見捨てないで下さい…TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

モータースポーツシーズン、真っ盛りですね!
家にあるHDDの容量が日に日に少なくなっていく今日、この頃です(笑)。

今やCSでしか観られなくなったF1は勿論、WEC、WRC等の世界選手権、ドイツのDTM、国内レースのスーパーフォーミュラ、スーパーGT、これらは全戦、他にもWTCC、ニュルブルクリンク24時間レース等、一部放送のものも含めると、膨大な録画量になります。

我ながら、何故、ここまでモータースポーツが好きなのか呆れるばかりですが、とにかくクルマが競って走っているのを観る事で、この上ない幸せを感じるのです。

そして、TV観戦の後は、必ず、自分で運転もしたくなります。

クルマは凶器にも棺にもなると、いつも唱えてから運転している私は、モータースポーツを観た後だからと言って、公道では危険なスピードを出す事はありませんが、やはり運転の楽しさを実感する瞬間です。

特にMTでの運転は格別です。クルマとの一体感、シフトフィール、シビアな状況の時にスムーズに操作出来た時の達成感。全てATやCVTでは絶対に味わえません。

ちなみに、私が、その快楽を味わっているクルマは、残念ながら?輸入車です。

何故、輸入車か。

私は、ステータスシンボルとしてのクルマには興味はありません。
ひたすら運転にのみ快楽を覚えます。

ワックスがけも、しません。

さすがに汚いクルマは嫌なので、時々洗車はしますが、ガソリンスタンドで洗車機に入れてしまう事もあります。

では、何故輸入車か。
答えは単純です。

現在、ある程度の動力性能(大きめのサーキットのホームストレートでは200Km/hを超える位の)を備えたMT車が日本には存在しないからです。

現在、日本メーカーの新車で買える所謂「スポーツカー」と言われるMT車は、軽自動車のHONDA S660、TOYOTAの86(SUBARU、BRZ)とMAZDAのロードスター、そしてNISSANのフェアレディZ、位ではないでしょうか?(メーカーチューンドカー等は除く)

転じてヨーロッパでは、ここで列挙したら、紙面が尽きてしまう程、色々なMTスポーツ車が目白押しです。

FIATアバルトの様な小さなクルマから、ポルシェは勿論、パガーニの様な手作りスーパーカーに至るまで、正に百花繚乱です。

つくづく、ヨーロッパの人は運転が好きなのだな、と感心します。

日本には現在、乗用車を作っているメーカーはMITSUOKAを含めて9つ、という事になっています。

9つです。これは世界一、と言って良いでしょう。

それにも拘らず、と言わせて下さい。

何故、運転マニアの私が「運転したい」、と思う、「速い」MTのクルマが皆無なのでしょうか。

SUZUKIやDAIHATSUの様な軽自動車中心のメーカー同士も含めて、何だか同じ様なクルマしかラインアップされていないのは何故でしょうか?

同じ様なクルマ同士の争いになるからこそ、数字上の燃費や「値引き」等の勝負にならざるを得なくなり、お互いの体力を奪い合っている様に私には見えます。

同じくクルマが基幹産業であるドイツの場合、所謂御三家と言われるメルセデスベンツ、BMW、Audiは同じカテゴリーのクルマで競ってはいますが、ハッキリ、その性格はメーカーによって分かれます。

更にポルシェは、様々な派生車は有るものの、高級スポーツカー専門メーカー。OPELは大衆車と言って良いかもしれません。VWは、今や大衆車から、一歩抜け出して、中間的なポジションに位置付けられています。それにBMWのクルマを更に高級超高速車に仕立てる「メーカー」のALPINAと、完全に、独自性が発揮されています。

そして、やはり観光と並んでクルマが基幹産業と言える、イタリアで言えば、FIATは大衆車。そして御存知フェラーリ、ランボルギーニはスーパースポーツカー。マセラティ、ランチア、アルファロメオ、はニッチと、やはり、価格帯もユーザーの嗜好も別れるブランドが見事に共存しています。(実質、殆どはFIAT傘下ですが)

