トヨタ・ハイラックスはなぜ世界で愛されるのか? ラリードライバーがチリで試乗

コンパクトなボンネット・トラックとして1968年3月に誕生したハイラックスは、1984年にステーションワゴン化したSUV、ハイラックスサーフが新たにラインナップされたことで、若者やファミリー層が乗るようになり、バブル期のなかで日本のSUVブームを牽引した。そして2004年からトヨタIMV(イノベーティブ・インターナショナル・マルチパーパス・ビークルの略)プロジェクトとしてハイラックスは海外で生産、販売される新興国向け世界戦略車となる。現在タイ、南アフリカそしてアルゼンチンの工場を中心に生産され、今まで世界180以上の国、地域で販売され累計1,600万台と世界中の人々の信頼を得ている。昨年11年ぶりにフルモデルチェンジをし、ますます注目されるハイラックスはどういったクルマなのか。世界一過酷なラリーとして名高いダカールラリーのオート部門に日本人ドライバーとして唯一参戦するチームランドクルーザー トヨタオートボデーの三浦昂(あきら)選手にチリで試乗していただいた。

今回はダブルキャブのハイラックスを試乗

トラックをSUVに格上げした新型ハイラックス

三浦昂選手はトヨタ車体の社員で2007年にダカールラリーにナビゲーターとして初参戦し、市販車部門優勝。以降もナビゲーターとして参戦し、2度の部門優勝をし、今年1月に開催されたダカールラリーではドライバーとして参戦。見事完走を果たし、チームメイトの部門優勝をサポートした。ラリーではランドクルーザーに乗っているが、ハイラックスをどう感じたのか。まずはスタイリングについて聞いてみた。

チームランドクルーザー トヨタオートボデーの三浦昂選手

三浦/ダカールラリーでは、この新型も今年からオフィシャルカーとして採用されているので、その存在自体は知っていました。ピックアップには珍しい流線型のデザインもすごくカッコいいと感じました。特に乗らせていただいたクルマはメタリックの入ったレッドでしたが、南米の日差しが入ると少しキャンディカラーのように光って、その立体感がとても魅力的に演出されていました!僕は性能だけでなくカッコいいということもクルマに大事な要素だと思うので、この点が一番このハイラックスを乗りたい!って思った根本にあるかもしれないくらいです!ボディデザインにマッチした切れ長のヘッドランプが、他にない個性を発揮するフロントフェイスを演出していてとても素敵です。それでいて、アプローチアングルなど性能面とも両立させている点を考えると、相当なエンジニアの方々の苦労が開発の中にあったんだと思います。

切れ長のヘッドランプが独創的で砂丘に映えるスタイリングがかっこいいハイラックス

ダカールラリーのオフィシャルカーのなかでも、撮影班が乗るクルマは選手たちが走る競技ルートを走ることも多い。それだけに信頼性、耐久性、悪路走破性の高さが求められるが、ハイラックスはオフィシャルスタッフのなかでも走りのよさに加え、デザインも人気がある。

ボリュームがあり、押し出し感の強いフロントマスク

三浦/もともとピックアップというスタイルは好きで、カッコいいと思っていました。趣味の一つでもあるMTBを荷台に積んで週末には近くの里山に出かけるといった生活にピックアップがあったらいいなという憧れのような存在でした。その反面、いわゆるトラックのような乗り味になってしまうのだろうなという予想もあり、その部分はカッコよさを取るのか、乗り心地を取るのか?割り切るしかないものと思っていたのですが、今回実際に乗ってみて想像以上に乗用車感覚で運転できることに驚いたというのが第一印象です。

静粛性の高さが驚きのオンロード

では具体的に走りについてステージごとに聞いてみよう。まずはオンロード。

三浦/今回乗ったモデルは、ディーゼルエンジンのマニュアルミッションモデルでしたが、低速からトルクがあり、加減速の多い街中でもかなり乗りやすいと感じました。

高速道路も高いアイポイントと6速MTのおかげで速度をあまり感じず、気持ちよく走れる

ハイラックスは、仕向け地によってディーゼルターボエンジンやガソリンエンジンを数種類ラインナップしているが、今回は1GDエンジン搭載モデルに乗っていただいた。2,755cc直列4気筒ディーゼルターボで最高出力130kW/3,400rpm、最大トルク450N・m/1,600rpmで特に低回転で最大トルクが得られる新世代エンジンが扱いやすい。

エンジンルームはスペースが広く、整備性がよい

三浦/今回、高速道路も約1,600km走りましたが、長距離の移動を全く苦にすることなく楽しく乗れました。専門的な評価は難しいですが、路面をしっかりとらえ、ふらつくことなく安定して走ってくれるようにするための技術者の思いが詰まっていることをしっかり体感できました。乗用車感覚で使えて、荷物はトラックみたいに運べるといったおいしいところ取りのクルマです。

