20世紀と21世紀、2つの東京オリンピックを見つめることを夢見て。1964年式トヨペット・コロナ デラックス(RT20型)

クルマを所有しているオーナーの手元に、5月に入ると届く自動車税の納付書。初年度登録から13年が経過したクルマには、通常よりも15%多く課税されていることは、該当するクルマを所有しているオーナーなら誰もが知っていることだろう。例えば、2017年を起点とすると、2004年3月以前に初年度登録されたクルマが対象となるわけだ。

2004年というと、(個人差はあると思うが)ついこの間のように感じられないだろうか?事実、まだまだ古さを感じさせないクルマも数多くあるし、現役として路上を走っているケースも少なくない。確かに、この時代よりも格段に燃費が向上し、衝突回避システムなどの最新のテクノロジーが搭載された現代のクルマを所有する意義は充分にあるだろう。しかし、これまでに絶えず日本のクルマを進化させてきたすべての個体を、いとも簡単にスクラップにしてしまうことには、正直にいうと疑問を抱かざるを得ない。まだまだ使えるクルマもたくさんあるはずだからだ。

今回、取材をさせていただいたクルマは、初年度登録から13年どころではない。それは、このクルマを見ればひと目で分かる。早速オーナーに話を伺ってみた。

「このクルマは、1964年式のトヨペット・コロナ デラックスです。『RT20型』という、トヨペット・コロナ(以下、コロナ)としては2代目にあたるクルマです。現在、私は51歳ですが、この個体は初年度登録から53年が経過しています。クルマの方が少し年上なんですね」。

そうなのだ。初年度登録から既に53年も経過している個体なのである。1964年というと、東京オリンピックが開催された年にあたるのだが、どのような経緯でこの個体を手に入れたのだろうか。

「この個体を所有して16年になるんですが、当時は『トヨタ・スプリンター カリブ ロッソ』というクルマを所有していたんです。丸目2灯のヘッドライトが特徴的なワゴンです。あるとき『私が幼少期の時代のクルマであり、さらにベンチコラムでMT車』が欲しくなったんですね。そんなわけで、実は始めからピンポイントでコロナを狙っていたというわけではありませんでした。雑誌で見つけた旧車専門店をクルマで見に行ったところ、コロナとスバル・1000が売られていて、コロナは3速MTのコラムシフト、スバル・1000 は4速でした。スバル・ 1000はどうもシフトチェンジがしっくりこなくて、コロナの方が気に入りました。ところが偶然、自宅から徒歩圏内のところにも旧車専門店があったんですね。そこにはフルシンクロのコロナがあり、思い切って買うことにしたんです」。

幼少期の頃のクルマを大人になってから手に入れるというエピソードは、この取材を続けていると、オーナーからしばしば伺うことがある。今回はどのような経緯だったのだろうか。

「私が3歳のときです。マイカーとして、トヨタ・カローラ(初代)が家にやってきたんですね。父親の職場は帰りが深夜になることもあったため、クルマが生活の必需品といえる環境だったんです。結局、このカローラには12年くらい乗りました。やむを得ず手放した理由は、当時、初年度登録から10年経過したクルマは1年ごとに車検を受けるという制度があったからです。毎年、車検を通すとなると、維持費が掛かりますからね。そんな経緯もあり、ホンダ・クイントに乗り替えました」。

カローラとお別れしたときのことは今も記憶にあるのだろうか。

「私が不在のときに、ホンダのセールスの方がクイントと入れ替えでカローラを乗って行ったようで、その場には立ち会えませんでした。それでも、手放す前にクルマを洗車するなど、親のクルマでしたが、自分なりの『お別れの儀式』はしたつもりです。家族旅行にも行った思い出のクルマですしね」。

そんなオーナーも、やがて運転免許を取得し、愛車を所有するようになった。これまでどのようなクルマを乗り継いできたのだろうか。

「最初の愛車は父親がカローラから乗り換えた、ホンダ・クイント SUです。それからスターレット(EP82型)、スプリンター シエロ、スプリンター カリブ ロッソ、ヴィッツ、アクアと、トヨタ車ばかり乗り継いでいますね。このコロナを手に入れたのは、先ほどもお伝えしたように、スプリンター カリブ ロッソのときです」。