GNPやGDPで比較すれば、日本はドイツやイタリアより上です。

好感度を無視して言えば(笑)何故、今、日本には大衆車メーカーしか存在せず、ましてや運転マニアに応える様なクルマを作るメーカーが無いのでしょうか。

ちなみに、今や殆どの日本メーカーも海外市場がメインと言っても差支えないでしょう。

このまま全日本メーカーが同じ様な大衆車しか作らないままでいれば、同じ土俵にいるアジアのメーカーと差別化が出来ず、埋もれていってしまうと私は危惧しています。

「ハイブリッド等、日本の技術は世界一」と思っている方は多いと思いますが、特に電気部分のハードや制御については、様々な部品を世界の様々なメーカーが作っている現状では、近い内に追いつかれてしまう可能性があります。

しかし、クルマが醸し出す雰囲気や方向性、嗜好に応える姿勢等は、一朝一夕に真似出来るものではありません。

今後は、そういった部分に訴求出来るメーカーか、完全な大衆車メーカーか、の二極化していくと思われ、どっち付かずのメーカーは淘汰されていくのではないでしょうか。

最近、「クルマは将来、自動運転になるから、趣味的な側面は無くなっていくだろう」とか「その内、所有するものではなくなる」等といった論調が聞こえてきます。

日本では確かに、そうなっていくかもしれませんが、ヨーロッパに行くと、そんな空気は殆ど感じません。

ヨーロッパのメーカーも勿論、自動運転等の研究は、進めていますが、あくまでそれは「安全」に対するアプローチであり、運転する楽しみを放棄するものではない。と殆どのメーカーが明言しています。

まだまだ極東の小さな国以外では、運転の楽しみに対する欲求は減っていない様です。

そう考えると、グローバルで闘っていく日本のメーカーも、極、少数とはいえ、日本にいる運転マニアを見捨てるのは、まだ早いのではないでしょうか。

今の日本メーカーのラインアップを見ると、「運転が好きで速いクルマをMTで楽しみたい、等と言っている時代遅れの方は、どうぞ輸入車をご購入下さい」と言われている様な気持ちにすらなります。

でも想い出して下さい。SUPRA、GT-R、NSX、RX-7、GTO…(全てにMTの設定、有り。NSXを除いては当時概ね500万円以下)1990年前後の何とも魅力的な「日本メーカー」のスポーツカーの顔ぶれです。

唯、私は懐古主義者ではありません。

それらに類するクルマが海外メーカーでは、燃費が当時の2倍から3倍になって、残っているのに、日本メーカー「だけ」から無くなったのが寂しい、という事を申し上げたいのです。

言うまでも有りませんが、今のレクサスRC-FやGT-Rは、当時のそれらとは価格帯も性格も全く違う物になってしまっていますし、MTの設定も有りません。

スポーツカーではないものの日本では数少ないスポーツカースペックのセダン、レクサスGS-Fの開発責任者の矢口さんは、こうおっしゃっています「BMWのM3は確かに良いクルマですが、乗り手を選ぶ。GS-Fは初心者でも楽しめる、間口の広いクルマです」

前提として、GS-FはATのみ、そしてM3はツインクラッチのセミATとMTが設定されています。

「間口が広い」それはそれで素晴らしいコンセプトですが、スキルはともかく3つのペダルを駆使してクルマと格闘しながら運転を楽しむ人間は、相手にされていない様な寂しさを感じました。

レクサスのFモデルの一つだけでもMTモデルが有れば、GS-Fはそれでも良いと思いますが、とにかく選択肢が無いのです。

日本メーカーの皆さん、どうか、私の様な人間を見捨てないで下さい。

自分で言うのもおこがましいですが、私の様な人間を見捨てない事が、将来、ブランド力に於いても、ヨーロッパのメーカーと完全に対峙出来る道に繋がると信じています。

HDDに溜まったモータースポーツを観ながら、夜な夜な、そんな事を考えている最近の安東弘樹でございます…。

[ガズ―編集部]