまでの各店舗を巡った。「BMW 2002ti」「ポンティアック・ファイアバード」等、とにかく片っ端から乗った。

こうして実車と触れ合うことで、クルマに対して頭デッカチだった私は、クルマをより深く理解するようになった。
すると今度は、こんなことを考えるようになった。「量産車だけでは一般的な話っぽくて、不良っぽくない。何か別の方向性を見つけ出さないといけない」。

再び、渋谷の三省堂書店でネタを物色。そこで目にとまったのが、『オートスポーツ』と『オートテクニック』だった。
『カーグラ』にもレースやラリーの記事はあったが、専門誌でレース情報の深読みを始めた。富士F1やGC(富士グランチャンピオンレース)にひとりで出掛けるようになった。
そして中学3年の後半からは、「レース、実際にやってみるか?」という発想となり、高校に入ってからカートを始めることになる。

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[ガズ―編集部]

MORIZO on the Road