旧車をあえて日常で、そのラフさがカッコ良い

旧車といえば、壊れやすくトラブルが多くて乗りづらいのでは、という先入観を抱く人は少なくないだろう。しかし、そんな先入観をまったく感じさせず、自分なりに旧車ライフを送る1人のオーナーに迫りたいと思う。

今回紹介するのは、旧車オーナーが所有する日産・初代フェアレディZだ。正確に言えば、左ハンドルの逆輸入車であるため、「ダットサン・240Z」というのがこのクルマの本当の名称だ。そして、このクルマのオーナーはまだ24才だという若さに驚きだ。今年でZを所有して5年というので、19才の頃からこのクルマを所有していることになる。

もともと旧車を所有してみたいという願望があり、クルマを探していたオーナー氏のところに思わぬ話が舞い込んだ。幼少の頃より近所の人が所有していたこのZの前オーナーが、海外へ転勤することが決まり、乗れなくなってしまうということで、ぜひ自分に譲ってほしいと打診したところ見事に交渉成立し、所有することとなった。幼少の頃から眺めていたクルマを未来の自分が所有してしまうなんて、当時のオーナー氏は夢にも思わなかっただろう。

そして、このフェアレディZをきっかけとして多くの人達と巡り会えたという。クルマという共通の趣味を持った間柄ではあるが、気の置けない飲み仲間のような関係へと変わっていった例もある。その中には、共に音楽が趣味ということが分かり、バンド活動をするようになった間柄の友人もいるそうで、このように人との関係を築くツールとして趣味性の高いクルマというのはやはり優秀なツールなのだろう。

Zをメンテナンスしてくれるショップを紹介してくれたのも、この人々とのつながりがきっかけとなったそうだ。プロにクルマを任せきりにするのではなく、旧車を乗る上では何が調子の悪い状態なのか、何が大丈夫なのか、その基準をオーナー自身がきちんと把握することが重要だということ。それは色々なクルマを見て触れることで得られる知見なのだということ。こういったアドバイスも、Zを介して知り合えた人々との繋がりによって、自分のクルマの状態を把握できるようになっていくのだと実感したそうだ。メンテナンスなどを行うショップを選ぶ基準は、元々レース活動を行っていたところや、サーキットでクルマを走らせていることなどを考慮していそうだ。

旧車であるからといって特別扱いをせずに、普通のクルマとして扱っている。あえてラフに乗るというのが彼のスタイルだ。もちろん近所への買い物にも使うし、神戸まで自走でドライブもこなすというから驚きだ。雨天でのドライブも臆することなく使ってしまうという。さすがに、現代のクルマと比較すれば燃費が悪く、エアコンが快適に効くわけではないが、そんなことはあまり気にならない。それ以上に、このクルマをドライブする楽しみのほうが上回るし、ドライブしている以上は気にならないそうだ。

このメーターにもそのラフさが表れている。逆輸入車なのでマイル表示となっているスピードメーターなのだが、その上から白いペンで「km/h」の表示を書き足している。こういった点がむしろかっこ良く見えてしまうから不思議だ。

乗る上で注意している点としては、冷間時の始動に暖気をすること、音や匂いから異常を感じることを意識しているそうだ。走行中も、音と匂いというのはクルマの調子を判断する重要なポイントだという。いまとなっては、キャブレターの調子がおかしければ、音や匂いで瞬時に判断できるそうだ。キャブレターは、ウェーバー製の45φのサイズへ換装してある。チョークがついていないため、始動するときはアクセルを軽く踏んで燃料を送らせる必要があり、そうしないとエンジンがかからないのだ。

このクルマに乗るようになって、オーナー氏はクルマに限らず、古くて良い物に意識が向くようになったという。この瞬間は最新であっても、時が過ぎれば過去の産物へと変容してしまうケースがほとんどだろう。新しいものを追うことをせず、古くて良い物を持ち続けたいという気持ちがオーナー氏には強くある。なぜなら、その古くて良いものというのは、これからも古くて良いものであり続けるのだから。これは楽器や洋服などに対しても同様な考え方を持っているという。

少し放っておくとどこかが調子が悪くなってしまうところなど、どこか女性を連想させる部分にはクルマにはあるが、だから男というものはクルマに魅了されてしまうのではとオーナー氏は語る。旧車は、その部分が現代のクルマと比べれば色濃く感じられる。オーナー氏にとって、このZはすこし手のかかる、魅惑的かつ理想的なレディなのだろう。

このZの気に入っている点は見た目だというが、所有した初めてのクルマでもあるということで、色々な記憶や思い出がこのクルマと共にあり、代わりのきく存在ではないという。

70年代〜90年代にかけてのパンクロックが好きなオーナー氏、具体的にはバッド・レリジョンやNOFX、ザ・クラッシュ、ピストルズといったバンドを好んでいて、その魅力はシンプルでありながらもかっこ良いところであり、それはあえて作れるようなものではないという。それは旧車にも類似している点なのかもしれない。構造的にはシンプルではあるが、今のクルマでは実現し得ないパッケージングやサイズ、ルックスであることが魅力的に感じられる大きな要素なのだろう。事実、このZにはバンドのステッカーが無数に貼られてある。

トランクのダクトは69年式や70年式といった初期のモデルに見られる特徴だそうだ。エクステリアの変更点としては、輸出仕様車ではドアミラーとなっているところを、フェンダーミラーへ交換され、エンジンルームが赤く塗られている点が、かつてこのクルマの車体色が赤色だったことを物語っている。このZは平成4年に日本で初めて登録されている個体で、日本では4人目のオーナーとのこと。マフラーは日産・スカイラインGT-R(ハコスカ)と同じエンジンが搭載されたZ432に使われているものと同形状で、流用していると考えられる。

このZを見た時に感じてしまうのは、アメリカの雰囲気だ。オーナー氏も横浜という異国情緒が色濃く感じられる土地に育ったこともあり、幼少期から自然とアメリカの文化に慣れ親しんだという生い立ちも影響しているのかもしれない。傷がついても気にせずに乗っていたり、ステッカーを自由に貼っていたりする扱い方が、アメリカのストリートの雰囲気を滲み出している。傷や凹みがあるからといって、マイナスな印象を全く感じさせることがなく、かえって深い味わいを演出している点など、実に魅力的ではないか。

現代のクルマは進化しているように見えるが、根本的な部分はあまり変化が無いのではとオーナー氏は語る。移動手段の道具としても、旧車は十分に機能もするのだ。だからこそ、旧車だからといって色々なことに気をかける必要はなく、ラフなスタイルでも十分に使うことができるという。トラブルが出てしまうことを心配して、この類のクルマに乗ることを躊躇してしまう人も多いかもしれないが、決してそんな必要はないと伝えたい。

さらに、クルマの楽しみ方も人それぞれで、手を加えて性能を上げることに夢中になったり、速く走らせることに夢中になったり、あるいは1つのファッション、ライフスタイルの一部として楽しむといった様々な楽しみ方がある。どこかの型にはまらずに自分なりにクルマというものを楽しむ、というのがやはり一番楽しいのだと思った。そして、その多様な価値観を尊重し合うことができれば、より一層豊かなカーライフを送ることができるのではないのだろうか。

・ベース車両:ダットサン 240Z
・年式:1970年
・オーナー:T氏(24才)
・所有年数:5年

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road