モノコックではなく、ランドクルーザーと同様に、ラダーフレームにボディが載っている形状で、前モデルよりフレームサイドレールの断面を拡大することにより、頑丈さとともに路面からの振動をうまく吸収し、乗り心地も格段によくなっている。またマニュアルトランスミッションは6速なので、高速道路でも回転数を抑えエンジントルクがうまくマッチして走りやすい。そして燃費向上にもつながる。

シートも適度な硬さとホールド感があり、長距離走行も疲れない

三浦/高速道路中心でしたが、燃費も約13km/LとSUVとしてはとてもいい数値だと思います。日本で普段運転するクルマのサイズに比べると一回り大きいのは事実だと思いますが、運転していてその大きさを過度に感じさせない点に驚きました。見切りがいいので、街中の少し狭い路地に入ってもさほど運転のしにくさは感じませんでした。

悪路走破性の高さが走りを楽しくする

次に三浦昂選手にとって最も得意なオフロードでの走りはどうか。

三浦/低ミューのダート路面でも、グリップ感を感じ取りやすく安心して乗ることができました。ラリー車のように速くは走れないかと思ったら、高速域でも安心してドライビングできることに驚きました。細かいギャップもサスペンションがしっかり衝撃を吸収してくれるので姿勢変化することなくドライビングに集中できます。また砂丘に入るとサスペンションがしっかり伸びてトラクションを得られたので、走っているうちにどんどん楽しくなってきて、ノーマル車であることを忘れ、もっとアグレッシブなラインで砂丘を走りたいという衝動に駆られました。ワクドキを体感させてくれるクルマに進化したということを証明してくれたんだと感じています。リヤのサスペンションはリーフスプリングですから、オフロードでのスポーツ走行にどこまで応えてくれるか、とても興味がありましたが、乗る前のネガティブな印象が、走りのよさで一気に変わったことが一番の衝撃でした。

新開発の1GDエンジンは、抵抗の大きい砂丘でもいかんなくパワーを発揮
ゴツゴツした岩石路もサスペンションが路面の凹凸を吸収し、トラクションを失うことなく駆け上がれる
柔らかい砂上も低速トルクのおかげでゆっくり走破できるのがありがたい
轍の凹凸も気にすることなく走れる

リーフスプリングやショックアブソーバーを改良し、フレームとともに衝撃吸収性と振動減衰性を高めているので、オフロードでもより高い走破力としなやかな乗り心地を実現している。また前後それぞれ一輪が浮いてもスタックすることなく悪路を走破できるA-TRCは、誰でもが悪路を走破できる心強い味方になってくれるし、オプション装備のリヤデフロックも万一スタックした際に脱出のサポートをしてくれる。オフロードでのイージードライブを実現してくれるのが、このハイラックスだ。

轍にタイヤを取られることも少なく、安定して走れるのがいい
フラットダートはパワーを活かして豪快に加速できる
小さな砂利の路面もフラットダートのように気軽に走れる

オフロードのスポーツカー=ハイラックス

TOYOTA86がオンロードのスポーツカーとして広い世代にヒットしているように、ハイラックスはいわばオフロードのスポーツカーのような走りを楽しめるクルマだ。それでいてオンロードも乗り心地がいい。オンもオフも走ってみた三浦昂選手の感想は?

SUVの上質な乗り心地でオフロードも思いのままに走れて楽しいという三浦昂選手

三浦/内装も、はたらくクルマの少し殺風景なイメージは全くなく、インパネのセンターに配置された大きなモニターは高級感すら感じさせてくれました。それと僕はチームの海外遠征などで、レンタカーを運転することもよくあるので、トヨタ車以外のクルマを運転する機会も多いですが、ふと車内のドリンクを手にするときやA/Cのボタンを触るとき、その動作がとても自然にできるのがハイラックスのいいところです。「自分で所有して生活をともにしてみたいクルマ」という感じでしょうか?カッコよく生活や趣味を演出してくれる素敵な相棒になれるクルマだと思います!特にアウトドアが好きな人は、きっと虜になると思います。

グラマラスなスタイリングが砂丘の曲線に似合う
大自然に出かけたくなる最高の相棒、ハイラックス

オフロードを知り尽くしたダカールドライバーが、走りはもちろんパッケージとしてお気に入りの1台となったハイラックス。はたらくクルマのイメージを払拭し、オフロードはもちろんオンロードも快適に走るピックアップスポーツカーとして世界中で人気が出ることは間違いない。

(写真・テキスト:寺田 昌弘)

[ガズー編集部]