中学生のときに一目ぼれしたトヨタ クレスタ。30年の時を経て出会い入手し、無償の愛を注ぐ

子供の頃にディーラーのショールームに展示されていたキラキラと輝いていたトヨタ・クレスタ(JZX90)に一目ぼれ。しかし、実際免許を取得すると、MR2、レパード、ポルシェと異なる方向性のクルマを追い求めていた。一目ぼれから30年、やっぱり、クレスタ乗りたいとの思い苦労して入手し、たっぷりと愛情を注いでいる真っ最中だというオーナーさんに、お話を伺いました。

ひと昔前はクルマの寿命や買い替えサイクルの基準として“10年10万キロ”というワードが一般的だった。確かに10年も経過すれば経年劣化で不具合が出てきたり、大掛かりな修理で痛い出費となってしまったりすることもあるだろう。また、その間に省燃費性能や安全性能などが格段に向上した新型車が登場しているのだから「そろそろ買い替えようかなぁ〜」という気持ちも湧いてくるというものだろう。
しかし、そんな革新的技術を投入した最新モデルではなく、中学生の頃に煌びやかなニューモデルとして目にしたトヨタ・クレスタ(JZX90)に憧れを抱き、30年越しの夢を叶えて手に入れたというのが、山形県在住の藤原慎也さんだ。

「中学生の頃に父親がトヨタビスタ店に勤めていて、よくクルマを見にいっていたんですよ。その時、新車として店内に展示されていたのがこの型のクレスタだったんです。店内の照明に照らされていたクレスタを見たら、ひと目惚れしちゃいましたね」
とはいっても、免許を取ってすぐに乗り始めたのはトヨタ・MR2(SW20)。その後も前モデルのMR2(AW11)に乗り換えるなど、憧れていたクレスタではなくスポーツカーを乗り継いでいる。一時期は日産・レパード(F31)やグロリア(Y31)を所有したものの、その後に辿り着いたのはポルシェ・911(996)。やはりスポーツクーペへと食指が動いてしまっていたのだ。
「1度は所有してみたいと思ってポルシェを買ってみたんですが、そのときに改めて気づいたのが『あのクレスタに乗りたい』っていう思いだったんです」
はじめて目にしてから30年近い時間が経過してしまったが、長年の片思いを成就すべく理想に思い描いたクレスタを探しはじめたのであった。

クレスタは1980年にデビューした“マークⅡ三兄弟”の末っ子。JZX90型は4代目モデルとして1992年に誕生し、パーソナルセダンとして販売台数を伸ばすとともに、2500ccターボエンジンの1JZ-GTEを搭載したスポーツモデルは中古車として海外からの人気も高まり、2000年代に入るとロシアなどに輸出されていく個体も少なくなかったようだ。
「JZX90クレスタって新車当時はたくさん売れたクルマのはずなんですが、現在では探すとなかなか出てこないんですよね。海外に輸出されていたのもありますが、2009年くらいにはじまったスクラップインセンティブの頃にちょうど底値のタイミングだったので、補助金と引き換えに廃車にされてしまった個体も少なくなかったのかなぁ」と藤原さん。

そんな藤原さんが探したのは、あの時ショールームに飾られていたウォームグレーパールマイカの最上級モデル『2.5スーパールーセントG』。ボディカラーもグレードも限定し、なおかつフルノーマルで納得のコンディションを追い求めていたため、希望の個体を探し出すのは想像以上に難航したという。
お願いしていたショップでは手頃なベース車からフルレストアという提案も受けたものの、満足度はフルオリジナルの方が高い。レストアによる自分だけのクレスタではなくあの時見たままの姿を手にいれたいと考えたのである。

「妥協しないで1年くらいかけて探してもらった結果、フルノーマルのワンオーナー車が見つかったんですよ。走行距離は5万2000kmほどしか走っておらず、車内にはまだビニールも残っていたくらいで前オーナーが大事にしていことこを随所に感じられる車体だったこともあり即決しました。そこから万全な状態に整備を行なってもらったので、予算としては想定の3〜4倍ほどかかってしまいましたが、まさしくあの当時に見たままのクレスタを手に入れたという感動は、お金には変えられませんね」

