あの日から7年、ささやかな楽しみから学んだ事 …TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

実は私、動画投稿サイトで、“車中泊”の達人の皆さんの動画を観るのが最近の楽しみになっています。本当は、延々と観ていたいのですが、とにかく、ここ最近はテレビやラジオの改編期と自分自身の退社の準備、というか、退社前需要?とでも言うのか、仕事も増えている関係で有難い事に多忙を極め、更に自宅でもアナウンサーのマネジメント業務は退社日直前まで有るので、時間に余裕が無く、一日3本まで…と決めて、ささやかな楽しみにしています。

有名人が旅人になって、豪華な宿で、豪華な食事をして、豪華な部屋で眠る。そんなテレビ番組に飽きているのか、狭い車内で、それぞれが工夫を凝らした道具を使って食事を作り、やはり工夫を凝らした道具で寝床を作り、映画等を観て楽しんでから眠る…。その模様を投稿しているだけ、なのですが、何故か得も言われぬ安堵感に包まれる、というか、観ていてリラックス出来るのです。

投稿している方々も、観ている方(ほう)も、恐らく、キャンピングカーで宿泊しているのでは「意味が無い」と感じており、狭くて不便だからこその“カタルシス”といいますか、如何に不便な空間を快適に過ごせる様に工夫するか、を楽しむという思想でしょう(笑)。かなりの確率で欧米の方には理解出来ないと思われます(笑)。

そう、島国に住む日本人はスケールが小さくて良いんです!と、開き直りたくなる様な楽しみ方です。

唯、今日、ある投稿動画を拝見して、少し考え方が変わりました。正に今日、3月11日に投稿された動画でした。

あれから、ちょうど7年…。その動画を投稿されている方のクルマのナンバーは隠されていないのですが、岩手ナンバー。

そしてナレーションで、3.11についての思いを語られていました。具体的な事は話されていませんが、「毎年、この日は色々と考えてしまう。死んだ後でさえ3.11については、考え続けてしまうだろう」という内容でした。どのような体験をされたのかは分かりませんが、とても重い言葉です。その瞬間、私の中で、車中泊動画の見方が変わっていくのを感じました。

皆さんも震災後、暫く、避難所でクルマに寝泊まりをする方が多いのを報道等で知ったのではないでしょうか?プライベート空間が確保出来ない避難所よりも、ご自分のクルマの中で宿泊をする方が多いので、エコノミークラス症候群になり、命の危険に晒される場合も有る、という報道を記憶されている方もいらっしゃると思います。

車中泊動画を拝見すると、驚くほどの知恵と工夫で、快適に睡眠をとっている方が沢山、いらっしゃいます。これまでは「凄いな~」、でも、自分は「宿泊はホテル、旅館が良いな~」等と呟きながら観ていたのですが、今日、これは真剣に観て、参考にするべきかもしれないと本気で思いました。

人間は自分が災害などに実際に合うまでは、どこか他人事として考え、将来は自分に降りかかる可能性が有る、とは実感出来ないところがあります。

私も頭では、いつか地元も災害に見舞われるとは考えているのですが、恥ずかしい話、災害キットをまだ常備していませんし、家族でいざという時の避難場所も何となく地区で決められた場所に集まろうとは決めていますが、万が一、その場所が使えなかったら、何処に集まる、連絡方法はどうする等、決めていない事は沢山あります。ですから、クルマに寝泊まりする可能性も全く考えていませんでした。

しかし、東日本大震災の時クルマで寝ていた方と同じ考えで、クルマでの宿泊という選択をせざるを得ない可能性は十分にあるのです。そう考えたら、車中泊動画は貴重な手引書になるかもしれません。

実際に、車内で調理する場合の注意点、例えば換気の仕方、また一酸化炭素中毒を防ぐためのセンサーを使用する事等、どれも、それぞれの投稿者が使って役に立っている場面や状況もリアルに紹介しているので説得力が有ります。また、車内で調理しやすく、保存も出来て栄養価が高く、且つ美味しい食材や惣菜、レトルト食品などを紹介しているものも多く、本当に参考になります。

車内で快適に眠る為の道具や工夫、例えば、外から車内を見えなくするための方法や、寒い日の防寒対策、逆に暑い日の車内温度の下げ方など、オールシーズンに対応している素晴らしい指南書と言って良いでしょう。

家を失ったり住めなくなる災害は、明日、起こるかもしれません。そんな時、クルマは、勿論、短期間であって欲しいですが、命を守る大切な住空間になる可能性はあります。今後は楽しみながらも真剣に観ようと思った、3月11日でした。

もう7年か、まだ7年か、それぞれ皆さん一人ひとり、感覚は違うと思います。でも、自然災害からは何処に住んでいても逃れられない、この国に居るからには、何年経っても、常に、その可能性を意識して、これまでの災害を通して、多くの犠牲の上で得られた教訓を生かしていかなければならないはずです。

「クルマは棺桶にも凶器にもなる」そう呟いてから私はクルマを運転する、という事は、これまで何度もお伝えしてきましたが、「クルマは命を守る“家”に、せざるを得なくなる場合も有る」そう考えるとクルマに対しての愛情も増えていくかもしれません。

唯、普段は家に居るような姿勢や気持ちで運転するべきではなく、楽しみながらも緊張感をもった運転は必須条件です。走行中は、運転席はリビングではなく、命を運ぶ仕事場です。

そこは強く訴えさせて下さい。

話が少し逸れましたが、実は私、27年前に車中泊を経験していた事を先程、思い出しました。考えてみると私の大学卒業旅行は、大学時代のアルバイト先、日産ディーラーで買ったばかりのSUV(当時は四駆・ヨンクと呼んでいました)に乗って一週間、クルマに泊まりながら、本州を半周する(一周は日数が足りなくて断念)、というものでした。

自分で学費を払っていた…、クルマのローンも始まっている…。当然、海外旅行など行くお金はない。唯、クルマが好き。車中泊旅は当然の選択です。

基本、一般道を通って岐阜県の白川郷を中心に様々な所を廻ったのですが、安全に車中泊する為に、夜だけ短距離、高速道路を使いパーキングエリアやサービスエリアにクルマを停めて、そこで車内で寝たのでした。

最近、動画投稿されている方の様に、料理こそしませんでしたが、色々と工夫して寝たのだと思います。卒業旅行でしたので、3月…、まだ寒い時期ですから、細かい事は覚えていませんが、それなりの準備をして車中泊をした記憶はあります。そして皆さんと同じ様に、自分の愛するクルマで眠る事が幸せだったのも思い出しました。

今は何より運転が楽しいので、クルマに泊まるという志向は有りませんが、クルマに対する想い、という意味では初心を思い出させてもらっているのかもしれません。そして、正に先程探してきた、その旅行の時に使い捨てカメラで撮った写真を入れていたアルバムに書かれていた日付を見て驚きました。

1991年3月11日~16日…。何か不思議なものを感じます。改めて、万感を胸に、祈りたいと思います。

そして、何年経っても忘れない。これが我々に出来る最も大切な事ではないでしょうか。その事も、車中泊動画を通して改めて認識させて頂きました。今後も、ささやかな楽しみを続けていきたいと思います。動画を投稿されている皆様、宜しくお願いします!

安東 弘樹

[ガズ―編集部]