NAからNC、そしてNDへ。2015年式マツダ ロードスター Sレザーパッケージ(ND5RC型)

去る2014年9月4日、千葉県浦安市にある舞浜アンフィシアターで1台のクルマがデビューしようとしていた。通称「ND型」といわれる新型マツダ ロードスターだ。

メディア関係者に加え、争奪戦のすえに入場券を手に入れたロードスターファンたちが固唾を飲んで見守るなか、デビューイベントが進んでいく。そしてクライマックス。15秒のカウントダウンのあと、荘厳なBGMとともにスモークのなかからゆっくりと新型ロードスターが姿を現した。

アンベールのセレモニーが終わった瞬間、万雷の拍手が会場内に響き渡った。「これが新型ロードスターか!」。会場に居合わせた歴代オーナーは喜びと戸惑い(乗り替えるか、乗り続けるか?)の感情を抱き、オーナー予備軍の多くが欲しいと思ったに違いない。きっと、短い時間のあいだにさまざまな思いが交錯したことだろう。

それはマツダ関係者も同様だったはずだ。ファンにとっては最高に興奮する瞬間であると同時に、関係者にとって胃が痛くなるような時間であったことは想像に難くない。勝負は一瞬で決まる。自分たちにとっては自信作であっても、評価するのはあくまでもユーザー(しかも目の前にいるのは熱狂的なファン)たちだ。しかし、アンベール後の生の反応を見たことで、安堵するとともに手応えを感じたに違いない。

今回、ご紹介するオーナーは、初代モデルにあたるNA型ユーノス ロードスターが新車で販売されていた時代に手に入れ、先代モデルであるNC型を経て、現行モデルのND型を所有している。ロードスターの魅力とは?そして、なぜ2代目にあたるNB型を手に入れなかったのか?そのあたりにも触れてみたいと思う。

「このクルマは2015年マツダ ロードスター Sレザーパッケージ(ND5RC型、以下ロードスター)です。手に入れたのは3年前。実は新車ではなく、ディーラーの認定中古車なんです。手に入れてからこれまで1万キロくらい走りました。当初はMTもいいかなと思ったんですが、たまたま出会いがあったのがAT車だったんです」

クルマ好きであれば「マツダ ロードスター」の名を知らない人を探す方が難しいかもしれない。それほどの高い人気と知名度を誇り、熱狂的なファンからライトユーザーまで、老若男女を問わず幅広い層に支持されているクルマといっていいだろう。

オーナーが所有するロードスターのボディサイズは全長×全幅×全高:3920×1740×1240mm。排気量1496ccの直列4気筒DOHCエンジン「P5-VPR型」が搭載され、最高出力は131馬力である。

余談だが、冒頭で触れたイベントは「マツダ ロードスター THANKS DAY IN JAPAN」と銘打って開催された。実はこのイベント、クルマが間近で見られる特等席はメディア関係者向けではなく、熱心なロードスターファンのために用意された。これは異例ともいえる。これこそマツダの粋な計らいであり、ファンを大事にしている何よりの証といえそうだ(事実、マツダの心意気を感じ取ったファンは少なくないはずだ)。

いまや、名実ともに日本を代表するクルマの1台に挙げても差し支えないであろうマツダ ロードスター。その原点ともいえるユーノス ロードスターを新車で手に入れたオーナー、当時のことを振り返ってもらった。

「手に入れたのは確か1993年だったと思います。私の年齢は69歳ですが、もう27年も前になるんですね。たしか、白いボディカラーで、1.6リッターとしてはほぼ最終モデル(MT)を購入しました。雑誌でロードスターのことを知り、デビュー当時から気になっていたんです。しかし、既に他にクルマを所有していましたし、自宅に停められるのは1台のみ。わざわざ駐車場を借りてまで買うべきか悩んでいるあいだに数年経っていたと記憶しています。でも、何度かディーラーで試乗しているうちにロードスターに魅了されてしまい、とうとう月極の駐車場を契約して購入してしまったんです」

当時、ユーノス ロードスターに魅せられた人が感じた喜びをオーナーも存分に味わったようだ。しかし…。

「手に入れた当初は夢中になって夜中まで走り回っていましたね。理屈抜きに運転が楽しい!何しろクルマから降りたくないんですから(笑)。でもあるとき、月極駐車場に停めてあったロードスターの幌が切られていたんです。張り替えることも考えましたが、また切られてしまう可能性もある。そんな心配をしながらロードスターを所有することが辛くなり、手に入れてから半年ほどで手放してしまったんです」

念願叶ってようやく手に入れたユーノス ロードスター、幌を切られていたことを知ったときの心境は察するにあまりある。ロードスターファンであればご存知だと思うが、当時、純正のハードトップが用意されていた。これを装着することは考えなかったのだろうか?

