映画とクルマ ~時代を映すボンドカー~

シリーズ第1作となった1962年の映画『007 ドクター・ノオ』を見ると、最近の007とのあまりの落差に頭がクラクラする。設定される敵は荒唐無稽だし、格闘シーンはあからさまな形式美だ。ダニエル・クレイグが6代目ボンドを襲名して以降は、シリアスなストーリー展開にリアルなアクションが定番である。気楽な娯楽映画だった初期の作品とは別物になった。

『007』シリーズの第1作、『ドクター・ノオ』に登場したサンビーム・アルパイン。ただし、後年の“ボンドカー”とは異なり、MI6メンバーのQによる特殊な改造は見受けられなかった。

それでもシリーズの一貫性が保たれているのは、この作品がわかりやすいアイコンにあふれているからだ。殺しのライセンスを持った腕利きのスパイは、名を聞かれると「Bond. James Bond.」と素直に本名を明かす。身元がバレる危険など気にしない。服装は常に完璧で、スーツ姿には細かなこだわりが見て取れる。バーではステアではなくシェイクで仕上げたマティーニを飲む。

印象的なテーマ曲に加え、007に欠かせないのが美女とスポーツカーだ。ボンドガールに選ばれることは、時代を代表する女優と認定されることを意味する。ウルスラ・アンドレスに始まり、キャロル・ブーケ、グレイス・ジョーンズ、ハル・ベリー、オリガ・キュリレンコと続く。確かにゴージャスなラインナップだ。2012年のロンドン・オリンピック開会式で使われた特別編では、エリザベス女王が史上最年長で最も高貴なボンドガールとなった。

最新作『スペクター』には2人のボンドガールが登場する。写真で、主人公ジェームズ・ボンドを演じるダニエル・クレイグの左にいるのがマデリン・スワン役のレア・セドゥ、右がルチア・スキアラ役のモニカ・ベルッチ。

ボンドカーもまた、時代を代表するクルマでなければならない。誰もが真っ先に思い浮かべるのはアストンマーティンDB5だろう。1964年の『ゴールドフィンガー』で初登場している。当時最先端の高性能スポーツカーで、MI6の秘密兵器開発を担うQによってさまざまな改造が加えられていた。防弾ガラスや可変ナンバープレートを装備するのはもちろん、マシンガンやオイル散布装置、タイヤのハブからせり出す回転刃などの攻撃装置も備える。危機が迫ると、ボタンひとつで助手席を車外に放り出す。

アストンマーティンDB5は、たびたびボンドカーとして起用されてきた。2012年の『スカイフォール』では、MI6から払い下げられたボンドのマイカーとして登場している。

DB5はその後何度もボンドカーに採用されている。2012年の『スカイフォール』ではMI6からボンドに払い下げられたプライベートカーとして登場していた。ナンバーは『ゴールドフィンガー』の時と同じBMT216Aである。ほかにもDBSやヴァンキッシュなどが使われているのでボンドカー=アストンマーティンというイメージが強いが、他メーカーのモデルも使われている。

強烈だったのは、『私を愛したスパイ』のロータス・エスプリだ。敵に追いかけられて海に突っ込むと、そのまま潜水艇になってしまった。なおもヘリコプターが攻撃を仕掛けてくると、水中からミサイルを発射して撃ち落とす。ある意味ボンドカーの究極の姿ともいうべき突き抜け方だった。

ロータス・エスプリは、1975年10月のパリサロンで発表されたロータスのミドシップスポーツカー。2004年まで生産、販売されるロングセラーとなった。

厳密な定義があるわけではないが、やはりQの手によって秘密兵器を仕込まれたモデルがボンドカーの名にふさわしい。第1作、第2作で乗っていたサンビームやベントレーは、ボンドが乗ったすてきなクルマ以上のものではないのだ。日本唯一のボンドカーとしてトヨタ2000GTの名が挙げられることがあるが、あれはタイガー田中のクルマだった。ボンドは運転すらしていないから、ボンドカーと呼ぶのはさすがに無理がある。身長188cmのショーン・コネリーを乗せるために屋根を切ってしまったという、本気の改造は評価されるべきではあるが。

2015年12月4日公開の最新作『スペクター』では、アストンマーティンDB10がボンドカーに使われる。後方から火炎放射する機能を持っているから、Qが改造を手がけているようだ。魅力的なスタイルだが、残念ながら購入することはできない。撮影用に8台、広報用に2台が製作されるのみのスペシャルモデルなのだ。ボンド気分を味わいたければDB5を買えばいい。程度のいいものでも、1億円も出せば手に入るようだ。1億円も出せば。

映画『スペクター』のためにアストンマーティンが10台のみ製作したというDB10。劇中ではジャガーC-X75とのカーチェイスが披露される。

(文=鈴木真人)

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[ガズ―編集部]

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