トヨペット・コロナとしては2代目にあたるこの個体は、1960年に誕生した。まさに日本の高度経済成長期真っ只中に産声を上げたクルマだ。このコロナは、今では当たり前となったが、当時としては画期的な販売手法が初めて用いられた。それはティザー広告だ。「新しくないのは車輪(タイヤ)が4つあることだけ!」というキャッチコピーが新聞広告を飾り、シルエットだけを残してクルマの全容が分からないようにした広告を展開したのだ!この販売戦略が功を奏し、発表時にはかなりの注目を集めることに成功している。50年以上前にそんなエピソードがあったこの個体が、これほどのコンディションを保っていることに驚かされる。

「何しろ1960年代のクルマですからね。ボディは塗り直していますし、メッキも再処理しています。この色は、1980年代後半のカローラに採用されていた『メディアムベージュメタリック』というボディカラーなんです。前のオーナーが、オリジナルに近い雰囲気ということで塗ってもらったのでしょう。当時の塗装はクリア部分がラッカー系のため、表面の皮膜が蒸発して禿げてしまうんです。塗装だけでなく内装も傷んでいたので、友人に手伝いを頼んでシートなどの布を張り替えました。2人で生地の見本帳を見て、当時の雰囲気を壊さない素材と風合いを選んだつもりです」。

コロナのボディサイズは全長×全幅×全高:4030x1490x1445mm。デビュー当時は997ccだったコロナに搭載される水冷4気筒OHVエンジンの排気量は、マイナーチェンジ時に1453ccに拡大された。その結果、最高出力は45馬力から62馬力となった。当時、年々増加していくマイカー需要を満たすものでありつつも、好景気に支えられた庶民の希望に溢れる存在だったはずだ。余談だが、コロナの名を冠した最後のモデルとなった「コロナ プレミオ」の主なスペックは、水冷直列4気筒DOHCエンジンの排気量が1587cc、最高出力115馬力、全長×全幅×全高:4520x1695x1410mmだった。そんな、半世紀以上前に生まれたこの個体を維持していく上で、苦労はないのだろうか。

「実はこのクルマ、ネッツトヨタ店でメンテナンスしてもらっているんです。もう1台のクルマをずっと同じディーラーで乗り替えているので、増車扱いということで診てもらっています。もちろん部品の欠品もありますが、エアクリーナーやオイルフィルターなど、今でもこのコロナの専用部品も新品が注文できるケースもあるんですよ」。

この種のクルマといえば、専門知識や部品を取り揃えたショップが主治医かと思っていたが、意外な答えだった。既に16年の付き合いになるこのコロナ、どんなところがお気に入りなのだろうか。

「運転が優雅になることですね。それに、現代のクルマと比較しても遜色ない室内空間も気に入っています。実は燃費も意外に良くて、9〜15km/Lくらいは走るんですよ。今となっては古いクルマですし、思うように走ってくれないこともあります。そんなことが当たり前なので、人間関係でもイライラすることが減って、コロナを所有してから自分自身が人に対しても大らかになったように思います」。

確かに、古いクルマに現代の性能やトラブルフリーを求めるのは、あまりにも酷な話だ。かといってイライラしても解決するわけではない。多少、大らかになるくらいの方が、良い結果に結びつくのかもしれない。しかし、メーター周辺にはエンジン始動時の注意書きや推奨オイル、オドメーターの表示された距離などの手書きのメモが貼られており、愛車のコンディションを維持するためのオーナーなりの気遣いもひしひしと感じられる。最後に、このクルマと今後どのように接していきたいか尋ねてみた。

「このクルマを車歴60年まで乗ろうと決めていたんです。ところが最近エンジントラブルがあり、オーバーホールせざるを得なくなりまして···。こうなった以上、車歴60年といわず、可能な限り乗り続けたいですね」。

この個体が生産されたのは1964年。つまり、東京オリンピックが開催された年だ。次の東京オリンピックが開催される2020年まであと3年。現在の車歴が53年、オーナーが60年以上を目指しているということは、必然的に次の東京オリンピックをこのクルマと過ごすことになる。縦長のテールライトは、現代のクルマではまず見掛けることはないだろう。夜間に見掛けたら、ロウソクの炎のように見えるかもしれない。否、オリンピックの聖火はさすがに言い過ぎだろうか。20世紀と21世紀、それぞれの東京で開催されるオリンピックを、このクルマはどのような思いで見つめることになるのだろうか。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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