痛車づくりに本気を見せるクルマ屋を所沢に発見!

自分の好きなアニメやゲームキャラクターで愛車を飾る、痛車。その多くは、ステッカーを自作して愛車に貼り込んで作成するが、よりクオリティの高い痛車を作りたいと考える人もいる。そんな人たちが集まるお店が埼玉県所沢市にあると聞き、取材に駆けつけた。

痛車はカスタマイズだから、クルマ屋が本気を見せるべき

取材に応じてくれたのは、所沢市にある「じおくりえいと」の店長 岡野裕明さんとの園田哲也さん。「じおくりえいと」は痛車の作成からドレスアップ、チューニング、整備、販売まで、痛車をトータルプロデュースしてくれるお店だ。

アニメやゲームのポスターが所狭しと飾られる店内

元々、自動車整備やカスタマイズ、チューニングを本業とする会社の新店舗として、「じおくりえいと」は生まれた。痛車に特化したお店にしたのは、店長を任された岡野氏自身がアニメ好きというところも大きいが、痛車業界へのある想いがあったからだという。

「じおくりえいとを開店した5年ほど前は、痛車がクルマのカスタマイズとして認知され始めた頃です。カーラッピングの需要が増え、他業種ノウハウを生かして印刷屋さんや看板屋さんが痛車制作を手がけていました。カスタマイズなのに、クルマ屋がやっていなかったんです。だから私は、クルマ屋が本気でやる痛車を、そんな愛車づくりができるお店を作りたいと考えました」(岡野氏)

「じおくりえいと」が作る痛車の違いを聞いたところ、答えは明快であった。

「クルマは不動産に次ぐ高額資産です。ステッカーを貼り付けて終わり、ではなく、その状態で何年も持たせなければなりませんし、はがした後のことも考えなければなりません。ラッピングされたときの瞬間的な満足だけではなく、愛車と過ごす時間を最後まで幸せなものにするためには、クルマのことを知っている業者でなければできないことがたくさんあります」(岡野氏)

わかりやすい一例として挙げられたのが、車検だ。クルマの知識のないオーナーが自分でステッカーを製作して貼って制作した痛車では、車検の際の問題が予見できず、泣く泣くステッカーを剥がす事態も起こり得るという。

「当店では、車検はもちろん故障時のメンテナンスにも配慮した施工を行いますし、貼り付けられたステッカーを傷めないようにメンテナンスや車検整備もできます。また、万一の事故の際にも、施工時の痛車の状態に修復することさえ可能です」(岡野氏)

痛車として原状回復までできるのは、さすがクルマ屋というべきポイントだ。

クルマへの愛もキャラクターへの愛も、著作権へのリスペクトも忘れない

クルマ屋が本気で取り組んでいるということの他にも、「じおくりえいと」が作る痛車には大きなポイントがある。それは、取り扱いキャラクターすべての著作権処理を行なっており、公認の痛車を制作できるという点だ。これは岡野氏のビジネスに対する真摯な姿勢の表れだった。

「自分の好きなキャラクターを自分でステッカープリントして貼り付けるDIYは、クルマに限らずPCやケータイでもよく見るカスタマイズですし、個人利用の範囲としてあっていいのではないかと思います。でも、私たちは代金をいただいて痛車を制作するのですから、胸を張れるビジネスにしたいと考えました。そうすると、著作権処理は避けて通れません」(岡野氏)

「じおくりえいと」で施工する痛車はすべて、著作権処理済み。痛車ビジネスへの真摯な姿勢が見える

しかし、キャラクター使用の権利処理はそう簡単ではない。同じ作品でも原作小説、アニメ、ゲームとそれぞれに権利者が違うことが多く、商品ごとに商品化権が設定されていたりする。業界に詳しい人でなければ、問い合わせ先さえわからない世界だ。そこで力を発揮しているのが、渉外を担当する園田氏である。

「前職ではフィギュア制作に携わっていたので、権利処理については知っていましたし、問い合わせ先についてもわかっていました。商品化提案の仕方や、完成後の手続きなども把握していたので、権利者側の負担も少ないのではないかと思います」(園田氏)

正直に言って、これはもうクルマ屋が持つべきノウハウの範囲を超えていると思う。しかし岡野氏は、「クルマ屋はサービス業であり、お客さんの望むカーライフを実現することをビジネスとしている以上、これは必要な業務」と言う。実際、こうした正しい権利処理が行われているので、胸を張ってショーに展示し、メディアに掲出できる痛車を作れるのは確かだ。

ここまで聞いていて筆者が感じたのは、岡野、園田両氏のキャラクターへの愛と著作者へのリスペクトである。これが芯にあるからこそ、そのキャラクターが生きるデザインにこだわるし、著作権処理もおざなりにできないのだろう。

クルマ屋だから、そして公認だからこだわる高品質な痛車づくり

「じおくりえいと」では、現在およそ30社、110作品、50万ビジュアルの商品化権を持っている。固定されたビジュアルのものも一部あるようだが、ほとんどの場合、車両形状やユーザーの希望に合わせて1台1台デザインし、1案件ごとに1製品として著作者に申請しているという。商品としての価値を損なわないよう、耐候性の高いステッカー素材にこだわり、デザインイメージと完成車の差異を最小限に抑えるため、同じエンジニアがデザインから施行までを担当する。

「画面上でデザインしたものを立体物に貼り付ける際に、どうしても細部にズレが生じますが、デザインした本人が施工すれば、かぎりなく元イメージに近い仕上がりを期待できます。あとはクルマ屋としての知識を生かして、貼り付け部ごとの特性を意識してパーツの分割や貼り付けの工夫をしていますね」(岡野氏)

ドアとの境目やエアロパーツ部分、ドアモール部分もきっちりと処理されている

もっともわかりやすいのが、ねじれの多いエアロパーツ部分への施工だ。廉価素材を車体形状と素材特性を無視して強引に貼り付けると、経年劣化と紫外線で硬化しねじれに耐えられなくなり、ステッカーが割れたり浮いたりしやすい。岡野氏の車両は看板車として4年前に施工して店頭で日光に晒され続けているが、退色も少なくエアロパーツ部分の割れや浮きも見られない。痛車だからと日常メンテナンスに特別な工夫をこらしているわけでもないそうだ。

「洗車機に入れるのだけはやめてくださいとお願いしていますが、それ以外に特別な対応はありません。ごく普通に洗車していただくだけで数年楽しんでいただける品質で提供しています」(岡野氏)

最近ではお店の認知度も高まり、コミケなどイベントのついでに立ち寄ってくれる関東圏外のファンも増えてきたとのこと。キャラクターへの愛もクルマへの愛も惜しまないという読者は、一度訪れてみるといいだろう。

じおくりえいと(J.I.O CREATE)
 営業時間 10:00~19:00
定休日 水曜日
 住所 埼玉県所沢市北秋津699-1
電話 04-2935-3590
 Webサイト http://jio-c.com/
 Facebook https://www.facebook.com/J.i.ocreate/

(重森大+ノオト)

[ガズー編集部]

<著作表記>
©VisualArt's / Key車両施工作品名:Angel Beats!