止まらなかった“止まるクルマ”…TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

先日、こんなニュースが目に留まりました。

運転支援機能付きの某日本メーカーの新型車を試乗中、そのクルマが別のクルマに追突してしまった、というものでした。

詳しい状況としては、試乗に同乗していた営業スタッフが、運転していた男性に、ブレーキを踏むのを我慢する様に指示し、その結果、そのクルマは自動では止まらず、前のクルマにぶつかり、追突されたクルマに乗っていた二人の方に怪我をさせてしまった、という事です。

そして、その営業スタッフと店長、更に“指示されて”追突させてしまった男性まで「書類送検」されたのです。

運転していた男性も書類送検されるのは不条理の様な気がしますが、それが「クルマを運転するという責任」なのだと痛感しました。

以前もアメリカで、あるクルマが自動運転中、クルマが止まらず、トレーラーと追突して“ドライバー”が亡くなるという事故がありましたが、やはり日本でも死亡事故にはならないまでも、何回か同様の事故が伝えられる様になりました。

ただ、今回の報道で気になるのは「そのクルマには運転支援機能がついているが、自動ブレーキは付いていない事を営業スタッフが理解していなかった」という表現です。

事故を起こしたクルマの映像が出ていて車種は分かるので、メーカーのサイトを見てみると、そのクルマの支援機能は高速道路や自動車専用道路に於いて「ドライバーに代わってアクセル、ブレーキ、ステアリングを自動で制御。高速道路の運転で感じていたあのイライラやストレスが大幅に減る」と伝えています。渋滞していても前方のクルマに付いて行って前のクルマが止まったら、止まります。と言いながら、別の所に「これは自動運転ではありません。安全運転を行う責任は運転者に有ります」という小さな文字で注釈が付いており、実に紛らわしい表現が羅列してありました。

しかもメーカーそのもののCMでは盛んに「自動運転」をアピールしており、しかも以前観た、このクルマの宣伝動画には、ドライバーが同乗者と楽しそうに会話をしたり、隣に座っている彼女?から飲み物を受け取ったり、ドライバーが、完全によそ見をしている様な映像ばかりが映っていました。

今回、本当に営業スタッフの認識不足だとしたら、メーカーが、ディーラーに、完全な指導をしていなかった事になり、それこそメーカーの怠慢です(当該スタッフが、よほど説明を聞いていなかった可能性もゼロではありませんが)。

もし、この試乗が高速道路で行われていたら、追突した側もされた側も軽傷では済まされなかったのは容易に想像できます。(メーカーサイトには高速道路や自動車専用道路でのみ支援機能を使用する様に表記されているので、正常に機能した可能性は高いが、これも絶対とは言えない)

勿論、技術が進歩する過程には何事も完全に機能しない時期も有る事は分かりますが、何度も言う様に、クルマは命を乗せています。

「あ、今回も失敗か~」では済まされないのです。

ですから、メーカーも機能を搭載するのは良いとしても「この機能は発展途上です。場合によっては、あなたの命を奪います」位の注釈を、読めるか読めないか分からない様な小さな文字ではなく、欧米で売られている煙草の「この煙草は癌や心臓疾患を引き起こし、あなたの寿命を縮めます」というパッケージ半分位の大きさで書かれた注意書き程に、目立つ様にアピールすべきだと私は思います。

現状は、「こんな便利な機能が付いています!」と大きく宣伝し。小さく「でも責任はあなたで自動運転ではありません」。

あえて言います。

これでは、まるで詐欺だと。

クルマを売るプロから指示されてブレーキを踏まなかったとしても、追突すれば、その時運転席に座っていれば、責任はドライバーなのです。だったら私は自分で全てを制御して運転します。

いざという時に、車線をキープしブレーキを掛けてくれるのは勿論有り難いですが、あくまで、ドライバーは自動で止まる機能など付いていないと思って運転しなければならないと思っています。