旧型車を購入する場合、憧れの気持ちが強すぎると、いざ乗ってみたら想像を裏切られたということも少なくない。特に新しい年式からの乗り換えとなると性能の差が大きく、百年の恋も冷めてしまうことだってあり得るのだ。
しかし、藤原さんがはじめてクレスタのハンドルを握った時の感想は「質実剛健なTHE TOYOTAな感じ」と好印象だった様子。
「ポルシェと比べると乗り味にも派手さはないんですけど、ボディの剛性感など乗れば乗るほど好きになっていきますね。サスペンションもソフトで上級セダンらしい乗り味は、想像していた通りって感じで大満足です」
仮に免許を取ってすぐに乗ってしまうと、ノーマルを楽しむことなくカスタマイズに没頭したり、しばらくして飽きてしまったりなんてことも考えられるだけに、遠回りしてさまざまなクルマを経験してきたことが、クレスタをじっくり堪能するうえで奏功したと言えるかもしれない。

「1JZ-GEエンジンは耐久性もありますし、NAでもパワーは十分。ファミリーカーとして現代でも活用できるのは、さすが30年前とはいえトヨタの上級セダンだと思います。今のコンディションなら動態保存しながら後世にも残せると思いますが、子供たちはクルマに興味を持ってくれないんですよね…」
上の息子さんは現在中学3年生。ちょうど藤原さんがクレスタに出会い、ひと目惚れしたのと同じ世代だという。このクレスタに興味を持ってもらい、将来的には受け継いでもらえればと考える気持ちは、共感するひとも少なくないのでは?

スーパールーセントGに標準装備されるスペースビジョンメーターは、90年代を象徴する装備のひとつ。通常のアナログメーターではなく近未来感を印象付けるメーターデザインは、当時中学生だった藤原さんの心を鷲掴みにしたという。

また、最上級モデルだからこそのオプション装備として、当時最先端でもあったGPSナビゲーションシステムも搭載。今でこそ当たり前となっているナビシステムも、当時は選択できる車種がアッパークラスに限られていたが、組み合わせる人は極わずかだったのだとか。こういった装備が残されていることも、藤原さんにとってうれしいポイントだ。

上級セダンとしては快適なクルーズも必須の性能。そのためクルーズコントロールや当時としては革新のABSユニットも搭載されている。もちろんクルーズコントロールユニットは現役で完動するため、長距離の高速移動なども快適なのだとか。

ボディカラーのウォームグレーパールマイカには、ベージュカラーの内装が標準の組み合わせ。屋根付きで保管されていたこともあったため、レザーステアリングやシート、ダッシュボードの劣化もなく、まさに新車に近いコンディションを保っている。また、レースのシートカバーなど、当時のディーラーオプション品も綺麗なまま残されている。

当時から持ち続けているカタログや、ビスタ店のステッカーなどからも深い愛情が感じられる。キーホルダーはクレスタの純正品を使用しつつ、未使用品もストックしているという徹底ぶりだ。

低走行かつ完璧な整備が行われていることもあり、手に入れて2年あまりの間にトラブルは一切なし。エンジンの調子も不安なく天気のいい日にはのんびりとドライブを楽しめるのだが、問題はパーツがどんどん入手しにくくなってきていることだという。
エンジン周りはまだひと通り揃うものの、細かいパーツが徐々に入手できなくなってしまっているため、コンディションの良い中古をストックしたり、ないパーツは自作したりと苦労することも多く、場合によっては部品取り車を入手することも検討しているのだとか。

はじめての出会いから30年。妥協することなく探し求め、ようやく手に入れたクレスタは、当時見た新車と変わらない輝きを放っている。
そして、今後もこのノーマルコンディションのまま動態保存を目指し、後世に残していきたいと考えるほどの満足感を与えてくれる唯一無二の存在だ。

取材協力:旧弘前偕行社

(文:渡辺大輔 撮影:金子信敏)

[GAZOO編集部]