「その都度、ハードトップを付けたり、外したりするのは大変ですし。それにロードスターは“オープンにしてナンボ”だと思っていますから」

ユーノス ロードスターの純正ハードトップの重量や大きさ、置き場所を考えると、いちど装着したらよほどの機会がない限り、取り付けたままになるだろう。実は幌を切られてしまった体験がトラウマとなり、しばらくロードスターとは疎遠になってしまったのだという。

「当時から、メインで使うクルマは歴代のスバル レガシィ ツーリングワゴン、現在はレヴォーグというカーライフは不変です。セカンドカーとしてオープンカーを所有することで、ステーションワゴンでは味わえない世界を楽しんでいます。実はユーノス ロードスターを手放したあと、オープンカーへの想いが断ち切れずにいました。当時は他のモデルにも興味があったので、NB型が発売されていた時期にはMG-Fやフォルクスワーゲン ゴルフ カブリオレに乗っていたんです。このときも幌を切られる心配があったので、メインのクルマを月極駐車場に置いて、オープンカーを自宅に停めました。

輸入車のオープンカーを2台乗り継いでみた結果、実際には故障が多く、またクルマそのものの面白さでもロードスターの方が上回っていることを再認識しましたね」

結果として、オーナーが再びロードスターを手に入れるまでに16年の歳月を要したという。そしてあるモデルが発売されたことがきっかけとなり、再びロードスターオーナーとなったのだ。

「3代目ロードスターにあたるNC型にメタルトップを装着した"RHT"というモデルが追加されたんです。これなら幌を切られる心配もありません。さらに電動開閉式なので、ボタンひとつで屋根を開け閉めできる点も魅力でした。このときはATを選びましたが、エンジンの排気量が2リッターなので、高速道路の移動も快適でしたね。その後、自宅にもう1台クルマが置けるようになったことで、現行モデル、それもソフトトップに乗り換えることにしたんです」

運動性能にこだわるロードスターファンであれば、車両重量の増加を気にするかもしれないが、オーナーは「屋根を開けてロードスターで走ること」に魅力を感じているようだ。サーキットでスポーツ走行を楽しむユーザーだけでなく、屋根を開け放ってAT車でゆっくりと走りたいという人も少なからずいるはずだ。ロードスターはそんな幅広いユーザーのニーズに応え、走る楽しさや喜びを堪能させてくれる希有な日本車かもしれない。

オーナーの自宅は市街地にあり、時間が空いたときに愛車の運転を楽しみながら山荘に向かい、静かに過ごす生活を楽しんでいるという。その道中は主にレヴォーグで移動し、その日の気候や気分に応じてロードスターを使うこともあるようだ。レヴォーグについては以前取材させていただいたことがあるので、こちらも併せてぜひご覧いただきたい。

実用的でありながら走りも楽しめるステーションワゴンと、2シーターのオープンモデル。いずれも輸入車であればより選択肢の幅が広がることも事実だが…。

「確かに輸入車に惹かれたこともあり、実際に所有してみました。ところが、日本車では考えられないような故障をするんですね。その結果、信頼性に疑問を感じるようになりました。また、日本車よりも割高な印象がどうしても拭いきれない印象があります。

また、ロードスターも、初代モデルと比較して(仕方がないとはいえ)ずいぶん高くなったなと感じたことも事実です。そこで、費用を抑えつつ楽しみたいということで、認定中古車を手に入れたんです」

クルマを購入する際、青天井の予算でお金を掛けられる人は少数派だろう。新車のように自分がファーストオーナーではないかもしれないが、好みや保証などの条件がクリアされるのであれば、認定中古車を選ぶのもひとつの選択肢といえるかもしれない。

「数えてみたら、これまで25台のクルマを所有してきました。そのなかでも忘れられないのがスバル アルシオーネSVXですね。グレードはS4だったと記憶しています。あのクルマは名実ともにグランドツーリングカーでした。その後『どうしても欲しい』という方にお譲りしてしまったんですが、このクルマはいまだに強く印象に残っていますね」

これまでさまざまなクルマを乗り継いできたオーナーに、改めてこのロードスターの魅力を伺ってみた。

「昔は、多くの日本車が4年ごとにフルモデルチェンジしていましたよね。現行モデルのND型ロードスターが発売されて5年も経ったとは思えないほど、完成度の高いデザインです。幌を開けているときはもちろんのこと、閉じていても美しいフォルムも魅力的です。それと、特に気に入っているのは“乗り味”です。パワーはそれほどではないけれど、まっすぐ走っても曲がっても楽しい。用事がなくても“ロードスターに乗りたいから”という理由で出掛ける気にさせてくれる。それでいて実用性もあるし、壊れない。こんな魅力的なクルマはなかなかないでしょうね。欠点はほとんどないけれど、しいていえば、AT車だとパワー不足を感じます。先代と同様に2リッターモデルを追加して欲しいと思いますね」

最後に、今後この愛車とどう接していきたいかを伺ってみた。

「自分にとってのカーライフは、レヴォーグ(レガシィ系統)とロードスターの組み合わせがベストだという結論にいたりました。若いときは短いサイクルでクルマを買い替えましたが、最近になって長く乗り続けることで愛着が深まっていき、本当の“愛車”になるんだなぁと気づいたんです。レヴォーグがメインで、ロードスターに乗るのは年間で3〜4千キロくらい。きちんと整備すれば10年くらいまったく問題なく乗れるでしょうから、このクルマとは長く付き合いたいですね」

モデルチェンジのたびに最新のクルマを手に入れることで、技術の進化を感じ取れるのは確かだ。その反面、愛着が湧く前に手放してしまうことになる。1台のクルマという工業製品が少しずつ馴染んでいき、やがて長く乗れば乗るほど愛着が湧いていく…。そしていつしか離れがたい存在となる。これは借りモノのクルマでは味わえない世界であり「愛車を所有する者」の特権だ。

もし、クルマの購入を迷っている方がこの記事を読んでくださっているとしたら…。ぜひいちど「クルマを所有する喜び」を味わっていただきたいと思う。

「数ある工業製品のなかで『愛』がつくのはクルマだけ」。この意味をきっと実感していただけるに違いない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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