メーカーは、客から「だったら機能が付いている意味が無いじゃないか」と言われるのが嫌で、小さく注釈を表記しているのでしょうが、ユーザーの命を預かるクルマを造って売っている、という責任を、しっかり認識して頂いて、はっきり「現段階では機能が無いと思って運転するよう」に確実に伝えるべきです。

しつこい様ですが、今は、どのメーカーも「車線を認識して、あなたの代わりにハンドル、アクセル、ブレーキを操作します。車線変更もウィンカーを点ければ自動でやります!でも、ぼんやり運転はやめて下さい!」と言っている訳です。

もはやコントです。

ただ、ユーザーにも問題は有ると思います。

運転の責任を認識せず、少しでも楽をしようというニーズが有るからこそ、メーカーも、それに応えて売る為に、多少のフライングと知って、次々に、不完全な物をアピールして世に出しているという状況なのではないでしょうか?

もし、完全に自動化されれば、高齢者や障害のある方にとって利便性は飛躍的に高くなるでしょうが、現段階ではむしろ危険です。

メーカーには、その装置が完全に機能する確信を得るまでは、どうか試験場で思う存分、実験して頂いて、まだ今はお互いに、自重して安易に搭載しないで頂きたい、と思います。

個人的にも、もしドライバーが操作を任せたクルマにぶつけられて大きな怪我などをしたら、その怒りは、どこにぶつけて、また責任は誰に問えば良いか分かりません。

法律上は、最初に紹介した事故のニュースから分かるように、運転者の責任となりますが、気持ち的には責められません…。

相手を傷つけてしまったドライバーも納得いかないまま、刑事責任まで問われるのです。

凶器にも棺桶にもなるクルマを機械に運転させて人生が終わるのは、まっぴら御免です。

私は変速すら手動で行うのが好きなので、身体と脳が働かなくなるまでは、機械に任せず、自分でコントロールする快感を味わいたいと思います。

皆さん、そんなに運転が嫌いですか?!

自分や大切な人の命を自分で守る方が機械に守って貰うよりも、安心ではないですか?

その為に私は身体も脳も心肺機能も目も健康を保てるように頑張ろうと思います。

ただ、誤解しないで頂きたいのは、将来的に自動運転になっていくのを止めたい訳では有りません。

中途半端な状態の機能が付いたクルマが、公道を、どんどん走り出すのは危険だと言いたいのです。

残念ながら、これまで私が体験した“自動運転”は、あまりに心もとなく実験の粋を出ていなかったのですが、クルマに、あまり詳しくない人が「最近のクルマは自動で止まるし、もうハンドルを持たなくて良いんでしょう?(大物歌手が手を離して運転しているCMの影響が大きい)」等と言っているのを聞くと、本当に、今は技術革新の過渡期の危険な状況なのだな、と痛感します。

メーカーやインポーター、そのクルマを売る販売会社の責任は、これまで以上に重くなるでしょう。

それを、どれ位認識しているか、今回の事故の状況を見ると、今の所全ての販売会社やスタッフに、その意識が根付いているとは思えません。

クルマの機能が、どんどん複雑化、高度化していくので、それに付いて行くのは大変だとは思いますが、ぜひ、メーカーや販売会社の皆さん、誇りを持って、仕事に当たって頂きたいと思います。

先日、Car of the year の総会というものが開かれまして、それに出席し選考委員としてデビューを果たしました。そこでインポーターやメーカーの広報の方と楽しく、そして貴重な話をさせて頂いたのですが、流石に皆さん、それぞれ自社のクルマに対しての情熱や知識を、しっかりお持ちでした。

その情熱と知識を、それぞれのブランドの販売店の一人一人のスタッフにまで行き渡らせられるように真剣に考えなければ、そのブランドは生き残れないかもしれません。

そのブランドのクルマの自動運転装置そのものや、販売店スタッフの知識不足が原因で人の命を奪う様な事故が起こった場合、法律上は、ともかく、そのクルマの信用やイメージは致命的に落ちる事になります。

今後暫く、クルマを取り巻く環境の変化から目が離せません…。

読み返してみると色々な方面から、反感を買いそうですが、今の偽らざる私の気持ちです。

[ガズ―編集部]